5thステージ27:ジンライvsマクスウェル
天野翔琉の息子にして神魔法の後継者と呼ばれている俺……ジンライと、記憶を司る悪魔にして天野翔琉を偽った悪魔マクスウェル……こいつだけは許さねぇ。
俺の親を……俺の記憶を……俺の翔琉を……弄びやがって‼
「究極神魔法発動‼」
戒めの呪いを何故マクスウェルが解いたのか……それは分からないけど、今の俺は魔法が使える。
こいつ相手には手加減なんてレベルじゃ、瞬殺される。
だったら、初めから全力で行くしかない。
魔法発動と同時に俺は、空間魔法で俺とマクスウェルを空間転移させた。
あの場所で戦ってしまえば、あの翔琉ママとの思い出の家が消え去る上に、翔琉ママと一緒に住めなくなる。
「ここは……そうか……そうなのか……」
と、マクスウェルは、辺りを見回してこの場所の事を即座に理解した。
俺が戦闘場所として選んだ場所……それは、オールドアが現在ある【始まりの塔】だ。
かつて、神が初めて降臨し、門を建設した場所ーーー天野翔琉と暗黒魔法教団の最終決戦地であり、天野翔琉が天野蘚琉に敗北した場所でもある。
ここならば、人気も無いし、かなり広いスペースだ。
俺とこいつが全力で戦うには、ちょうどいいほどにな。
「いくぞ、マクスウェル‼」
「いいよ……仕方がないから、かかってきなさいジンライ様……あなたを死なない程度に殺して、我が主の元に連れていきま……‼」
ドガっと、マクスウェルが言い終わる前に俺はやつの首筋目掛けて光速で蹴りを食らわせた。
だが、その蹴りは片手で防がれていた。
「嘘だろ……光速で放った蹴りを素手で……‼」
「悪魔の話しは最後まで聞くものですよ、ジンライ様……少しお仕置きいたしましょう‼」
ブンっと、勢いよく俺はマクスウェルにオールドアに向かって投げ飛ばされた。
だが、どうにか態勢を立て直して、オールドアに受け身をとって、そのまま地面に着地する。
危ない危ない……直に受け身も取れずにぶつかっていたら、大ダメージを負ってしまっていたところだ。
「おやおや、今ので終わらせるつもりでしたが、残念ですね……まだまだ、お仕置きの時間は続くようですね」
「ふざけんな、何がお仕置きだ‼どうせ、お仕置きされるなら、翔琉ママにされたいわ!」
「親にお仕置き求めるって……翔琉様……あなたは、どんな風にこの子をお育てになられたのやら……‼」
再び、光速で動来はじめた俺を完全に目で追いながら、マクスウェルは笑みを浮かべている。
力の差がありすぎるのか?
「光の魔法:聖邪光纏‼」
光速で動きながら、無数の聖なる光の槍を、マクスウェルへと投擲するが、あっさりとかわされてしまう。
ならばと思い、数を増やせど、華麗にかわしていく。
「くそ、なんで当たらないんだ‼」
「所詮は光速程度……そして、攻撃するあなたの目を見れば、どこに投げるか位は予想がつくというものですよ……ほら、そこ」
「ギャン!」
マクスウェルは光速で動く俺相手に、まったく手元が狂わずに、的確にその辺に落ちていた石ころをぶつけた。
光速で俺は動いている。
そのため、たった小さな石ころでも、致命的な凶器となる。
その、小さな石ころは、俺にぶつかると同時に粉々になって消え去ったが、もしも、もっと大きな石をぶつけられていたらーーー下手をすると俺は死んでいたかもしれない。
「痛い……」
と、俺は地に落ち、額から出ている血を押さえている。
よりによって、頭を狙ってきやがった。
あの野郎……。
「どうしたんだい、ジンライ様……その程度で私に勝とうなど、甘すぎますね……ほら、もっと上の力があるでしょ?私に怒れ、恨め、憎め……邪神魔法を使え……そうすれば、私なんぞ簡単に倒せてしまいますよ」
「……いやだ……あの力は、諸刃の刃……絶対に使うもんか!邪神復活の糊代に、なってたまるか!」
「おや、知っていましたか……ならば、無理矢理にでも発動させてあげますよ……」
そうか、こいつの目的は俺の捕縛じゃなくて、俺にあの邪神魔法を発動させることなのか。
あの魔法を発動すれば、俺は心に隙ができる。
その隙に邪神復活の生け贄とする気なのか?
