5thステージ23:地上に蹴り出された少年
「翔琉ぅぅぅぅぅぅ今迎えに行くからねぇぇぇぇぇぇぇ‼」
その叫び声は、天下に轟き響き渡った。
そして、悪魔神は、再び天野翔琉を求めて、始まりの神へと挑む。
一方、天野翔琉とファーストは、冥界の出口付近に既に到着していた。
オールドアに似たような、巨大な門。
地上世界へと戻るための唯一無二の扉。
「さあ、翔琉くん‼急いで、ジンライくんのところへ行くんだ。邪神復活は、何としてでも阻止させなければならない」
「始まりの神……あなたほどの力があれば、邪神アマギでも抗う事が出来ないのでは?」
「以前のアマギ……言え、我が神ならばそうだったんだけど……事情が変わったのよね」
「変わった……?というか、我が神?」
「あー、言ってなかったっけ?私、レネンとアマギの実の母親だったりする」
「へぇ……って、ぇぇぇぇぇぇぇえええええええ!!」
天野翔琉の声は、天高くこだました。
そりゃそうだろう。
こんな、重要すぎる出来事をしれっとさらっと語られてしまったら、普通ならば思考もなにもかも停止するだろう。
これまでの物語で語られていなかった事実にして真実。
決して嘘ではない。
だが、1つの疑問が残る。
「じゃあ、なんで俺の中にいたレネンが、それを言わなかったんだ?」
天野翔琉自身、その疑問に気がつき、始まりの神ファーストへと尋ねる。
ファーストは、うふふっと小馬鹿にしたような笑みを浮かべると、その疑問に対してこう答えた。
「そりゃあ、悪魔に記憶消されちゃってるからね」
天野翔琉は驚いた。
驚いてはいたが、いたって冷静だった。
表情や仕草は、まさに人間が驚いた際の条件反射が全て揃っているほどなのだが、思考や心は至って平然だった。
何故ならば、そんな事が出来そうな悪魔に心当たりがあったからだ。
マクスウェル……この悪魔ならば、この記憶を司る悪魔ならば、それが可能なはずだ。
始まりの神が作りし生物の外にいるこの、ヨルヤの笑みだした無垢で残虐な子供のような悪魔たちならば……そう言うことをしてもきっと、ヨルヤさえも気がつかないだろう。
気がつかない攻撃ほど、恐ろしい攻撃はない。
気がついたら死んでいる……なんて、洒落にならない。
気がついたら全ての記憶が消された……なんて、悪夢のようだ。
「まあ、今地上でもその現象がまさに行われているけどね……」
「え?それって、どういう……‼」
「みーつけたー」
不意に聞こえたこの声によって、始まりの神が天野翔琉の疑問に答える時間は消えた。
そう……1匹の悪魔神によって阻まれてしまったのだった。
そして、天野翔琉は、始まりの神に蹴られ、門の向こうへと蹴り飛ばされた。
その瞬間、ヨルヤ=ノクターンの目からは血の涙が流れ落ちる。
滴る血の涙が地上に降り立つ前に、始まりの神とヨルヤ=ノクターンの創造者同士の強烈な死闘が幕を開けたのだった。
「痛いな……あれ?ここって……」
天野翔琉……つまり、俺は霧の立ち込める草原の上に立っていた。
微かな花の匂い……以前にも、この匂いを嗅いだことがある。
そう……初めて、この世界に来たときに……。
「あぁ……そうか、戻ってこれたのか……ここに……」
さあっと、風に靡かれると霧が晴れ、そこに見えたのは、この世界に来て初めて降り立った場所ーーー創始神墓地だった。
だが、唯一前と違うと言えるのは、あの空中に浮いていたピラミッドが、粉々の瓦礫の山に変貌していたことだ。
激しい戦闘が行われたであろう、この凄惨な戦闘現場。
ジンライたちは無事だろうか?
そう思うと、居てもたってもいられなくなって、俺は家へと戻る。
仲間たちが待っていると信じてーーー。




