46.嵐の前の静けさ(1)
「━━もう良いの……」
「ボサッとしてんなよ班長!そろそろ行かねぇとドヤされちまうんだから!!」
心配を置き去りにして、晴れやかな表情をしたスオウは仕事場に颯爽と向かっていく。背中に強く張り手され、じわじわと痛みが広がっていく。
結局、僕の中にある蟠りは有耶無耶にされてしまったようで、何も分からないまま頁を捲られた気分が後を引き摺っていた。
「スオウ、ソラが分からないのが、こわいって。 きっとあるって、ワタシは信じてる。……もし見つからなかったら、ワタシ達とにげようって。そしたら、元気になった」
僕が話そうとしていた内容を、トクサは先に話したらしい。何処までお見通しなのか、僕は次第に柔らかく崩れて彼女を見た。
「…世話を掛けたな、トクサ」
「ウスズミも、つよい。ワタシ達より、ずっとがんばってる。ワタシは、肩代わりしただけだ」
「何やってんだお前等ァ!! さっさと持ち場に着けァ!!!」
強い叱責の声が廊下を伝い、力任せに鼓膜を殴り付けた。…どうやら与太話が過ぎたのか、廊下の向こう側から覗く顔は実に不機嫌そうだった。
不意を突かれて怯みきったトクサは動きそうにない。キョトンとしたまま僕を呆けた目で見つめている。まるで小動物となったかのような彼女を背負う僕の口からは、謝罪の言葉が繰り返されていた。
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「(…………さて、何を作ったもんかな)」
配属されて三日らしいが、特段難しい事は無い。構成員分の食事を、残っている物資で拵えるだけだ。
厨房に配属されてからは、フォルシーは料理が分からないからと『俺』を頼ってくるようになった。短期間の内に何度も入れ替われば、段々とコツが分かってくるようになる。…俺がこの世界で役に立てるのであれば、嬉しいことこの上ない。
「(一先ずはこの……鶏肉か?何かしらの肉をどうすっかだな。)」
包丁代わりに使われている、小型のサバイバルナイフを彷彿とさせる形をしている刃物。恐らく元来は『武器』として使われていたそれは、今目の前の詳細不明の肉の塊を相手にしている。
…質感的には鶏肉に近しい、少し透き通った身。しかし、動物性の肉にしては形が均一的過ぎる。楕円状にまとまった塊が横に狭しと並べられている状況だ。
「(この世界には料理は存在しない。どう調理すりゃ良いかなんてのは聞くだけヤボだろう。
……困ったときは『アレ』か)」
「おいウスズミ、何をするつもりだ?」
構成員の一人が俺に問い掛ける。……問い掛けというか、悪態に近しい吐き捨てるような物言いだ。多分、俺達が構成員となる事を良く思ってない者の一人だろう。
「この肉、メニューは決まってないのか?」
「は?」
……そして『メニュー』という概念すら存在していないときた。単純な質問すら理解出来てないような素振りの返答だ。…何を聞いても通じない。言語は理解しているが意味は理解していない、外国人を相手にしている気分だった。
「その、食事の内容が決まってないのなら好きに作っても構わないか?
俺……じゃなくて僕のその………『創作料理』だ。その方がこう、この組織『らしい』んじゃないか?本来存在すべき、成長すべき人間の可能性の一つとして」
「まぁそうだけど……まともに食える物にしてくれよ?ニクスイの塊は余ったらしまってくれ」
…名称はさておいて、やはりこれは『食肉』の類いらしい。どうあれ可食の肉であれば『アレ』はなんとか作れる筈だ。
「(後は該当する調味料があるかどうか…だな)」




