5thステージ33:親子
アマギの邪念をどうやって倒そうか……と言うのが今回の課題だろう。
仮に翔琉ママを起こしたとしても、邪念が素直に倒されるとは限らない。
むしろ、邪念にとっては、天野翔琉の目覚めと言うのは、強力な精神力で捩じ伏せられてしまう危険性もあるはずだ。
だからこそ、やつはそう簡単に天野翔琉を目覚めさせようとはさせないはずだ。
「天野翔琉くん……身長は163cm、血液型はB型、趣味は実験と発明な、ごくごく普通じゃない中学1年生……か……」
「???なにそれ?」
「ん?いやーなに……ここは、翔琉くんの精神世界だから、考えてることや、記憶なんかも除き放題だったりするんだぜ♪」
「お前……翔琉ママの記憶を……俺も見たい♪」
なぜか知らないが、そこには興味があった。
翔琉ママが、俺たちの事をどういう風に見ているのか……そして、どういう風に思っていたのかを。
「あれ?いいの?翔琉くん……起こさなくて?」
「大丈夫大丈夫……ここに来る前に、翔琉に時間凍結かけといたから、精神世界で何時間何日いようが、冥界ではまだ、1秒も経ってないよ……」
「あ……そうなの……ちょっと、邪念も驚きだわ」
「まあ、いいからいいから観よ観よ♪翔琉ママの記憶♪」
と、俺はなぜか邪念と共に、天野翔琉の物語を……天野翔琉の思考を、思いを観ていくのだったーーー。
"俺の子供だと言い張る、小さな虎さんがいます。
虎さんの名前は、ジンライという。
ジンライは、古の儀式によって、生まれた命だと言う。
……。
……。
やれやれ、とんだわんぱくな子供だな……。
誰に似たんだか……でも、くそ可愛い‼"
「翔琉ママったら、本当の事ばっかり言っちゃって♪」
「お前……デレデレだな……」
"「ねえねえ、ママ」
「何だい?」
「ママはこの世界が平和になったら元の世界に帰っちゃうの?」
「うーん……まあ、そうなるね。 この世界での出来事は確かに面白いけど、俺にとってはこれは現実ではなくて、冒険ファンタジーって感じなんだよね。 どうしてそんなこと聞くんだい?」
「僕はママと一緒がいい。 だから一緒に行きたいなーって」
「うーん……俺はいいけど、ディルとライが許さないんじゃないかな?」
「どうして?」
ウルウルっとした目で俺の顔を除くジンライに、厳しい現実を突きつけるわけにはいかず、俺はただただ黙ってしまった。
泣かせたくない……けど、いずれ話さなければならないのだろう。
この後待ち受ける、別れと言うものを――――自分の子供に教えるときは自ずとやってくる。
だけどそれは今じゃないと思うんだ。
きっと今言っても、ジンライには完全に理解することができないと思う。
だから、今は黙っておこう。
いずれ俺がこの世界からいなくなるという現実を……そして、2度と会えなくなるということを――――"
「はぁ?あの母親……何をぬかしてるんだ?」
「と思ったら、今度はキレ始めるし……翔琉くん、こりゃあとんでもねーぞ……」
"【オールドア】の前で、最後の別れを告げている。
「じゃあ、俺……元いた世界へ戻るね」
あっさりしたもの言いに、不満をあらわにしている仲間たち。
そしてジンライは駄々をいまだにこねている。
「嫌だ! 翔琉ママと、一緒がいい‼」
容姿は大人と変わらないけど、心は幼いままだった。
ライはぐっとこらえてジンライを抑えているのが伺える。
みんな見送りには、涙を流さない―――――旅立ちや別れは永遠ではない事を、みんなは知っているからだ。
いつかまた必ず会える―――――そう信じて、見送る。"
「翔琉ママぁぁぁぁ別れたくなかったよぉぉぉぉぉぉぉ」
「今度は号泣……感情が不安定すぎるでしょ、この子供……」
"「……‼この気配は……」
地上の世界から、明確に感じ取れたおぞましい殺気を俺は即座に感じた。
