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『アウト・オブ・灰塵世界』【完結】  作者: 久瀬 風助@鬼叺 連
六歩目:戦獣奪還、開戦す
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76.戦獣奪還戦(7)



 「………は?」



 呆気に取られるラヴ。動力液(フルード)を全身に巡らせるポンプとしての役割を持つ(リアクター)を破壊されたのにも関わらず、無機質に立ち上がる事は不可能だ。人間は心臓をもがれれば数秒後には死ぬ。労働力(スレーヴス)も例外ではなく、度を越えた生命力があるとしても心臓がなければ動く事は出来ない。


 思考は巡る。何が起きている?何が始まる?いつ、どのタイミングで労働力(スレーヴス)()()した?



 「(……あれは、労働力(スレーヴス)じゃない。アレが纏ってるこの感覚はきっと……)」



 ただ立ち尽くす5つの影。かと思えば中心の1人は腰元に収納した煙幕弾のグリップを握り込むと、天井の曇り空目掛けて引き金を引く。弾道は揺らめき、曲がり、それでも上へ、上へと、風に煽られながら一本の柱を作り上げ、『何か』は単なる筒となった銃身を投げ捨てた。


 ただの肉人形とは思えない、()()らしい仕草。ラヴは以前として状況を飲み込めていないが、ウスズミとトクサはそれが()()()()を、既に察していた。



 「━━情報の解析。結果は労働力(スレーヴス)のデータとは異なる。かつ危機的状況が接近。


 ラヴ。指示を。ボクはどうすれば良い?」



 次に口を開いたのはワカバだった。これから発生するであろう事象を演繹(えんえき)する彼は、言葉には表さずとも意味合いを『内包』させていた。

 『兵器である自分を使え』と、内側にある怪物を呼び起こす、その許可をくれと。彼は静かながらに訴えるが、ラヴの意識は眼前の光景へと向いていた。



 「……もう、始めるんですね」


 「いいえ、違うわ。()()()()()()の。


 合図は今送ったわ。ルリちゃんが此所で時間を稼いでくれたお陰で、私達は容易くこのエリアまで来れた。後は、道を繋ぐだけ……」



 中心に立つ労働力(スレーヴス)の骸からする声に、嫌な確信を突き付けられるウスズミ。トクサもまた、静かながらに『敵』となった彼女を警戒する。


 鎧を脱ぐ。外側の鎧部分のみを着用した、正体がそれぞれ露となる。



 「そうすれば、キナリ中将が何とかしてくれるでしょう♪」



 その全員が、ウスズミからしてみれば幼い子どもばかりだった。最長で16歳前後か、顔付きにあどけなさの残る少年、少女の全てが、殆ど同じ背丈。此方側を見つめる瞳は、吸い込まれる程の黒さを帯びている。


 その筆頭に立つのは、『リンドウ・ダミア』。元第8戦獣調教班、現秘密裏特殊行動班『年長者』に所属する、誰かにとっての『(だれか)』である。


 そして、英雄は目敏い。今のルリには『リンドウ』がなんなのか、既に分かっていた。分かっていたから、リンドウの浮かべる笑顔に対して、ルリの顔は引きつっていた。



 「……リンドウ。こんなこと、やめた方がいい。

 ワタシのしってるリンドウは、皆のお姉さんだった。キナリについても、いいことはないぞ」



 警戒を表に出しながらも、やはりトクサにとって彼女は班の一員だった。それは今も変わらず、訴えはしんとなったローライトに響いて、消えた。


 声は届くことはない、思いを馳せた所で、もう既に彼女の知る『リンドウ』の存在証明は無いのだから。



 「そう、トクサちゃんにとって私は、『リンドウ・ダミア』。けれど他の人の前では『サクラ・トランヴィア』だし、他の部隊では『スミレ・アドニス』なの。


 この子達にだってそう。皆誰かにとってのかけがえの無い存在。婚約者で、親友で、討つべき仇敵なんです♪」



 ━━彼女達に()は無い。



 「だから逆にいえば…他の人にとっての『誰かにとっての誰か』なんて言葉、私達にはどうでも良いんです♪」



 与えられたのは歯車(やくわり)のみだ。


 欺き、裏切り、騙し、陥れる。『特殊行動班』という体のいい名前の元に、余儀なき暗躍を押し付けられる。『誰かにとっての誰か』を煮こごらせた理不尽の受け皿として、()()()()銃を握るのが『年長者』だ。


 彼女達は存在している。浮かべる表情も豊富で、時には燻った蟠りにやきもきする事もあるだろう。出会いと別れに涙し、歓喜し、敵対するモノに激昂する事もある。


 ━━しかし、それは全て『偽り』だと知った上で、彼女はきっと嗤うだろう。彼女達にとっては、その涙も、笑顔も、内包した記憶の中に混在する、『誰か』のモノだという自覚があるからだ。



 「━━━撃ち方、用意」



 リンドウの声色が、目付きが、変質する。声質はそのままに、宛ら『別の人生』を歩んできたかのような冷徹な声。鋭い眼差し。別の人格と呼んで差し支えない『誰か』の号令で、年長者達はウスズミ達へと向けて、突撃銃(クズリュウ)を構える。



 「クソッ…ビウスのヤツ何してやがる!? こんな容易く通しやがって…!」



 悪態は宙に消える。ラヴの焦燥した声と『ビウス』という名前に、司令塔として立つリンドウ…否。『誰か』は答える。



 「(トラップ)としてクモの巣を張り巡らしているスナイパーが居たみたいだが、もう期待しない方が良い。我々が来た、その事実のみに集中しろ。


 此処までいえば、()()()()()()()()?」



 ━━彼女達はどのようにして此所に来たのか。『そんな訳がない』と思いながらも、嫌な予感は常に過っていた。


 しかしこの発言で確定した。ビウスの包囲網は破れ、恐らく彼は━━



 「ワカバ、待たせたな。……至急ビウスの所まで行け。

 俺は信じている、野郎はまだくたばっちゃいねぇと」


 「了解━━。じゃあ。いってくる」



 ワカバに与えられた権能もまた、二つ。彼等の()()()である『終末の蜥蜴』と、もう一つ。翼による飛行を持って自在に遊撃を可能とする『鷹の翼』。


 勇ましい翼は一度地面を羽ばたくと、既にワカバの身体は空中へと揺蕩っている。クズリュウを構える年長者が一人、ワカバを行かせまいと銃口を向ける。


 ……が、それを目の前で許す程、激昂寸前のラヴは優しくない。『触手』は再度発現し、飛翔するワカバを背に標的を定めた者を、強く殴り付けた。



 「━━━テメェ等だけは生かして帰さねぇぞ、ガキ共」



 挑発だろうが嘘だろうが、関係無い。その顔付きと身体に違わない、『戦士』は仲間を愚弄した者達を許さぬと、開いた瞳で睨み据える。

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