1 グレイヴワームのボス
【これまでの話(Side:タケル)】
転生病棟で死の淵からよみがえったタケル。矛盾する記憶を抱え、マリウスらとともに転生病棟を脱出した。だが、病棟幹部アイン・ソフ・オウルのヴァンサンに襲撃され、再教育施設に連れ去られる。再教育施設ではミッシェルらとの協力により脱出に成功するも、グリフィンを犠牲にする結果となってしまう。
脱出後、タケルはマリウスらと合流。そして示唆される最悪の未来。タケルたちは最悪の未来を回避すべくレムリア大陸の各地で未来を変える協力者を探すことに。大陸各地でタケル一行は様々な協力者と出会う。
大陸を巡る旅の道中。北の街、パロでは研究所を調査する。そこでミッシェルは正気を失い、さらにアイン・ソフ・オウルのひとり、ガネットとも接敵する。正気を失ったミッシェルとガネットという強敵に苦戦する一行だが、パーシヴァル一行が駆けつけ、どうにか撃破する。さらにミッシェルも正気に戻る。
次なる目的地は大陸南部・グレイヴワームの町。
これまでの旅路とは違い、マリウスの表情は固い。
当然だ。必要であるとはいえ、彼自身にとって忌まわしい土地へと向かっているのだから。
車を運転すれば嫌でもグレイヴワームの町へと近づく。マリウスは今にでもこの旅をやめてしまいたいと考えていた。
「わかるよ、マリウス。良い気分はしないって」
タケルがぽつりと言った。
「……ああ」
それだけをマリウスは言う。
やはり彼はこのところ、どこか変だ。
一行がグレイヴワームの町に到着すると、まず鮮血の夜明団グレイヴワーム支部へと向かった。
グレイヴワーム支部はレンガ造りの重厚な雰囲気を醸し出す建物が特徴的な場所。かつて対吸血鬼の拠点として整備され、今でも保守的な者はグレイヴワームこそが中心と謳う。が、現支部長はそのようなことなど一切考えていないよう。
一行はそれぞれの思いを抱えつつ応接室へと通された。
「よく来てくれたな、タケル。マリウスもスティーグもアカネも、相当シビアな戦いを乗り越えたと見た。ミッシェルとエステルも会えてうれしいぞ」
支部長イザーク・フォン・ラムシュタインはタケル一行を歓迎している様子だった。
とはいえ、マリウスやスティーグとひけをとらない体格、鋭い目つきだ。威圧感はそれなりにある。
「お久しぶりです、ラムシュタイン支部長。ええ、北での戦いは死者が出なかったことが奇跡です。ひとりでも誰かいなければ確実に死者が出ていました」
ラムシュタインを前にしてそう答えたのは、度胸のあるアカネだった。
「そうだな。ユーティライネンから聞いたぞ。味方を半ば人質に取られた状況かつ敵幹部でも相当な実力者が相手。お前達、本当によくやった。で、マリウス」
ラムシュタインがそう言うと、マリウスは身構える。
「5年前から色々と変わった。そろそろ戻ってこないか?」
「そう言うと思いましたよ、支部長。もう本部所属なのでこっちには戻れませんよ。保守派がどうのとか関係なく」
ラムシュタインの勧誘を一蹴するマリウス。
「はっはっは、そうだよな。安心した。ところでな、昨日Ω計画関係者をとっ捕まえた。地下牢に放り込んでおいたが、見るか?」
ラムシュタインは続け、とんでもないことを口にした。
彼はマリウスの上司だった頃からよく突拍子もないことをしていたのだ。
「Ω計画関係者……ですか」
そう言ったのはタケル。
「お、興味あるか?」
「あります。会わせてください」
ラムシュタインが尋ねると、タケルは答えた。
どの立場であっても会えるのなら――と。
「そうかい、興味があるやつはついてこい。お前たちが来てやつが口を割ってくれるのなら拷問する手間も省ける」
と、ラムシュタインは言う。
彼の言葉を耳にして、マリウスは頭を抱えた。
「体制が変わっても伝統の拷問は変わらねえってか……相手が相手だがどうにも……」
そうして、一行はラムシュタインに案内されて地下牢へと向かう。
クラシカルな造りのグレイヴワーム支部。地下牢へと続く階段もどこか遺跡のよう。空気は重い。
「この地下牢、遮音性が高いからな。拷問にはうってつけだ。って、なんでグレイヴワームの価値観が嫌だった俺がこういうこと知ってんだか」
ぽつりとマリウスが口にする。
「だからこそ嫌になったんだろう。ま、考えは人それぞれだ!」
階段の先の地下牢にたどり着くと、そこで待っていたのは拷問器具を積んだ台車を携えたピンク髪の若い女。年齢はアカネやミッシェルと同じくらいだろうか。
「あ、支部長! 拷問の準備はできていますよ! 何をしましょう? 車裂きですか?」
その女は狂っているほど目が綺麗だった。
「シャンタル・フェルベルネ……目が綺麗なタイプの鬼だ。コンプラ違反の保守派の腐れ外道を拷問したのは俺も覚えてるぜ」
その女の姿を見たマリウスはそう言った。
「マリウスさん、そういう言い方はひどくないですか!? 私、クロル家の出資者で組織を腐らせたやつを拷問しきったんですから! あ、シャンタル・フェルベルネです。錬金術師兼拷問執行官です」
シャンタルは名乗る。
若くとも、彼女の放つ圧と狂気は本物。どこか本部所属の水鏡初音にも似た雰囲気で、タケルは身構えた。
「安心して下さいね、私が拷問するのはΩ計画の関係者。ウチの研修生を実験体にしたあげく、死なせた報復もかねて拷問するわけですが。支部長、何を――」
「拷問は少し待て。彼らには何か話すかもしれん」
暴走しかけたシャンタルをラムシュタインが止める。
タケルはラムシュタインに案内されて地下牢の奥へ。異様な雰囲気の中、ラムシュタインは施錠された独房を前にして立ち止まる。
「さてと、タケル。件のΩ計画関係者は彼なんだが……」
ラムシュタインは言った。
独房の中にいたのは四肢を拘束された金髪の男。服装は鮮血の夜明団指定の囚人服。だが、シャンタルの言葉の通りΩ計画の関係者――どころか転生病棟ではない研究所に配属されているような研究者であることに間違いなかった。
「知ってるよ……僕がNo.11だった頃、この人は何だったかわからないけど人体実験を担当していた。確か、人間を若返らせる……」
タケルは呟いた。
【登場人物紹介】
イザーク・フォン・ラムシュタイン
鮮血の夜明団グレイヴワーム支部の支部長で、マリウスの元直属の上司。世代最強とも言われる戦闘力の持ち主。
シャンタル・フェルベルネ
グレイヴワーム支部の拷問執行官。ラムシュタインの指示で拷問を行う。目的は情報を得るため、報復のためなど様々。マリウスいわく、目が綺麗なタイプの狂人。




