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17.I=O=A(1)

(2)に続きます。



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━━━━━


━━





 「………―――――」



 夢…。違う。これは夢とは異なる質感の世界だ。


 どこか覚束ない、いつ事切れてもおかしくない不安定さと、地に足がついていない浮遊感が微塵も感じられない。現実と大差ない、身体の重さを伴った存在感と意識がハッキリとしている。間違いなく、僕は此処に存在している。


 まるで僕一人が、前触れもなく閉ざされた異空間に放り込まれたかのようだった。



 「(此処は…トクサは何処に…?)」



 周りは見えている。僕の視界は世界を捉えている。声を発しようと思えば間違いなく、意図した言葉を吐く事が出来るだろう。


 しかし、直前自分達の休んでいた筈の岩肌が広がる洞穴は見る影もない。硯の墨をひっくり返したかのような、ぼんやりとした暗い朧が延々と広がっている。


 『何も見当たらない』。起伏も凹凸もない、平坦な空間だ。それなのにも関わらず、僕の手足と身体は墨染の世界の理に反したかのように、僕の目に映っている。


 周囲に光源は見当たらない。この空間で何かを見ようと視力に頼る事は不可能だ。…であるならば、この空間は間違いなく、先程の洞穴ではない。



 ――――だとすれば此処は何処なのだろうか。






 『おぉ、やっとコッチに来てくれたかい』



 その疑問は、一抹の不安とも形容出来る。

 直面した僕の元に、その答えを指し示してくれる。何処か、確信に満ちたような聞き慣れた声が僕の耳に届く。思わず安堵し、反射的にその声の主の元への言葉が漏れた。



 「…君は」


 「あぁ、ご想像通りだ。…俺はもう一人のアンタ。宇涼逢丞うすずみあいすけだよ」



 声の主は直立する僕とは対称的に、不遜な表情を浮かべながら胡坐あぐらをかいている。


 人相の悪い三白眼に、筋張った固い顔付き。決して年相応には思われないガタイの良い身体。言葉の裏に含みを持たせている事と口調以外、僕と似たり寄ったりの声質をしている。


 そして何より、僕はそんな彼を『知っていた』。



 「…何故僕を呼び出した?」



 彼は胡蝶の夢で…この世界とは別の世界で生を為した、もう一人の『ウスズミ』だ。 そんな彼と邂逅するには、この場所は僕自身に根差した場所でなければならない。


 僕自身彼には聞きたい事は山程ある。しかし、それでも一つ一つ紐解いていった方が彼としてもやりやすいだろう。その手始めの一歩として、彼と僕が邂逅したその理由を問いただす。



 『何故って…俺だってまた死にたくはねぇからさ。俺に出来る事なんてこれ位だろ?荒事はアンタの方が慣れてるだろうし』


 「…?」



 返答として彼の口から発せられた言葉の意味を、僕は理解する事が出来なかった。思わず呆然と首をかしげてしまう。何の関係も無い『荒事』の二文字と、『死にたくない』という彼自身の吐露。


 理由を紐解くどころか、初手から情報が錯綜さくそうし始めている。僕の様子を見てか、宇涼は咳払いをした後に、再び口を開いた。




 『えーっとだな…。今すぐ起きないと、命が危ないんだよ。だから早い所目を覚ましてくれ。トクサだけじゃ多分対応出来ないからな』








━━


━━━━━


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 「━━━━━ズミ、ウスズミ」


 「ッ!??!」



 『それを先に言え』と、もう一人の僕自身に強く糾弾しそうになった瞬間。既視感のある記憶に新しいやり取りが繰り返される。状況は同じではない。僕の隣で肩を揺さぶりながら、トクサは僕を此方の世界に引き寄せたようだった。


 周囲を見渡す。先程までの朧気な暗がりは消え失せ、意識の途絶える寸前に見た岩肌が僕の視界に映し出される。身体には緊張の残滓が胸中でのたうち周り、記憶には宇涼の残した不穏な言葉が鮮明に残り、脳内で反響している。


 そして━━





 「へへっ…空目かと思ったが、どうやら間違いなく軍の関係者に間違いはないようだな?」


 「あぁ。何処所属かは知らねぇが…、それでも此処じゃ手に入らねぇ物は間違いなく持っている筈だぜ」





 目の前の状況を、呑み込む。


 ”僕達二人を、三人の男がそれぞれの得物を手に、取り囲んでいる。”


 恐らく廃材を組み合わせて作ったであろう刺々しい戦棍メイスを担ぐ男を中心に、長い砲身を持つライフル銃を両手に携える者が両端に二名。彼等は僕達二人を、その気になれば殺すつもりでいるだろう。


 感覚の鋭さが自身の神経を強く撫で続ける。身体に纏わりつく空気はひりつき、より冷たさが明確になる。

同時に、研ぎ澄まされた感覚が体内で警戒のレベルを底上げしているのが分かる。僕は身体を起こし、三人を強く睨みつけたまま、トクサに再度問い掛けた。



 「………トクサ、どういう事だ。これは」


 「休んでたら、みぎの奥側からやってきた。理由はフメイ。ワタシ達を見るや否や、襲ってきた」



 彼女は目の前の連中を刺激しない為か、膝立ちする僕に小さく答えた。声色に変化はないが、すぐ近くにいる彼女の鼓動は強く、早い。銃口を突き付けられているこの現状への恐怖を、確かに彼女は感じ取っているのだろう。



 「…目的は?」


 「おっと…あまり無駄口叩かない方が身の為じゃねぇのか?」



 右奥側でライフル銃を構える男の一人が、自身達の優位を疑う様子もなく僕に向けて銃口を向けた。…かと思えば、中心に仁王立ちする戦根の男がその銃口を無理矢理下げた後、首を何度か横に振るう。恐らく彼がリーダー格の男なのだろう。



 「安心しな…。別にタマァ奪おうって訳じゃねぇんだから。…まっ、それもお前達の行動次第だけど。早ェ話が、助かりたけりゃ出すもん出して貰おうって話だ」



 ニヤリと薄ら笑いを浮かべる男が、身体を屈めて僕と目線を合わせる。両端の男に目を向けると、ライフル銃は構えられている。彼等の構えるライフル銃の精度がどのような物なのかは見た限りでは分からないが、射程圏内である事は明確だ。引き金を引こうと思えば、的を撃ち抜く事は容易いだろう。



 「…………」




 ━━この状況なら、容易く打ち崩すことが出来る。



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