だったら、尚更、邪神魔法は使えない。
使うわけには行かないんだ。
「おやおや……仕方がないですね……」
パチン、とマクスウェルが指をならすと、別空間から黒い十字架に血だらけで磔にされた仲間たちが現れた。
ディルや、ライ……他の大魔導士たちや、ロギウスも……そして、ボルやアマデウスたちまで‼
そして、そのままオールドアの方に並べられた。
みんな、呻き声を上げている。
おぞましくて、苦しくて、死にそうな……生物の終わりを告げるようなそんな声だった。
「みんな!」
と、俺は声をかけるが、全くといって反応できないほどに瀕死の様子だった。
血がボタボタと流れ落ち、呼吸をする度に死にそうなくらい苦しそうな表情を浮かべる。
「お前……みんなに、何しやがったんだ!」
「いやいや、ジンライ様……見ての通り……瀕死の重傷にして差し上げただけでございますよ……彼らもほら、心地好いまでに素晴らしい呻き声を奏でてくださって、私、恐悦至極にございますよ」
「許さねぇ……許さねぇ……許さねぇ‼」
「いいですね……その感情……。さあ、もっとですよ。怒りと憎しみで心を満たして邪神魔法を発動させるのです」
「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇ‼光の魔法:神之憤怒ぃぃぃぃぃぃぃ‼」
放たれし、光属性最強攻撃魔法……しかも、究極神魔法状態で放った渾身の一撃。
究極神魔法の能力【昇華】で、今まで以上のパワーを発揮したこの魔法。
決まれば、勝利は確実だった。
決まれば……。
「甘いですね、ジンライ様……」
そういって、マクスウェルは自身の前に磔にした俺の仲間たちを移動させた。
つまり、やつは盾にしたのだ。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼」
と、魔法を拒否しようとしたが、時すでに遅く……俺の攻撃は仲間たちを飲み込み、マクスウェルに届く前に消えた。
そして、仲間たちも……俺の魔法によって、消え去った。
そんな……そんな……。
「嘘だろ……こんなの嘘だろ……」
「いいえ、ジンライ様……あなたは、自らの手で仲間を消し去りました……お見事でしたよ、ジンライ様♪」
「嘘だ……嘘だ……嘘だ……嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……」
泣きながら叫ぶしかなかった。
俺はなんて事をしてしまったんだ……俺はなんて事を……。
心が脆く崩れ落ちていくのが分かった。
ボロボロと、ぐちゃぐちゃと……俺の中で良心というものが黒く黒く塗りつぶされていった。
仲間をこの手で……。
「殺したんだよ……ジンライ様」
くすくすと笑いながら、マクスウェルは俺にゆっくりと歩み寄ってきた。
俺は一歩も動けなかった。
あまりにもショッキングな出来事で、その事で頭が一杯で、回避するどころか、敵を近寄らせるということをしてしまっていた。
だけど、そんな事すら思考が回らずに、ただただ泣き叫んでいた。
「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
「あはっ♪壊れちゃったみたいだね、ジンライ様……」
笑みを浮かべたマクスウェルは、静かに俺を抱き寄せる。
俺は無抵抗だった。
思考が回らずに、行動さえも出来ずに、成すがまま、されるがままに……俺は、マクスウェルに捕まったのだった。
だが、もうなにも考えられなくなってしまった。
仲間をこの手で殺したーーーその罪に押し潰されて……。




