Lastステージ2:虎ノ国【タイガーランド】①
虎獣人とは、かつて奴隷種族として扱われていた種族の1つである。
暗黒魔法教団の戦争より遥か前……巨悪とされていた英雄の偽りの歴史時代の物語ーーーそれは、虎獣人にとっては、長い長い悪夢のような毎日であり、年月だったといえる。
虐げられし、強固な生命……長年の怨みはやがて、彼らに復讐心として根付き始めようとしていた。
だが、そんな状況を救ってくれたのは、何を隠そう自らを奴隷にまで貶めた人間だった。
時空間魔法伝承者である【ディン】。
前時の監視者にして、魔導士ディルの実父である。
暗黒魔法教団との戦争の最中、ディンは各虎獣人の村を巡り、奴隷扱いされていた虎族達を解放して、1つの場所に移動させる。
中には、誘導に従おうとしなかったものもいたものの、虎族のほぼ9割が、その場所に集まった。
そして、ディンは虎族による永世中立の独立国の設立を世界魔法連合に提案し、その場所は虎族の国となった。
虎ノ国【タイガーランド】。
緑豊かで、のどかな田園が広がる小さな国。
やがて、奴隷制度が廃止され、彼らは真の意味での自由を手に入れた。
ここは、そんな負の連鎖から絶ちきられた国なのだ。
そして、俺の息子であるジンライが誘拐され、連行されたと予想される国なのだ。
「……ジンライ」
俺はこの国の入り口まで来ていた。
この国は、国境審査というのが厳しく、通常ならば専用のIDが必要になる。
申請してから1週間程で出来る極めて簡単なID。
だが、そんなことをしている余裕はない。
「正面突破だな……」
と、俺が今まさに突入しようかと言うときに、後ろからそれを制止する声が響く。
振り向くとそこには、時空間魔法を操る現時の監視者ディルと、雷の大魔導士ライ……そして、光の大魔導士ボルだった。
「翔琉……あんた、行動早すぎ‼」
ぜぇぜぇと、息を切らしながらディルは、俺のことを軽く殴る。
ライとボルは、久方ぶりにこの国に戻ってきたようで、辺りをキョロキョロと見回している。
故郷を懐かしんでる場合ではないぞ、2人ともよ。
「それで、インドラ族長が住んでるのは、どこだ?」
と俺が聞くと、ボルは奥にそびえ立つ城を指差す。
「あそこが、虎ノ国族長の住む城【白虎殿】。そして、あそこからジンライの生命反応が強く出ている……だから、間違いなく今回の誘拐騒動はインドラの仕業だ」
「でもなんで、ジンライを?」
俺のこの疑問に対して、ライやボル……そして、もちろんディルも知るよしはなかった。
ただ言えるのは、ジンライを拐ったインドラが危険人物であること。
それと、あの戦闘能力が世界魔法連合の中でも上位のジンライがあっさりと拐われてしまったこと。
その意味を、その理由を知るまでは、油断することはできないだろう。
「とりあえず、この国に入ることが先決だな……」
IDを手に入れられないのならば、密入国するしかあるまい。
以前、暗黒魔法教団本部へ潜入したときのようにーーー。
「いや、まて翔琉……」
と、ライは顔を曇らせながら言う。
どうしたんだ?
「ん?なんだ、ライ?」
「迂闊に侵入すると、とんでもないことになるぞ……」
「とんでもないことって……」
と、俺がいいかけたとき、タイガーランドの方から、凄まじい警報が鳴り響く。
鼓膜が破れてしまうのではないかと言うような、凄まじい轟音がやんだと思った瞬間、国のある部分に巨大な雷が落ちた。
「あれは、対侵入者用の迎撃魔法【鳴神斧】……不法侵入者に対して自動で発動される魔法だ。かわすごとに威力が上がっていくという特徴もある……」
「なんて嫌な魔法なんだろうか……陰湿な根倉野郎がやりそうな魔法だな……」
「陰湿な根倉野郎でごめんなさい……」
「あ、ライがあの魔法を仕掛けたのかよ……」
すっかり不貞腐れてしまったライをよそに、俺はタイガーランド全域に向かってある魔法を放とうとしていた。
魔法を拒否する魔法ーーー絶対滅亡操作。
鳴神斧は所詮は魔法だ。
ならば、魔法を拒否して使用を封じる魔法ならば……。
「やめろ!翔琉!」
と、我に帰ったライの忠告が一足遅く……俺はタイガーランド全域に、絶対滅亡操作を発動しようとしていた。
だが、その瞬間ーーータイガーランドから、巨大な雷が俺の方へ向かって襲ってきたのだった。




