72.もしもの話
「夢のような時間でしたわ……」
クラブ案内が終わった後も、ソーニャはまだ夢心地のよう。「頭は洗いません!」とか前世のヲタのような発言をして、さすがにデュオルに窘められている。その横ではレントールが「俺もポンポンしてほしかった……」と呟いている。ガチだった模様。
「でも嬉しいな。姉さまと会えてそんなに喜んでくれて」
私もドヤ顔になってしまいそうなのを、淑女の笑顔に無理やり閉じ込めて応える。うん、閉じ込めているはずだ。
「お隣の殿下とのお姿も麗しかったです…!聖女様と勇者様の並ばれているお姿!完璧ですわ」
「他の方々もいただろう」
「いいのよ、雰囲気で!デュオルは何度かお会いしているから余裕よね」
「そういう訳では……」
デュオルは少し困った顔でチラッと私を見る。
わー、エレナから何か聞いているのかなあ。そうかもなあ。
「ソーニャ様は聖女と勇者のお話がお好きなのね?」
「はい!憧れなんです」
「そう。憧れるのもすごく分かるわ。けれど、姉さまと殿下は以前の聖女様と勇者様とは違う人間だから…その辺も理解してもらえたら嬉しいな」
もしも本当に二人がそうなるなら私だって応援する。けれど周りに外堀を埋められるような流れは違うと思うのだ。しかも現段階では二人が全くもって違う方向を向いてるし。いや、ある意味同じ方向か、私という…。図に乗ってる訳ではない!ないよ?!
「……それは、リリアンナ様の願いとして、ですか?」
ソーニャが歩みを止めて、胸に手を当てて俯いた。ん?言い方悪かったかな。責めてるように聞こえちゃったかな。
「ソーニャ様、違うの。いえ、願いと言えば願いなのだけれど、ほら、そういうのはデリケートな事でしょう。優しく見守ってもらえたらいいなって」
「……」
そんなにしょげるとは。でも決して夢を砕きたい訳でもなく~!……砕ける確率の方が高い気はしてしまうけれど……。いやいや、何事も0%ってことはないけどね?!
「そうだよ、ソーニャ。リリアンナ様は責めている訳ではないよ。でも周りが無責任に騒ぐのは良くないと、僕も思う」
「デュオル、わたし…」
デュオルのフォローがありがたいが、ちょっと正論パンチかも~。ソーニャはだんだんと泣き顔になってきている。
「ま、ソーニャが勝手に憧れて夢見てるのはいいんじゃない?ね?リリアンナさま」
「そ、そうよ?!それはもちろん自由よ、ソーニャ様。憧れてくれるのだって、本当にうれしいわ」
伏兵~!ナイスフォロー!
「だってさ。ソーニャの妄想の中でお二人が何をしようとも自由だぞ」
「おい、さすがに言い方」
「ふふっ、レン様は面白いわよね。でもそうよ、考えるのは自由よ、ソーニャ様。先程はきつく聞こえてしまっていたなら、ごめんなさいね」
ソーニャはハッとした顔をして、慌てたように首を横に振る。
「いえ、わたくしこそ申し訳ございません。わたくし、本当に憧れていて、だから……でも、失礼でしたよね」
「そんな、」
失礼かどうかの問題はなかなか微妙なラインだよなあ。創成期の二人に憧れるのはものすごーく理解できるし。思わず言葉に詰まる。
「だからそう難しく考えるなって!ふざけ過ぎなきゃいいんだよ、な?リリアンナさま?」
「えっ?えっ、ええ!そう、そうね!」
軽薄そうに見えて、線引きが上手いなあ、レントール。こう見えて苦労人だったりするのかな。
「まあなあ、マリーア様すっげぇ美人だし、殿下もキラキラしてたし、いろいろ妄想するのも分かるしなあ」
「でっしょう?マリーアお姉さま綺麗でしょう?初めてお会いした時に何て可憐な美少女なのかしらと思ったもの!」
「おっ、おう?そうなんだ?まあ確かに美少女……あれ、初めて会ったって、あ、そうか母親違いだっけ?ムカつかなかったの?リリアンナさま」
