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23 見た目無から有を作り出す

 今――錬金術の発動は封じられた。

 ここは絶対零度の世界。停止する世界。そんな中で最も有利に戦えるのは当然零だ。


「ここで決める――」


 零は氷のナイフでガネットの首筋を狙う。

 ガネットの懐に飛び込み、刃を振るう。だが。


 ガネットはいとも簡単にその攻撃を外す。そして。絶対零度は能力の使い手、他ならぬ零を無力化すれば解除できる。

 だからガネットは零に蹴りを入れる――当たり所が悪かった。

 吹っ飛ばされる零は痛みに悶絶し。イデアの展開さえもできなくなり。周囲の温度は一気に上がる。

 これが意味することは錬金術を使えるようになるということ――


「残念だったな。だが近づかせはしない」


 ガネットは温度が上がる中。ナノースと通常の錬金術を同時に発動した。

 連鎖的に爆発が起きる。爆発にさらに術式を乗せ、それは周囲に広がる。


「まずい! 伏せろ!」


 スティーグは言う。

 だが、彼の言葉に背きガネットへと突っ込む者が一人。タケルだった。


「今がチャンスなんだ! 僕にとっては!」


 タケルはそう言って爆発の中へ。


「タケル! 無茶だ!」


「その爆発に巻き込まれたらどうなるかわからないのに!」


 スティーグとニッテは口々に言う。

 聞き入れないタケルはそのまま爆発の中へと突っ込む。それが術式だとタケルは理解していたから。


 爆発にさらされ、爆発で衝撃を相殺し。受けた傷はすべて再生する。そんな中でも術式の解析は忘れない。

 彼自身がアイン・ソフ・オウルを討つ鍵なのだ。


 爆発をかいくぐり、タケルはガネットの眼前にまで迫る。


「……来たか。蘇りのNo.11、我らが引き入れるべき錬金術師」


 ガネットはそう言い。

 空気から透明な、輝く手錠を作り出す。


 それとほぼ同時にタケルはガネットの身体に触れる。


「勝負あったね。術式を解析した時点で僕の勝ちだ」


 タケルがそう言うと、ガネットの身体にはタケルのナノースが流れ込む。

 予防接種によって強化された免疫が病原体を攻撃するように。ガネットの肉体はむしばまれ。ついに彼女は血を吐いて倒れた。


 勝ったのだ。

 タケルが。錬金術師としてもナノースを持つ人物としても格上のガネットに。

 スティーグもロゼも目を丸くしていたが、ニッテだけは違う。


「……心音が聞こえる。タケルが一撃必殺のナノースを持っていたとしても、全員に通用するわけじゃないみたいだ。彼女みたいに、あれだけで死なない人もいるのか」


 と、ニッテは呟いた。

 それが何を意味するか。答えはすぐに明らかになった。


 ガネットが横たわったまま、フロアに術式が貼られ。

 不意打ちかのように地面から棘が現れる。


 彼女と交戦していた全員がその不意打ちを間一髪で躱した。

 それと同時にガネットは立ち上がり。避けた方向が分かっていたかのように塵の塊を作り出して弾丸のように放つ。

 避けられたのは、ニッテだけ。

 そんなニッテは棘を利用してガネットの死角へと回り込む。


「なぜ……わかった!?」


 ガネットはそう言いつつ、ニッテの剣をダガーナイフで受け止める。


「錬金術師ならこうすると思った。情報があったんだよ。あんただとは分からなかったけどね」


 ニッテは言った。


「そうか。その情報がどこまで影響を及ぼすか、見物だな」


 と言って、ニッテを振り払い。

 たたみかけるようにして彼女に斬り込んだ。その刃には術式も刻まれている。当たればひとたまりもない。


 ニッテも体勢を立て直し、まずは斬撃を躱す。

 が、それから遅れて爆発。ニッテはそれすらも見抜いたかのように躱してガネットに肉薄。

 ここからフランベルジュとダガーナイフの剣戟が始まった。

 近づかせまいとばかりにガネットは周囲にナノースの範囲を広げ。その片手間でニッテの鋭い斬撃を受け止め、弾く。


「暗部の強さは先ほど体感したが……お前も相当。支部長クラスの実力、か」


 ガネットはそう言うと、ニッテの動きを見切ったかのような強烈な斬撃を放つ。


「もっと強い人が東にいるけどね。オレの強みはもっと別」


 と言ってニッテは斬撃を躱してガネットの足下を狙う。剣での足払いを狙った。

 が、地面にも術式が仕込まれている。

 地面から棘が現れ、ニッテは間一髪で躱し。それを狙ったかのように爆発。それも躱すニッテ。


 ガネットは躱すニッテを見て口を開く。


「とはいえ、情報は多すぎても判断を遅らせる。お前はどうだ?」


 直後。爆発で出た破片が塵と化し。予想外の方向に塵の塊が現れる。

 上だ。


「!?」


 とっさの判断でニッテは塵の塊をかわす。

 が、正面にはガネット。


「どうやら流れは私に向いたようだな」


 彼女はそう言うと、冷徹な刃で切り払う。

 ニッテが防御しても無駄だった。

 ガネットの振るった刃はニッテのガードをすり抜け――いや、貫通する。

 剣を握るニッテの腕がぼとりと地面に落ちたのだ。


「あ――」


 ニッテは一瞬にして敗北を悟った。

 今戦っている相手はあまりにも強い。


「まずは1人」


 ガネットはニッテにとどめを刺そうとしたが――彼女の腕は氷で拘束された。


「……まだ邪魔をするか、脱走者め。諦めの悪い人間だな」


 ガネットは言う。


「昔からそうだ。何度絶望的なことがあっても、俺が死ぬことを世界が許してくれないらしい」


 いつの間にか零は立ち上がり、再びガネットと相対するのだった。

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