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47.嵐の前の静けさ(2)





 時は過ぎて食堂。各作業を一旦終えたグループが律儀に机に向かい、居住まいを正している。……しかし、食堂全体に充満した芳香は、普段なら無表情で待機する構成員の浮き足をくすぐっていた。



 「……なんか今日の飯さ」


 「あぁ…なんというかワクワクするよな。良い匂いだ」



 この世界にも食用の『油』があって良かったと、耳に届くざわめきで痛感する。でなければこの料理を拵える事は出来なかったのだから。



 「(………そろそろ時間か?)」



 調理班は配膳まで担当する。料理の載ったカートを運び出すのもいつも通りの作業だが、ざわめきは分かりやすいレスポンスとなって俺に返ってくる。料理の味見も万全。


 此処の指導者宜しく行動を呼び掛けると、端のテーブルから人が列を成して俺達の目の前に並び、盆に配られた料理を持って自らの席に戻る。その中にはトクサとスオウ、二人の姿もあった。



 「こりゃ一体…何を作ったんだ?俺ァ初めて見たが……」


 「……『カラアゲ』って名前の料理です。僕の知ってる味に限りなく再現はしてあります。ニクスイに色々つけて、油で揚げました」



 唐揚げ。食用の肉ら大体こうすれば主菜に困る事はなくなる。野菜や生の穀物が現実(あちら)以上に希少な分、主食となるのは携帯食料の固形食なのが惜しい。…味見こそしているが、此方にある材料を駆使しても再現はし切れなかった。


 ロウへの返答の後、喫食を促そうとしたが、その前に一人、また一人と皆は俺の作った飯を口にしていた。



 軽い衣を砕く音。その後に続く、弾力と混ざりあった咀嚼音。同時に聞こえる恍惚の声と、意外性を突かれた者達の貪る姿が、連鎖を続けて飽和する。こういった類いの料理は今まで出なかったのか、それともまだまだ料理というジャンルを開拓している途中なのだろうか。



 「(…もしかしてテンサイだったか?ウスズミ)」


 「……どうだろう、ね。(……何も聞こえない…ごめん……)」



 ……そして、『僕』が戻ってくる。座った僕に問い掛けるトクサの声は、迎え入れるような構成員の歓声と激励に呑まれてしまう。アイスケの作った料理はどうやら、僕への印象を一転させてしまう程に刺激的なモノだったらしい。


 僕も一口齧る。……少しばかり湿気ってしまってはいるが、舌先から奥まで染み込む『深さ』は、醤油以外の何かを彷彿とさせる。塩気以外の甘味、酸味の二つが合わさった『カラアゲ』は、僕の知ってる記録の中に該当する有るものを強く欲している。



 「(……『米』が欲しくなるが…アカツキでは見たこと無いんだよなぁ…)」


 「ははっ、びっくりする位やるじゃねーかよアンタ!なんならこの組織の調理班のリーダーとしてずっといてくれよ!」


 「ははは……すまないがそれは無理だ。カラスバは僕達の為に頑張ってくれてるからさ」



…そう、今この場にカラスバは居ない。路頭に迷っていたに等しい僕達の、『絵空事』と嗤われても仕方の無い事に、彼は尽力してくれている。あの話し合いの後、地下鉄業者との交渉の為に、彼は今も尚自室に籠って、策を練っている。




 「そうだよな……。……そういや今日、誰か『助けてくれ』ってウチに来てたな…。


 調理班の誰でも良いから、客人に飯を持ってってやってくれ!!俺ァ今喰うので忙しい!!」


 「(真面目なのか不真面目なのかどっちなんだ……)」



 食事に舌鼓を打ち続ける喧騒の中、ロウは僕達の内の誰かに向けて吠えた。……言わずもがな、その呼び掛けに了承する者は居ない。案の定喧しさの中に消えていったのだから。



 「…僕が行ってくるよ。トクサ、スオウ、良ければ僕の分も食べて良いよ。…ロウ、その人は何処に?」



 誰も食事から手を離す気がない。そんな空気の中動けるのは、料理を作った僕だけだろう。同じく夢中な二人に対して僕の分の料理を差し出し、ロウのいう『客人』の元へ向かう。





 「(何言ってんのか聞こえねぇぜ班長)」


 「(なにも聞こえないぞ、ウスズミ)」



━━━━━━━━━━━━━━━━━━




 「……………………………」


 


 目の前には一人、女性が座っている。弱い光源に照らされる紫色の髪の毛は、陰が差して青み掛かっているように見える。手当てこそされているが、助けを求めた彼女は恐らく…『僕』の所為でこんな(ざま)になっているのだから。


 衣服は粗雑に投げ出されているが、彼女の身体に巻かれている包帯が理由を物語っていた。……これがかつて、僕が命を賭して従軍していた場所で行われた所業だというのか。



 「………っよかった、此処に助けを求めて……♪


 無事…だったんですね…ウスズミさん……」


 「リンドウ!!」



 ━━それでも尚、『背伸び』を止めずに僕の身を案ずる彼女の声は、震えていた。

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