「?なんでムカつくの?美の前では全て無力よ!それに姉さまにはなんの責任もないことじゃない。喜びが先だったわ。控えめに微笑むマリーア姉さま……まさしく地上に舞い降りた女神」
「ヤバい、姉妹相互シスコンなんだ。確かにそんぐらい綺麗な人だけど」
私はレントールのドン引きに気付かずに、その後10分程度マリーアの素晴らしさを語った。初めは焦りを見せていたデュオルとソーニャだったが、マリーアの美しさに関してはウンウンと頷いて聞いてくれていた……と、思う。
「へぇ、すごい姉妹愛。だけどあれだよね、リリアンナさまも愛し子だからさ。それだけの余裕がなきゃ無理な話だよね?」
「?どうして?」
「どうしてって。だって悔しくない?異母姉が聖女で自分がペーペーだったら。なんでって思うじゃん」
「……ん?それが普通?なの?」
「……普通ってか、多いんじゃない?」
そうでした。思い返せば原作はそれで拗れる話だったわ。でも、だ。
「ん~?でも私が愛し子じゃないとしても、聖女の姉さまは自慢でしかないけど……今、愛し子であるわたくしがそう言っても信憑性が薄いのよね?難しいわね」
何だかあれね、悪魔の証明みたいになるわね。
「はは、悩むんだ。じゃあ、今その立場がなくなったらどう?って考えたらいいんじゃない?」
ううむ、と唸る私に、レントールがどこか楽しそうに口の端を上げて聞いてきた。
「あ、そうか。それで考えればいいのね。…何も変わらないと思うけど」
まあ、私の中での答えは変わらない。きっと私が力をなくしても、姉さまの愛は変わらないと思うし、きっと家族も気にしない。何ならお父様辺りは王家に嫁に行く確率が減るとかって喜びそう。
そして一瞬の沈黙。
「は?イヤイヤイヤ、なにその優等生の言葉。素直になっても言いふらしたりしないよ?」
「レン!」
「いや、だってデュオル、そう思わん?今までヘコヘコ頭を下げて来た奴らとかにそっぽを向かれるのよ?自分の周りからはサーッと居なくなって、聖女様にばっかり群がるのよ?腹立たない?」
「う~ん、たぶん周りにそんな人はいないかなあ?あ、世間的にはあるのかしら?あるか。でもそれはそれで要らない人を炙り出せていいじゃない?姉さまにもお知らせして、役に立てるわね」
レントールが信じられないものを見たような顔をしながら「は?」とか言っているし。失礼な。大事な事でしょ~。姉さまをそんな事では煩わせないわよ!
「できればいろいろ協力はしたいから、やれることをやるだけかなあ。そういう情報は貴重だし。あっ、でも妖精さんと話せなくなったりするのは悲しいかも!それは嫌!」
「……何、むしろそれだけなの」
「うん、そうだなあ。他は困るとか困らないとかは、あんまり…。あれっ?私が愛し子じゃなくなったら、3人は友だちやめちゃうの?!」
「「そんなことはないです!」」
と、デュオルとソーニャ。ほっ。
「あははははっ!もしもの話じゃん。流してよ~!リリアンナさまはホントに楽しいね。だめだ、おもしろ…」
レントールは1人爆笑している。笑う要素がどこに?
「……それは、レン様はやめるということ?」
「まっさか!リリアンナ様は魔法がなくなっても楽しそうだし」
そしていつものようにニカッと笑って、
「これからもよろしく!はい、握手!」
とか言いながら、ブンブンと握手をされた。
いいけどね。
もちろん、レントールはすぐデュオルに怒られたけど。
「リリアンナ様も、こいつが悪いのは確かなのですが、警戒してください!」
ついでに私も怒られた。
「はっ、はい」
「ひでぇ、デュオル」
「酷くない!お前は距離感が近すぎるんだ!そもそも……」
しまった、デュオルのお説教タイムが始まってしまった。
グリッタ姉弟はオカン体質なんだなとひっそりと思ったことは、内緒にせねばだな、うん。




