表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『アウト・オブ・灰塵世界』【完結】  作者: 久瀬 風助@鬼叺 連
六歩目:戦獣奪還、開戦す
87/142

68.来る、来る、来る





 「……んっ」



 数日後、トクサの頬を静かに風が撫でた。目下に広がっているのは、ローライトの無機質な街並み。


 平和というよりも、平穏。

 退屈ながら、此処にはそば立てるモノは何も無い。



 絢爛な建物も名物と呼べる食べ物も無く、ましてや享楽に染まっている訳でもない。ただ錬鉄を打ち続ける職人が工房を行き来する傍ら、その伴侶や幼子達が(いとま)を紡いでいる。


 感情を持った兵器は、優しく撫でる風が好きだった。窓の向こうに広がる普遍が好きだった。




 「………………」



 そんな場所が、これから理不尽に包まれる。

 

 目一杯遠ざけても、逃げ続けても。

 『自分(トクサ)』という存在が居る限り、戦火は消える事なく少女を駆り立てるだろう。


 "戦うのは怖くない。それがワタシに求められた理由だから。━━けれど"



 「…………あ」



 ふと、トクサの視線の先。小さな子どもが自分に向けて手を振っているのが見えた。素知らぬ誰かの、目一杯描く弧に対してどうやって返せば良いのか。一瞬だけ、戸惑う。


 知らない人。知らない幼子。自分の事だって知らないのに、無邪気に笑う未来の芽。



 模倣も儘ならないまま、少女は窓を閉じた。


 打つ鼓動は強く、首を締め付ける。たった一縷の可能性が思考を侵した途端、それは少女(へいき)の感情を強く揺さぶる。


 戦うのは怖くない。けれども、差し向けられた戦の火に少しでも対抗すれば、此処に生きる者の『未来』は奪われる。街並みも、人も、歴史も。灰塵に呑み込まれ、残るのは焦土という痕跡だけ。


 先程手を振ってくれた幼子も、その横で微笑みながら子どもを見つめる女性も。工房へ向かう職人も。ただ平穏を続けている人々を終わらせる結末を、自らの手で下さなければならない。



 転がる。焼かれる。潰れる。それらが塵芥に包まれる時、そこに立っているのはきっと━━



 「……やだ……やだ……っ」



 一瞬だけ、手が黒く染まる。それは自らの内包する権能。『蹂躙』する為の力が表出したもの。


 少女はそのまま白んだ窓辺を背に、頭を抑えて踞る。無理だ。『誰も殺さずに』なんて理想は絶対に実現しない。対極に待つ屍の山の近くにトクサは在る。


 守らなければならない。けれども、戦う事で失う事の恐ろしさを、感情を持った兵器は、絵空事を見る少女は知ってしまった。


 だが、気付いた所で少女が逃れられる可能性は何処にも無い。必然の上に、彼女は力を以て徹底抗戦を為すだろう。



 「聞きたくない…ききたくない……!」



 彼女の演算能力(トモダチ)が、内側から警鐘を鳴らす。音も、形も、予兆すらも無く始まる()()を受け取り、『動け』と無理矢理背中を押す。


 訪れた。現れた。━━遂に、()()


 戦いを拒む彼女と、大口を開いた現実との視線があった途端。



 「━━━━━━━━━」



 ()()()()()()()()()()()()が、その背中に嫌な予感を帯びた。



 「━━大丈夫。ダイジョウブだよ、トクサ。

 私達(ワタシ)ならやれる。━━()()()()()()ッ」



 震えた声の自己暗示。窓の外に一瞬だけ翡翠の光が現れたと思えば、石灰色の雲海を黒色の一閃が弾けて、疾った。


 これは絵空事を願った少女から始まった戦争(たたかい)。弱音に捕らわれながらも、待ち構える『火』を、彼女は睨み据えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