5thステージ37:天野翔琉vs邪神アマギ③
アマギの最大の不運は、俺を目撃してしまったことかもしれない。
俺さえ、やつの視界に入らなければ、俺さえアマギに見つからなければ、アマギは底辺の下等生物だと思ってみている人間に、ここまでやられたりはしなかったと思うんだ。
たまたま慈愛に満ちていた赤子が俺で、たまたまそこに自身の兄であるレネンの魂もいて、たまたまアマデウスもその赤子の中に入っていったーーー偶然が偶然を重ねていった奇跡であり、神様が人間に破れ行く軌跡でもあるのかもしれない。
とは言っても、アマギは神とは言っても、躾がされていない、ワガママで傲慢でバカな子供としか言えない。
だからここは、神を打ち破るというより、きちんと躾をすればいいと思うんだ。
前回のように、上から押し付ける勝ち方をすれば、このように何度も何度も復活してくる。
倒すことは【可能】、封印することも【可能】、復活するのも【可能】だ。
そして、復活を阻止するのも【可能】であるので、勇敢の能力は自由に使えない。
だからこそ、この神様には自ら敗北という2文字を背負ってもらわなければならない。
屈辱だろうが、無様だろうが、憐れだろうが、蔑まされようがーーーこいつには、それを噛み締めて、我慢するということを覚えてもらわなければならない。
そうしなければ、永遠にこいつはこのままだ。
他の生物を玩具にし、誰からも嫌われ、愛情を憎み、世界を壊そうとする邪神。
俺は何も、こいつに死ねと言っているわけではない。
ただ、大人になれと言っているだけだ。
見た目や外見などの、外見的な話ではなく、内面的に大人になってほしいのだ。
まあ、子供である俺がぐだぐだと大人になれと言ったところで、説得力の欠片も存在しない。
むしろ、歳下が歳上に口答えすると、罵詈雑言や何倍にもなって自らに跳ね返ってくる……。
大人なんてそういうものだろう?
だったら、子供なりのやり方で、子供に子供を止めてもらう。
子供を止めたら、大人だろ?
だからこそ、こうして戦っているのだ。
だからこそ、こうして反則級の力で戦っているのだ。
神を倒すのではなく、神に敗北を認めさせるーーーそれが、今回の勝利条件なのだ。
「精霊王魔法:戒めの呪い‼」
アマギは更に俺に、力を封じ込める魔法を放ってきた。
この魔法にかけられたからには、固有で持っている魔法・能力などは一切使えなくなってしまう。
そして、魔法もーーー文字通り、無防備なのだ。
「天野翔琉……これでお前の能力も魔法も、取り上げた!人間風情が!人間の癖に!人間の分際で、俺の邪魔をしたお前には、なにも残らないのがちょうどいい……無様で這いつくばるお前の姿を見ていたいからな‼」
アマギは見事見事に勝ち誇った顔をしている。
いや、まあ……さすがに、戒めの呪いまで発動されちゃうと、解除までに数十秒かかっちゃうけど……。
ん?
いやだって、能力を使えない……ってことは、能力使用【不可能】なんでしょ?
だったら、自動的に【勇敢】の能力は、発動している。
だがまあ、自力で使っていないから、その分効果が出るのが遅いだけなのだが……。
「さあ、天野翔琉……もし、命乞いをするならば、その場ではだかになって3回回って『ワン』と鳴け……そうすれば、考えてやらんでもないぞ……」
あのさあのさ、こういう台詞を、テレビドラマとか、アニメとか、漫画とかで毎回見ると必ず思うんだけどさーーーなんで犬なの?なんで、敵に命乞いをする際に、犬の物真似をしなきゃいけないわけなのだ?
毎度毎度のように、悪役とかがこの台詞を言う度に犬の尊厳を傷つけていると思うのだ。
だがまあ……こういう台詞を直に言われて思うのが、やはり不快の2文字だ。
だから俺は答える。
能力を封じられている振りをして、強がっている振りをして、傲慢で余裕そうな顔をした邪神に向かってーーー。
「断る‼」
さて、どうやってこの邪神に敗北を認めさせようかな……。
初めてやつと戦った時ーーーそれは、多勢に無勢だったな。
神様3人の力を借りて、神様1人を打ち倒したんだっけ……。
多勢に無勢……だな。
2度目の戦闘は、異世界……未だに描かれていないJMGでの物語だったな……。
あの場面で、みんなで……って、これも多勢に無勢か。
結局のところ、俺は誰かに助けて貰うことで、こいつに勝ってきたんだよな。
自分だけの力で勝ったってことが1度も無いわけだ。
自分の能力に溺れ、自分の魔法に溺れ、自分の仲間に溺れーーーそして、人間性に溺れた。
自問自答として、回想のように思い出してみると、危うく俺は同じ間違いをしようとしていたのかもな。
再び、力に任せ、暴力的に邪神を倒そうとしていた。
再び同じ過ちを繰り返して、俺が元の世界へと帰るまでの物語をぐだぐだと、展開し続けるところだった。
結局のところとしては、アマギを敗北させなければ、やつが何度も何度も復活して、永劫に戦わなければならない。
まあ、俺が敗けを認めるって手もあるけどーーーそれやると、世界が滅んじゃうんだよね。
何故って、結果として、ワガママやり放題を止める者が居なくなるわけだし。
やれやれだよね。
父親であるヨルヤ=ノクターンや、母親であるファーストが本来ならば、子供であるアマギに『めっ!』って、怒ってやるのが一番いいのだろう。
だけど、2人の回復には、あと数分の時間がかかるだろう。
しかしながら、反抗期真っ只中のこの邪神に、親の言葉など通じないだろう。
だから彼らは、いたぶられ、瀕死になっていたんだ。
反抗期の子供ほど恐ろしいものはない。
何をするか分からないからなーーーこの邪神は。
「さて、断ったからには、やっぱり死んでくれよな♪天野翔琉♪」
アマギら不気味な笑みを浮かべ、上空に魔法陣を描くーーーあの、図形……数学の問題で見た思い出があるんだけど、なんだっけ……。
……。
……。
そうだ!
あれは、魔方陣だ。
ある一定の法則を持った数字が並ぶ数学の問題だ。
魔法陣のような魔方陣ってややこしい!
だけど、あんなもので、何をする気なのだ?




