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異世界転生を果たした、おば、コホン、お姉さまは、お嬢様生活のために悪役回避、頑張ります!  作者: 渡 幸美
第四章 聖女と勇者と精霊と

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エピローグ

――あれは、本当に、ただの偶然だったのだろうか。


初めて対峙した時、彼女は驚くほど真っ直ぐな瞳をしていた。


「そんなの嘘よ!封印はしっかりしてあるって、精霊たちが話していたもの!」

「あんたこんなことをして何が楽しいのよ?!」


仮にも魔王と呼ばれていた僕に、あんた、って。今でも思い出すと笑えてくる。そう話すと、「クリムもキャラ作ってたじゃん」と切り返しをくらうのだけれど。……作っていた訳じゃないんだけど……魔王をキャラって……まあ、ちょっと黒歴史だよね。


リリーと出会えて、本当の黒歴史にしなくて良かったと思う。


勝手に踏み込んきて、真っ直ぐな言葉で心を掻き乱す様は……ティターニアに、似ていて。ブレスレットを通じて、つい、顔を見に行ってしまった。


そしていつの間にか、僕の瞳に映るのは彼女だけになっていた。


再会した時。ただのリリーとして、僕を全肯定し、あの温かな手で、凍りついた心を溶かしてくれた人。


『嫉妬深いよ? 一度決めたら、離してあげられないよ?』

「それは、ティターニア様のことですか?」

『――っ』


あの時、図星を突かれて焦ったこと。


そして、『わたしも、あなたのこと簡単に手放さないもの!』と、眩しい笑顔で笑ってくれたこと。


ああ、千年待っていたのはこのひとだったのだと。


思い出すだけで、胸の奥がキュッと締め付けられるように熱くなる。


――あれから、幾つの季節が巡っただろうか。


結婚式の日、光の粒子に包まれながら涙を堪えきれずにいた自分を、今でもはっきりと思い出せる。

生まれてきた子どもたちの、小さな温もり。夜な夜な、こっそり彼らを見守りに行っていたのは――まあ誰にも言うつもりはない。リリーにはとっくにバレていたようだけれど。

娘に、初めて男から花が贈られた日。あの時の僕の狼狽ぶりを、今の孫たちも笑い話にしている。


(――全部、宝物、だったな)


賑やかで温かくて、少しだけ慌ただしい。そんな日々の一つ一つが、僕の中で今も色褪せずに輝いている。


千年の孤独など嘘のように、僕の世界は彼女の色に染まりきっていた。


約束は守るよ、リリー。

君が旅立った後にも、こんなにも大切なものがたくさんある。君が残してくれた、大事な大事な宝物。


――けれど。ふと、寂しさに襲われる時がある。


「お祖父様、また空を見上げて……寂しいの?」


庭先でぼんやりと空を眺めていた僕に、ひ孫にあたる小さな少女が、トコトコと歩いてきて服の裾を引いた。


僕はしゃがみ込み、その小さな頭をそっと撫でる。


「ううん、少しね。……風の匂いが、お祖母様に似ていたからさ」


少女は首をかしげたあと、「お祖母様なら、きっとお空の上から見てるよ!」と、まぶしい笑顔で笑ってみせた。その笑い方に、ふと、リリーの面影が重なる。


その面影で、また前を向ける。


子どもたちは成長し、またその子どもたちも成長していく。屋敷はいつも賑やかで、笑い声が絶えない。

その温かさに、確かに僕は慰められていた。守ると誓った、彼女の血を引くこの子たちの笑顔が、僕の支えになっていた。


(――寂しくない、と言ったら、嘘になるけれど)


賑やかな日常の、ふとした隙間に。夜、一人になった静かな時間に。


(リリー――)


彼女の名前を呼びたくなる瞬間が、幾度となく訪れる。


あの真っ直ぐな瞳。あの力強い声。「わたしは、あなたの傍を離れないわ!」と、叫んだ、あの日の彼女の姿。


今も鮮やかに思い出せる。それが時に幸せで、時に、切なかった。


--そもそもは、自分で蒔いた種だ。

リリーと出逢えて、赦されて、与えられた機会だ。どれだけのことか、わかっている。


それでも。


彼女に会いたいと思う気持ちは、日に日に積もる。


やがて、子どもたちも、孫たちも、それぞれの生涯を全うしていった。精霊の血が混じったから、普通の人よりはちょっとだけ長寿だけど。


それでも、屋敷の主は何代も変わっていった。


僕は変わらず、片隅で彼らを見守り続けている。

血の繋がりは、少しずつ薄まっていく。それでも、リリーの優しさの系譜は、確かに代々受け継がれていった。


(君の家族は、ちゃんと優しく育っているよ)


心の中で、そう報告することが僕の日課になっている。


今日も僕は、子孫の屋敷の庭の片隅で、静かに空を見上げている。


小さな黒い、子犬の姿になって。


さすがに僕がずっと表に出ているのもね、と、話して、精霊に戻った?と、言うか、精霊の国とファーブル王国を行き来している。


今日もファーブル王国の、輝く夕暮れの、空。

風がそっと、頬を撫でていく。

夕焼けが、少しずつ藍色に溶けていく空を見上げながら。


僕は今日も静かに、その日を待ち続けている。


(勇者たちの生まれ変わりは、千年だったよな……)


そう思うと、まだ半分にも満たない--


――と、その時。


ふいに、どこか懐かしい、あの日の鐘の音が響いたような気がした。


風が、ふっと変わる。


それは精霊界からのものでも、遠くの森からのものでもない――まるで、すぐ近くの、この王都のどこかで、新しい命が産声を上げたかのような、そんな温かな気配。


『……ふっ』


僕は思わず小さく笑い、ふさふさとした黒い尻尾をぱたぱたと揺らした。


気のせいかもしれない。


いや、きっと、気のせいなんかじゃない。


リリーのことだ、きっと女神様にめちゃくちゃ無理を言ってくれたのかもしれない。


僕は軽やかな足取りで、夕暮れの街へと駆け出した。


今度こそ、長く、長く一緒にいて。


――また、会おうね、リリー。


長い間お付き合いいただき、ありがとうございました!

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