5thステージ32:邪念
天野翔琉の心の中へと、俺……ジンライはダイブしていた。
深い深い海のようなこの世界…このどこかに、翔琉ママは沈んでいるのか?
そして、邪念に囚われてるのか?
「翔琉ママぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」
と、思いきり叫んでみたものの、水の中のようなこの空間内では、声がうまく響かない。
というか、そもそも翔琉ママはどっちにいるんだ?
上?下?右?左?
全くわからないぞ。
「くそ……水の中だと匂いさえも辿れない……」
翔琉ママ……どこにいるんだよ。
「‼ここは?」
唐突に空間が変化し、俺は翔琉が前に話してくれた【理科室】という場所にいた。
なんだ?突然、空間が変わったぞ?
いやしかし、聞いていたとはいえ、理科室って不思議なものがおいてあるんだな。
ガラス状の容器や、なにかの標本、そして結晶の中で眠りにつく翔琉ママ……いやぁ、ほんとうにより取りみどり……。
……。
……。
……‼
「翔琉ママ‼」
唐突に翔琉ママを発見した。
結晶の中で眠るとか……かつてのルルイエでの出来事みたいだな。
あの時も、翔琉ママは結晶の中で眠りについてたんだよな……。
って、今は懐かしんでる場合じゃない。
「おい、翔琉ママ‼起きてくれ‼」
俺は結晶を砕く勢いで、ガンガンと叩くが、いっこうに壊れる気配がない。
その前に俺の手が壊れてしまう。
何て頑丈なんだろうか。
「無駄だよ……ジンライくん……彼は目覚めないよ……」
「誰だ!」
後ろを振り向くと、そこには邪神アマギが立っていた。
いや、性格にいえば邪神アマギと同じような邪気を放っている人間でも神でもないなにか……。
ただ、俺と話しやすくするために、アマギの姿になっているだけのなにかだ。
「僕は君らの言う邪神アマギと呼ばれる神の、負の感情そのもの……つまるところ、邪念なのさ」
「お前が邪念……翔琉ママを捕らえている槍の正体……」
「流石は天才少年の息子……その理解の早さは、尊敬に値するよ」
「お前がママを……‼」
「おっと、勘違いするなよ小僧……あくまでも、お前が俺をこの結晶の中で眠るやつに向かって投げつけたんだぜ?」
「ぐっ……」
痛いところをついてきやがる。
「さてさて、お前は天野翔琉を自由にさせたいらしいね」
「そうだ……俺は、翔琉ママを助けるんだ……今にも死にそうな翔琉ママを……」
「いいよ」
「だからお前を倒して……って、え?」
「いや、だからいいよ。天野翔琉を連れて帰りなよ」
「え?」
「ん?嫌なの?」
「え、いや……だって、この流れで行くと戦闘が始まるんじゃないの?」
「ははっ……君、なにか勘違いしてるよね♪邪神アマギの邪念とはなにか……それを考えてごらんよ。そうすれば、僕の正体が分かるはずだぜ」
邪神アマギの邪念……。
そもそも、邪念とはなんだろうかというところから考えてみると、邪な思いというのが邪念だよな。
例えるなら、光側の人間が闇の思想に取りつかれるのも、ある意味では邪念に飲み込まれたといってもいいだろう。
じゃあ、アマギにとっての邪念とは?
アマギは、闇側の存在……つまり、光側への思想に取りつかれることが、邪念?
「お前は……もしかして、邪神アマギの良心か?」
「ピンポーン♪大正解♪」
良心……良い心……。
悪いことをしそうになった時に、迷うために持っている1種のブレーキのような役割を持つ心。
それがこいつなのか?
いや、それにしては邪悪な気配が強すぎる。
「嘘だろ……」
「うん、嘘だよ」
ガクッと、思わず転けてしまった。
ほんとに、アマギそっくりだな。
「まあ、邪悪な存在には代わりねーよ。僕はなんといっても、あのアマギの邪念だぜ!そりゃそうだろーよ!えーえー!」
「何で逆ギレしてるんだよ……まあ、なんにせよ……翔琉ママは連れて帰るぞ‼」
「ん?君の目的って、僕を倒して、彼を起こすことなのに、連れて帰っちゃって大丈夫なのかい?」
「あ……そういえば……って知ってたんかい‼」
「そりゃあ、全知全能の神だったアマギの邪念ですから♪えへんデス♪」
こいつのこの言い方……まるで、永遠に歳を取らないと宿命付けされた、大所帯の家族の長女の息子みたいな言い方だな……。
でも、確かにこいつの言うとおりだーーー。
天野翔琉を復活させるには、この邪念を倒して、翔琉ママを起こす必要がある。
じゃなきゃ、こいつに翔琉ママの肉体を乗っ取られる可能性もあるからなーーー。