このおぞましい気配を、ノクヤには感じることはできないだろうな。
何故ならば、その気配は、ノクヤ自身と同じものだったからなのかもしれない。
同じもの同士の気配は感じられない。
何故ならば、同じなのだからね。
「強い憎しみの力……そして、悲しみ……神魔法の裏側へと繋がる闇の力……ダメだよジンライ……その力は、破滅しか生まないんだ……」
この俺の言動はノクヤには、理解できないだろうけど、これだけは分かったようだ。
【天野翔琉は、地上の世界へと戻ろうとしている】
ノクヤ……いや、ヨルヤ=ノクターンにとって、これは一番危惧し、恐れていた事態だった。
せっかく閉じ込めたのに、このままでは……逃げられる。
そう感じていたことだろう。
だが、俺は行く。
「翔琉?嫌だよ……ダメだよ……逃がさないよ……」
「ノクヤ……そこを退いてくれ……俺は、地上へと帰る」
「ダメだよ……行っちゃダメ。例え翔琉でも、聞き分けないと怒るよ?」
「ノクヤ……君にかまってる時間は終わったんだ……意地でも通してもらうよ……」
始めて向かい合って、俺に始めて威圧されたノクヤには逆らえる気がしなかった。
どんな生物、どんな悪魔、どんな神さえも倒せる力を持つヨルヤ=ノクターンは、始めて恐怖を覚えたーーー異形の姿でもなく、化け物でもなく、ただ普通すぎる普通の俺に対して。
俺は、数多くの知識を有しながらも、その知識を使うことなく、世界最強最悪の悪魔に、無血勝利を決めたのだった。
その勝利後、我が物顔で、悠然と地上へと向かった。
憎しみに捕らわれ、神魔法の裏側……【邪神魔法】を発動させた自身の息子を救うためにーーー。"
「翔琉ママ……そうだったのか」
「いい親じゃないの、ジンライくん……君の事を本当に大切に思ってくれているじゃない……良かったね、ジンライくん……」
「‼おい、邪念……お前、身体が消えかけているぞ」
俺の言葉通り、邪念は光に包まれ始めた。
そして、ゆっくりと透け初めて行った。
「あららら……どうしたのかしら?」
バキバキっと、後ろの翔琉ママが入っている結晶に大きな亀裂が入る。
ということは、翔琉ママが起きる?
「なるほどなるほど……翔琉くんが起きるから、僕は消え去る運命なのか……あはははははは……そりゃそうか……」
「……邪念……」
「なんだよ……君にとっては嬉しいことなんだから、素直に喜べよ……」
「……いや、ありがとう……お前のお陰で、翔琉ママの心が少しだけど除けた……それだけは、感謝してるんだ」
「おいおい、邪念にお礼を言うとか、変わった子供だね……まあ、嫌いじゃねーけど……達者でやれよ……」
そういって、邪念は消えた。
そして同時に、天野翔琉を閉じ込めていた結晶が砕け散り、天野翔琉が中から出てきた。
「はぁ……はぁ……痛いな……もう……誰だよ、俺の記憶を勝手に読んでたやつは……」
「翔琉ママ……?」
「あ?……‼ジンライ……?」
「翔琉ママ……」
「ジンライ……」
「翔琉ママぁぁぁぁぁぁ‼」
俺は勢いよく翔琉ママに抱きつくいた。
翔琉ママはそんな俺の頭を撫でてくれた。
そして、翔琉ママは静かに俺を抱き寄せて泣いた。
「ジンライ……心配したんだよ……お前が無事で良かった……」
「翔琉ママごめんなさいごめんなさい……俺が、俺のせいでこんなに、瀕死にさせてしまって……ごめんなさいごめんなさい……俺、邪神魔法発動させちゃったよ……ごめんなさいごめんなさい……」
「もういいんだよ……お前さえ無事で居てくれれば……どんなに離れていようとも、どんなに遠くても……無事で居てくれれば……いいんだよ……」
俺は改めて思った。
翔琉ママは、どんなところにいっても、どんな目にあっても、どんな状況でも、翔琉ママだと言うことがーーー。
さあ、帰ろう……。
我が家へ……。
そして、平和な世界へ……。




