Lastステージ6:虎ノ国【タイガーランド】⑤
今回の目的ってなんだっけ?
そうだそうだ、ジンライを助けることだよね?
じゃあ、なんで目の前に、戦う相手としてジンライがいるのだろうか。
どうして、こんなことになったんだろう。
【伝説級の魔法である神魔法を操ることの出来るジンライ選手‼果たして、今回はそれが披露されることはあるのか!?】
「始めましてお二方……俺の名前は、ジンライ。翔琉ママとライパパの息子にして、インドラじーじの孫だ。よろしく頼むぜ」
「なにがよろしく頼むぜ、だよ。優勝候補たる俺の存在が霞んでしまうくらいの紹介されちゃって全く……」
ベルクーサスは、改めて身構えるが、身構え終わった瞬間に彼は壁に蹴り飛ばされていた。
かろうじて意識が残っているので、失格にはなっていないけど、戦闘再開には時間がかかりそうな様子だった。
そうか……既にジンライはーーー。
「神魔法:光天神発動中……」
神々しく輝く翼に、身に纏う光……まさしく、神魔法光天神だ。
【おおっと、ベルクーサス瀕死だ!そして、キタァァァァァァァァァァァァァァ‼神魔法‼これが伝説の魔法なのか!?】
実況側も、観覧している観客たちもかなりの興奮度合いだ。歓声に拍手に、すげぇぇぇぇぇぇぇぇと大声で叫ぶ声さえも、辺り一面に声と言う声が響き渡る。
「さてと……次はあんただな。オールドアの創造主と同じ名を持つ女イミナ……」
「お前……誰だ?」
「さっきも言ったろ?俺はジンライだ……神魔法の後継者……翔琉ママとライパパの息子……そして、インドラじーじの孫だ」
「……(だそうだけど、アマデウス、レネンどう思う?)」
俺は表面上、無言で焦っているように見せているが、深層心理的にはいたって冷静に分析と考察を開始していた。
そして、神魔法の化身たるアマデウスと、創造の神レネンの神様2神の意見を頂戴しようとしている。
だが、この2神の意見を言えば、本物だそうだ。
偽物でもなく、洗脳されているわけでもなく、これが【他人】に対して接しているジンライ本来の姿なのだと。
いや、まあーーー正直なことを言えば、洗脳されているわけではないけど、価値観を変えられてしまっている可能性は無くもない。インドラの洗脳というより、価値観の改革を行われた可能性がある。
よって、今のジンライは、俺の知っているジンライではないかもしれないと……そういう風に認識しておかなければならないと言うことだ。
「……じゃあ、かかっておいで。私はーーーあなたを倒して見せましょう」
「ふん、やれるもんならやってみな!世界魔法連合TOPクラスの力ーーー思い知れ‼」
そう言って、ジンライは女性姿である俺に対して、容赦なく蹴りを喰らわした上で、雷による気絶を狙った。
だが、まあーーー残念ながらその攻撃は通ることがなかった。
その前に、華麗にカウンターを決めて、俺はジンライを壁に放り投げていたからだ。
「そんな、バカな!」
そう言ったのは、実況でも観客でもベルクーサスでもなく、投げられた張本人であるジンライだった。
神魔法状態である自分の動きを完全に読まれているーーーと、彼は感じたことだろう。
【す、す、す、すごいぞ‼ダークホース、イミナ‼あの神魔法状態であるジンライの動きを完全に読んで、カウンターを決めた‼】
「すげぇな、あの女ーーー」ざわざわ。
「まじかよ、あの女ーーー」ざわざわ。
「なんでこれまで無名だったんだよ」ざわざわ。
会場中がざわざわしている中、俺はジンライを見ていた。
俺は現在神魔法を使うわけにはいかないーーー戦況を完全に見極めるまで、そして、アマデウスによる神魔法の吸収も、【勇敢】という能力もーーーそんなことをすれば一発でばれてしまう。
仮にも相手はジンライだ。
俺と同様に魔法耐性が高い。
魔法による応戦となると、神魔法や、究極神魔法を使える向こう側の方が有利だ。
ならば如何にして、短期決戦で終わらせるか……かな。
