Lastステージ3:虎ノ国【タイガーランド】②
「絶対滅亡操作……」
突如として振り落とされた巨大な雷相手に、俺は拒否系魔法で迎撃した。
しかしながら、その雷は消えることなく、俺目掛けて一直線に進んでくる。
雷の速度はすさまじく早い。
だが、光には届かない。
「神魔法:光天神‼」
間一髪のところで、神魔法状態になった俺は、光の速度で、その場にいた全員を連れ出し、雷を回避することに成功した。
俺たちのいた場所は、クレーターのような巨大な穴となって、ゴゴゴゴっと凄まじい音を立てて、炎が燃え盛っていた。
「くそ……なんで、拒否が効かねぇんだ?」
「だから、ダメだっていったでしょ翔琉‼今のは魔法じゃなくて、あの国特有の性質なんだから‼」
「あの国特有の性質?」
「タイガーランド全域には、なぜか外側から広域戦闘魔法を発動させた者に対して、自動的に魔法防御不可の、巨大な雷が落ちるんだよ。虎族は【白虎の守護】って、言ってる。初代虎族族長の白虎様の御力が、この国を、虎族を守っているんだって」
魔法意外の攻撃ーーーならば、先程の拒否系魔法が通用しないことにも説明がつく。
広域戦闘魔法に対する自然の猛威……。
虎族は、雷属性を得意とする者が多いらしい。
虎族歴代最強と言われる、白虎もまた雷を操ることに長けた者。
長年の虎族の苦痛を感じた白虎が、死してなお、守ろうとしているのだと言えば、何となくこの事象にも納得がいくかと思う。
「でも、早くしないとジンライが……」
「……。翔琉……1つだけ、方法ならあるよ。唯一無二の方法だけど……」
そう言ったのは、ボルだった。
唯一無二の方法ーーーそれはいったいなんなのか。
ボルがそっと耳打ちして教えてくれたその秘策に、俺は唖然とした。
ディルや、ライにも同様の内容を伝えたボルーーーそれに対して、彼らはお腹を押さえて笑っていたのだった。
ディルやライには、なんにもする必要はない。
この場でその行為が必要なのは、俺だけだったのだから……。
「はい、通っていいですよ……」
検問の虎族の騎士は、俺たちをすんなり通してくれた。
そして、騎士はにこやかに笑みを浮かべ「かわいいお嬢さんを嫁にするなんて、ボル殿は羨ましいですな」と言う。
ボルはにこやかに笑みを返して、そそくさと俺をつれて行くのだった。
「くそ……なんで、こんなことに……」
俺は近くにあったお店の窓に映った自分の姿を見て、プルプルとうち震えていた。
なぜなら、そこには俺の女装姿が映し出されていたからだ。
「……一応、魔法で性別まで変化させてあるけど……翔琉……もういっそ、女の姿で過ごした方が、俺的には結婚に繋げられるから嬉しいんだけどって言うか、一生そのままの姿でいてくれお願いだお願いだお願いだ‼一生のお願い……」
「あー、ストップストップ‼」
ライが俺に向かって迫ってくるのを、ディルが制止する。
そんな制止してくれているディルは、ちらちら俺の姿を見てバカにしたような表情で見て笑っている。
くそぉ……。
「大丈夫だ、翔琉。お前が女の姿になっても、俺たちの友情は変わらないさ」
「うん、ボル……でも、こんなんでよくは入れたね」
「言ったろ?この国に入るにはIDが必要だって。単独の場合はな」
俺たちが今現在、この国に入るためには、IDが必要だった。
だがまあ、それが必要なのは俺くらいなもので、他のボルやライ、ディルに至るまで、実のところこの国のIDを持っている。
まあ、ディルに至っては父親がこの虎族を救ったことも大きく、無償で貰ったらしいのだがーーー。
その結果、俺のみがIDを持っていないことになった。
だがまあ、単独……すなわち、個人で入国する場合にIDが必要なわけであって、家族で……夫婦で入国する場合は、誰か1人でも持っていれば、入国することは可能らしい。
偽装夫婦……詐欺じみていて、とても悪い感じしかしないのだが、それでも入国は出来るのだ。
だけど、なんで俺がボルの奥さんって事で入国することになったのか、それはディルとライの身の上を考えた上での行動だ。
今回のこの潜入には、天野翔琉がこの国に入国したということを隠しておかなければならなかった。
もしも、俺の入国をインドラに知られてしまえば、即座に強制退国させられてしまうだろう。
時の監視者ディルーーー彼女の場合、俺を発見した第一印象が強すぎる上に、天野翔琉のお目付け役として有名すぎる。
雷の大魔導士ライーーー彼の場合、天野翔琉のことが好きすぎる上に、二人の間に子供がいることも公然として知れ渡るほどの情報なのだ。
つまりこの場で唯一、俺との接点を感じられない光の大魔導士ボルならば、まあ大丈夫だろうと言うそんな思惑なのだ。
「でも、あれだよね。翔琉ってさ、女の姿でもモテそうだね……」
「そうだな……俺なんて今すぐ茂みに連れ込んで……」
「やめろ。その発言やめろライ」
茂みに連れ込んでなにされちゃうんだよ俺は……全く。
「ってか、ディルーーーよくこんな服持ってたな……」
こんな服……というのは、パーティ用のかっこいい西洋風のドレスなのだが。
ディルのイメージって、甲冑ワンピースか時読衣なんだよな。
「えへへ。私だって社交場に呼ばれるときがあるからね。そりゃぁいつでも着替えられるようにストックを別空間内に収納してたりするわよ」
「んー、だけどこのサイズ……」
「そりゃあ、あんたと私って身長があまり変わらないからじゃない?前に伸びちゃった身長も、オールドアをくぐったら戻っちゃった訳だし」
「いいや、お腹周りがきついんだけど……」
「……」
「ガハッ……‼」
俺のこの発言に対して、ディルが無言で腹を殴ってきた……そしてそのまま、俺は連打連打の鬼のような制裁を加えられたのだったーーー。




