70.クラスメイト
新しく始まる学校生活は、前世でも異世界の今でも緊張と楽しみの感情がせめぎ合う。元・オバチャンだってそう。いや、むしろオバチャンだったからこそ考えすぎると言うか。
いや、うん。分からなくはないのよ、分からなくは。私はルシーの愛し子で、姉が聖女で王子な勇者や他の愛し子たちとも仲良し仲間。すっかり当たり前に仲良くしていて、特別感を感じていなかった。けど、周りからしたら、特に新一年生からしたら、ちょっとした幻の珍獣扱いになってしまうのは、自然なことだ。けれど。
「し、視線が痛い」
私が教室に入った途端に、ざわめきが様子を変えてチラチラと見てこられる。
「仕方ないですわ。聖女様の妹様で、愛し子様ですもの。わたくしも浮かれてしまっていますし、気持ちはわかりますわ」
少し苦笑気味にソーニャにフォローされつつ、教室に入る。嫌な視線ではないと思うけど、ちょっぴり緊張。
席は自由でいいようで、デュオルに案内されるまま、奥の窓際の一番後ろの角に座った。前にデュオル、隣にソーニャが腰を下ろす。「二人で並んで座ったら?」と声を掛けたが、「姉からもくれぐれもと言われているので」と、デュオルに言い切られた。どうやらそれとなく守ってくれているみたい。
「なんか、ごめんなさい。わたくし、何も考えていなくて」
「気になさらずに。こちらこそ勝手に」
デュオルと二人、イヤイヤイヤイヤとお互い謙遜し合い譲らずにいると、「おあいこですね」と、ソーニャがクスクスしながら仲介してくれて、三人で笑う。
「へぇ。お高く止まっているのかと思っていたけど、普通に笑うんだな」
どかっ、という音が聞こえるくらいの勢いで、ソーニャの前に男子生徒が座り、私に向かってそう宣ってきた。
この学園には珍しく、ちょっとチャラっぽい感じの子だ。すでに制服も着崩しているし。しかも、黒目黒髪って懐かしすぎる。冷たい感じだけど、やっぱりこの世界は顔面偏差値が高い。前世だとヤンチャでモテるタイプだな。
「レン!失礼だぞ」
「え~、同級生だろ?しかもお前んちと家一緒じゃん」
「サバンズ家を同等に語るなよ。申し訳ございません、リリアンナ様」
私が呑気なことを考えているうちに、デュオルがその子を叱っていた。
「デュオル様、お知り合いですか?」
「はい。隣国の遠縁の者なのです。隣国では近年魔力を持つ者が減少しているらしく。我が国も徐々にその兆候がありましたが、ここ数年でまた上がってきておりますので…」
「たまたま高魔力の俺に、留学して探って来いと言われてね~」
「身も蓋もない言い方をするんじゃない!レンも姉様からきちんとって言われただろ?」
ふむ。確かにあまりお行儀は良くないけど。
貴族的にはNGなんだろうし。でも、悪い子ではないかな?念のための腕輪も反応しないし。
ただ。
「初めまして。リリアンナ=サバンズと申します。わたくしには、気軽にお声がけいただいて結構ですけれど、他の方へにはお気をつけあそばせ」
にこやかに、釘は刺そう。一応ね。
「デュオル様とソーニャ様も、わたくしには気軽にしていただけたら嬉しいわ」
「え、いいの?!やっさしい!ホレ、デュオルいいって!俺、レントール=ネーシス!レンでよろしく」
にかっと屈託なく返される。
うーん、話半分しか聞いてないな。貴族としては本当にどうかと思う、思うのだが何だか憎めない。懐かしい色味のせいもあるのかもしれないな~。友だちとは、こう話したいもんねぇ。
「だからいくらなんでも砕けすぎなんだよ!リリアンナ様、甘やかさないで下さい!これでもコイツ、伯爵家次男なんですよ!」
「デュオルもコイツって言ってるし~」
「うるさい!」
何だか友だちとキャンキャン言い合うデュオルも新鮮だ。きっとエレナの事件以降、自分もしっかりしないとと気を張っているのだろう。
私がもう少し楽に生きていいのでは?とも言えないし、言ってもいけないのかもしれない。けれど、せっかくの学生生活だもん。楽しくったっていいはずだ。
「ふっ、ふふっ。レン様って面白いのね。デュオル様のいつもと違う表情も新鮮!ソーニャ様、お二人はいつもこうなの?」
「そうなんです。まだまだお子さまなんです」
「ソーニャまで!」
「ふふ。いいじゃないですか。わたくしたち、まだまだ子どもですもの。ねっ」
にっこりと微笑むと、なぜかまた教室がざわついた。
「あ、あら?いけなかったかしら?」
精一杯猫は被りっぱなしのはずだけど~!と、キョロキョロしてしまう。
「あははっ、リリアンナ様も面白いじゃん!みんなもきっと話したいんだよ。なっ?」
レントールがくるっとクラスメイトの方を振り返り、にかっと笑いながら言うと「だから、言葉使い…!」とデュオルが言いきる前に、
「はい!話したいです!」
「わた、わたくしも、よろしいですか?」
「ぼくも、お聞きしたいことが」
と、わあっとクラスメイトに囲まれた。
「レン!だから」
「デュオル様、ありがとうございます。わたくし、大丈夫ですわ。むしろ嬉しいですし」
「……リリアンナ様がそう言うなら」
「お二人の気遣いも嬉しかったのよ?本当にありがとう。それに、これからもよろしくね」
二人の目を見て、そこはしっかりとお礼を言う。デュオルとソーニャも照れたように笑顔を返してくれた。
「はいはーい!質問は一人ひとつな!」
「なぜお前が仕切る……」
デュオルの疲れたような突っ込みに、皆がどっと笑う。
担任の先生が来るまで、そのままなんやかんやと盛り上がり、オリエンテーションの自己紹介の前に、ほぼほぼ紹介し合うという、ちょっと愉快なクラスになりましたとさ。
陽キャすごいな~。




