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戦いの記憶と夜の絶景


「こりゃ……参ったな」


 姿勢を正して目に入った光景は無残なものだった。

 吹き飛んだ瓦礫が家屋や道路に突き刺さり、さながら廃墟のように見える。

 一瞬にして景観が様変わりし、ドラゴンという生物の強大さを見せつけられた。

 打開策が浮かばない。

 あれをやられたらこちらは為す術がなくなる。


「……親父ならどうしたかな」


 親父と暮らした十年間、ずっと聞いていた武勇伝。

 斬龍として生きた戦いの記憶を、俺は今でもはっきりと覚えている。

 脳内の引き出しを探れば風龍との戦闘についてすぐに思い出せた。

 親父は風龍を破っている。

 だから、その攻略法をすこし拝借しよう。

 自分なりにアレンジして。


「よし!」


 突き刺さった瓦礫の間をすり抜けるようにして駆け抜け、風龍に肉薄した。

 身に迫る風の刃は瓦礫を盾にして防ぎ、それがなくなると霊符を折って重ねた盾を張る。

 斬り付けられるほとに霊符が剥がれ、防御は薄くなっていく。

 それでも近づくには十分で、完全に破壊されるころにはあと少しのところまで迫れていた。

 俺が近づけば当然、あの行動を取る。

 剛風を地面に叩き付け、空気の壁を押しつけるダウンバースト。

 予備動作として、周囲の空気か風龍に取り込まれた。


「――」


 その空気に密かに霊符の切れ端を混ぜる。

 塵に等しいそれらを吸い上げ、風龍は体内に大量の空気を貯蔵した。

 掻き混ぜられ、圧縮され、密度を増した風の威力はすべてを薙ぎ倒す。

 だが、取り込まれた霊符の切れ端に狐火を灯せばどうなるかは火を見るよりも明らかだ。

 点火した瞬間、かき混ぜられた大量の空気を消費し、風龍の内側が勢いよく爆ぜる。


「ギャアァア……アァアア……」


 肺が、喉が、鼻孔が、口が、爆発によって焼かれて黒煙を吐く。

 臓物が茹だり、排気器官が機能を失い、血を吐いて命がごっそりと削られる。

 親父はガラスを砕いたような微細な刃を大量に吸引させ、内部をズタズタに引き裂いた。

 だから俺は狐火でそれを真似ることにした。


「アァア……アァ……」


 すでに死期は決まり、幾ばくもない。

 それでも風龍は血と黒煙を吐きながら俺の前で立ち上がる。

 俺も携えた刀に魔力を込め、満身創痍の風龍にとどめを刺す。

 薙いだ一撃が首を刎ね、地面にごとりと頭部が落ちる。

 この手で完全のその命を断ち切った。


「俺の勝ちだ」


 斬龍の刀を掻き消して一息をつく。

 そうしているとバギーカーの音が聞こえて、蔵木と日下部、そして魔鳥が合流した。


「こりゃ、たまげたな。大手柄だ、一人でここまでするなんて」

「一人じゃない。俺だけなら犠牲者が出てた。みんなのお陰だ」

「ふふっ、100点満点の答えね」

「そりゃどうも。ところで、風龍の亡骸はどうすればいい?」


 視線を首を無くした風龍へと向ける。


「あぁ、討伐したドラゴンはこっちに持って帰ることになってる。鱗や骨のサンプルを取るんだ。そして余った肉は俺達で食う。今日はバーベキューだ! やったね」

「へぇ……じゃあ、風龍のスキルも得られるかな」


 肉を食えば獲得できるだろう、たぶん。


「とにもかくにも、お疲れ様ってことよね。みんな、はやく帰ってきて。焼き肉にしましょ」

「あぁ、そうだな。俺達チームが初めて仕留めたドラゴンだ。待ち遠しいな」

「それはいいけど、実際どうやって運ぶんだ?」

「こっちから輸送機を飛ばさせるから、それに乗せてだな。特殊な魔法が施されているからドラゴンにもバレない優れ物だ。まぁ、限度があるけどな」

「……そんなものがあるならなんで俺たち陸路で来たんだ?」

「それは滑走路が氷漬けになっていたのでー」

「あぁ、なるほど」


 流石に着陸できなきゃ使えないか。


「じゃあ、滑走路を溶かさないとか。早速行こう」


 その後、狐火で滑走路を解凍し、溶け出した水を蒸発させ、降りてきた輸送機で帰還した。


§


 龍狩り組織が所有するビルの屋上には、豊かな緑が生い茂る公園になっている。

 俺たちはそこへ道具を持ち込み、バーベキューの準備を整えた。


「えー、では手短に話そう。俺たちは見事に初陣を飾り、風龍を討伐した。その証としてその肉をみんなで食べよう。それじゃ、乾杯!」

「乾杯!」


 這崎の合図で全員がグラスを掲げ、我先にと網の上の肉に箸が伸びる。

 龍の肉は独特の歯ごたえがして、一噛みするごとに旨味が溢れ出していた。

 タレにつけても、塩をかけても、相性は抜群だ。


「まだまだあるから遠慮するなよ、俺が全部焼いてやるからな」


 焼き肉奉行と化した這崎が次々に肉を焼き、みんながそれに舌鼓を打つ。

 ほかにも鳥や牛の肉や各種野菜を摘まみつつ、バーベキューを楽しんでいると、ふと日下部が輪から外れて夜景を見ているのに気がついた。

 それを見てふと思い立ち、皿と箸をその場に置いて日下部のもとへと向かう。


「綺麗な夜景だな」


 日下部の目がこちらに向く。


「えぇ、そうね」


 透き通った夜空に輝く星々よりも明るく光を放つ夜景。

 あの光の一つ一つに人がいて、生活があると思うと、なんだか圧倒されてしまう。

 ドラゴンを前にしても、そんな風にはならないのに。


「今回は助かった」

「特に活躍した覚えはないけど」

「結界を張って民間人を救っただろ? 俺じゃあ間に合わなかった。戦いに専念できたのも日下部のお陰だ。だから、礼を言っとこうと思って」

「そう、わかった。でも」

「でも?」

「そんなことでお礼を言い合っていたらキリがない」

「んー……まぁ、そうだな」


 余計なことだったかな。


「あなたの言葉を借りるなら、私たちは相棒なんでしょ」


 日下部は夜景に目を向けながら、そう行ってくれた。


「ははっ! そうだな。じゃあ、今度からお礼は行動で示すよ」

「えぇ、私もそうするわ」


 互いに笑みを浮かべつつ、日下部はそこにとどまり、俺はみんなの輪に戻る。


「上手くやっていけそうだよ、親父」


 小さく独り言を呟いて、バーベキューを再開した。

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