42.指導者との邂逅(2)
━━今現在、僕達は大勢の構成員から、視線を一点に集めていた。
一転して、少しばかりの湿り気が目立つ空間。約50人程度の人員がすし詰め状態となっている。軍服状態の僕達は、知らない者達からすれば『敵対組織の構成員が食卓を共にしている』状態でしかない。耳を傾けない様にこそしているが、僕達を揶揄する言葉もちらほらと聞こえてくる。
「おい、あんま噛み付くんじゃねぇぞ。いいな?下手に危害でも加えようモンなら、その分痛い目に合うと思えよ?」
「……落ち着いてくれ、ロウ。不満になるのも仕方ないだろう。あからさまに軍服なんて着てたら尚更だ」
「大丈夫。ウスズミ、こわくないぞ」
隣でトクサが、いつもの様に僕を慰める。怖いというよりも申し訳無さの方が強いのだが……。
「…………」
「…スオウ?体調が優れないのか?」
「別に…個人的な事情だよ」
先程からスオウは、面目の潰れたようなシワの寄った顔を浮かべていた。声色にもどちらかといえば『怒り』が帯びていた事もあり、『触らぬ神に祟りなし』とコップに注がれている水を口に運んだ。
「そぉら、飯だぞお前ら!!テーブル毎に配膳すっから取りに来い!!」
一際上機嫌のカラスバが、人間の上半身程の寸胴を軽々と抱えながら姿を現す。…彼は、僕達と共に飯を喰らうつもりだった。
奥のテーブル。統率された筈の者達は我先にと前へ前へと波を作り、カラスバを飲み込んでいく。そして漏れなく、全員の皿には食事が配膳され、カラスバ本人には一切の乱れも無かった。
「……凄いな。なんというか…躍動的だ」
僕の網膜に焼き付く、初めての場面。けれども『宇涼』はこの光景には既視感を抱いているようで、板挟みの感覚がその乖離への違和感を際立たせる。
生命活動の維持を目的とした燃料代わりの携帯補給食や、ローテーションで回ってくる配給糧食。必要最低限の栄養を身体の内側で回す、ただそれだけの為の手段に過ぎない。言うなれば『潤滑油』でしかないのが、僕の知る食事という『行動』だ。
「次、ワタシ達のばん。いこう、ウスズミ。スオウ」
…等と考えるのは野暮なのか。初めて目の当たりにする『手作り』の料理に暫く見ていなかった爛々とした瞳を開かせ、僕達は急かされるままに寸胴まで連れて来られてしまった。
「……ちなみにこれは何です?」
「配給された食糧をまとめてぶち込んだ汁物ってのかな?具体的な名前はわかんねーけど、味付けなんてのは『勘』で決まっからよ!
好評のメニューだから、まぁ大人しく喰らっときな!」
……まず色。焦げた茶色を濁らせたようなスープ。配給された食べ物の有りったけを混ぜたからか、その色合いは混沌としている。
感触。少しばかりのとろみが付いている。これが調味料による物なのか材料による物なのかは分からない。
匂い。…かなり香ばしい。悪い意味ではなく、『僕側』の側面は何処か感動を覚えている。彼方側でいう醤油に似た、パンチのある塩気の湯気は、ハッキリいって食欲を増進させる。
「…!っっ…!!!」
「…美味い。なんだこれ、こんな美味い飯初めてだぞ」
口元に一口運んだスオウは、続け様にほどけた肉片を口に運ぶ。トクサはその傍ら、顔を紅潮させて無我夢中で皿の中身を呑み込んでいる。次第に二人は同じように、初めて手の加えられた物を貪食し、間も無く完食する。
反応は違えど、カラスバの作った食事に心を動かされた二人を見て、僕自身も欲を抑えることが出来なくなった。
「(……頂きます。)」
一口、運ぶ。……良く噛み締め、味蕾の開く刺激が神経に触れるのを理解する。混沌としてはいるものの、ベースとなる味は僕にとって、何故だか懐かしさを与える物だった。これは間違いなく『宇涼』の記憶で、僕の物でありながら異なる記憶。
けれども、瞳が潤む。緊張を解きほぐす何かが、この一皿にはある。二口、三口と、続けて口に運ぶ。
「━━『抵抗』は何も武力だけで行うもんじゃなくてな。俺達は弱ぇから、ジワリジワリとやってくしかねぇのさ。
まぁ喰え!もっといるならくれてやっからよ!」
彼はこの料理を『抵抗』だと言った。僕達の知らない領域を、彼は知った上で一つの『武器』としての在り方を示した。
━━この国の『繁栄』からは生まれない、有り得ざる味。彼等の目的や、アカツキが『反乱軍』と呼称する理由も、何となく分かる気がした。
それでも今はそんな事を考えず、この鉄皿の上に残っている料理に集中したかった。




