~裏目~
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「━━まぁ、君自身もよく分かってるとは思うんだけどね? 『もう戻れない所まで来ている』っていうのは」
「…………………」
「リンドウに拾って貰った命だ。尽くせばその分還元される。単純な話だろう? ならば動いて貰わないと…。僕は立場的に動けないし」
沈黙する少年は一人、対面するキナリから叱責を受けていた。『叱責』という言葉すら名ばかりで、不和を拡大させかねない程に男の言葉は一直線。 彼の要求は、聡い少年にとってあまりにも範疇を侵し続けていた。
「……いや、しかし……今回のは……」
「『いや』、じゃないよね? 君ってそんな事いえる立場だっけ?」
「………………………」
高圧的な否定。キナリの変わらぬ表情は異質さを際立たせた。
軍罰該当者に与し、名家の血筋を継いでいるのにも関わらず軍に楯突いた、落とされてもおかしくない命を、彼は掬い上げた。ただ首を縦に振り続ける事が、救済の対価。少年もそれを受け入れたのだ。
少年の権利の一切を掌握したからこそ、口答えはキナリにとって最も不愉快な選択だった。
「一度やったら二度、二度やったら三度。片棒を担いだのなら最後までやろうぜ? 只でさえ取り柄が『生まれ』くらいしかないんだからさ」
屈辱。他の言葉の要らない、耐え難い屈辱が少年を、『クロガネ・ホーマ』を襲う。
「…………っ」
「じゃ、よろしくね。クロガネ二等兵」
扉の閉める音を最後にたった一人、その場から動かないクロガネ。俯いた先の地面すらも自分を嘲笑っていると思う程、クロガネは自傷的な性格に陥っていた。
「(何処で道を間違えた…?自らを肯定してくれたウスズミ達を裏切った時?リンドウを守ろうと奮起した時?第8戦獣部隊に所属した時?それとも━━)」
嫌悪の螺旋、その切っ先は、常に自分へと向く。
「……僕は……一体…なんだ……?」
キナリは言っていた。『もう戻れない所まで来ている』と。クロガネ自身も咎を引き摺り、それを噛み締めていた。
彼の描く理想、野望には如何なる合理性も無い。それでも言葉を宛がうとするのなら、該当するのは一つ。『意趣返し』だろう。
プロトタイプ計画の代替えとなる、詳細不明の『異物』。計画の一切を知らされていないのにも関わらず、クロガネはその片棒を担がされた。
やり遂げなければならないと、クロガネは考える。━━しかし、今やっている事は反逆と何が違う?と、同時に問い掛ける。
理性と使命感はせめぎ合い、クロガネ自らの内側にある、何かを磨耗させる。
「━━━━━━はは」
葛藤の末、彼は導き出した答えに、『自ら鍵を掛けた』。
浮かぶのは淀みきった瞳と自失な笑み。彼は移ろう亡霊の如く、譫言のように何かを呟きながら部屋を出る。
「やらなきゃ、やらなきゃ」
「何かに、何者かにならなきゃ」
「僕は……何者でも無くなってしまう」