「あはは♪久々にワクワクしてきたよ。初撃をかわした上で、綺麗にカウンターを決めた……そんなこと出来るのは、8人の大魔導士か、3人の太古の魔導士……または、翔琉ママとかくらいなものかと思ったけど……お姉さん凄いね」
そう言って、ジンライは笑っている。
嬉しそうに、楽しそうに、だけど悲しそうにーーー。
どこかで、そんな自分が嫌いだと言わんばかりにーーーなにかに、後悔して罪悪感を持った……そんな感じだ。
「何を脅えてるのかな?なにかに、懺悔してるーーー君はそんな顔になってるよ」
「あぁ?うるせぇな、アバズレ。てめぇ、知った口調で話してんじゃねーよ、ブスが……」
うわー。
ジンライ……俺、そんな風に育てた覚えないよ。
酷い罵詈雑言だよ。
「酷い事言うんだね。そんなこと言ってるところをあなたのお母さんが見たら、どう思うかしらね」
「あぁ?てめぇ、人の母親にケチつけんのか?この世界で唯一無二の愛すべき俺の母親ーーー天野翔琉ママのことを」
いやぁ、まあ。
そう言ってくれるのは嬉しいんだけどーーー俺やで。
その天野翔琉ってのは、俺だぞ。
「だから、罵詈雑言ばっかりいってると、怒られーーー」
「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇ‼お前が俺の母親を語るなぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」
くしゃくしゃの表情で、ジンライは俺の回りを光速で移動している。
残像がいくつも残る。
まるでこれじゃあ分身の術じゃないか。
「さぁ、大人しく気絶しろ‼イミナ‼」
「ふむ……そんなにしてまで、君は何故天野翔琉が悲しむようなことをしているのかな?」
「なんだと!」
「君は学園からインドラに誘拐されるという形で居なくなった……という風に聞いている。そんなことをされてしまったら、君の両親ーーー特に、君が愛してやまない天野翔琉はどういう気持ちになったんだろうね」
「……」
「君はそんな天野翔琉の気持ちを無視して、こんなところで女の子をボコって……なにがしたいのやらと、私は思うね」
「……黙れ‼」
分身がすべて消え去り、ジンライは空中で静止していた。
ただ、身体は静止しても、気持ちは……感情は爆発寸前なくらいうち震えているのが、目の充血具合でわかる。
あれは、そうとう怒っているときのジンライの目だ。
「もう、どうでもいいーーー死なない程度に死ね。光の魔法:天照大御神‼」
神魔法光天神状態の、天照大御神ーーー光の巨大な攻撃が俺に向かって放たれるーーー。
【これは、光属性最強系攻撃魔法の天照大御神だぁぁぁぁ‼ジンライ、イミナを殺す気か!?これをイミナどうするんだ?というか、我々も……ヤバイ?】
「大気が震えている」ざわざわ。
「これヤバイよね?」ざわざわ。
「イミナちゃん、逃げてぇ‼」ざわざわ。
「逃げろ、イミナちゃん!」
ベルクーサスは、自身も危険なのに、真っ先に俺に逃げるように促した。
あーいう感じなのかな、俺も。
自らの危険を省みず、自らの命さえも危うくなりながらも、他人を心配する。
「大丈夫だよ、ベルクーサスさん。私はーーーこの程度じゃ、死なない」
にこりと微笑んで、俺はあの巨大で恐ろしい攻撃魔法に向かって手をかざす。
そして、次の瞬間、無詠唱の時の魔法:逆時によって、彼の魔法はかき消される。
というか、相殺させた。
「ふう……危ない危ないっと」
にこりと、服に汚れすら無く、無傷でその場に佇んでいるあり得ない女ーーーまあ、女の振りをした男なのだけど。
だが、まあそんなあり得ない光景に、会場にいた観客、そして選手たちや、ベルクーサス、そしてジンライさえも唖然として固まっていた。
そんな静寂の会場に響き渡るのは、俺のこの発言だ。
「どうしたの?まだ全然本気出してないんだけど……まだやる?」




