5thステージ21:■■の存在
"もう思い出せない俺のママへ
あなたは今どこでなにをしているんですか?
というか、そもそも存在しているのですか?
俺たちはといえば、あなたの記憶を失って数日……ようやく、混乱も落ち着いてきました。
最初は、またライパパとボル伯父さんが死闘を始めたり、ブラッドが怪しい教団を復活させかけてしまったり、ロギウスが自身の役割を忘れてしまって、世界が混沌に誘われかけたりと、とても大変でした。
でも、みんな根本ではあなたの存在の影があるみたいで、すぐに止めました。
あなたの存在は、記憶を失ってもなお……どうやら、みんなには影響を及ぼしているようです。
流石ですね……。
ですが、何故突然あなたの記憶が失われたのでしょうか?
これも、以前どこかで襲ってきた悪魔のせいなのでしょうか?
あなたが居なくなってしまった、思い出せない現場で戦ったあの悪魔……確か、冥界四大鬼族マクスウェルでしたか。
ママ……俺は、悪魔に勝てますかね?
あなたを助けるために……あなたを探すために……きっと、悪魔と戦うかもしれません。
ですが、俺は今【戒めの呪い】で、全能力を封じられています。
もしも、ママなら……どうやって、この状況を乗り切りますか?
教えて下さい……俺の大好きなママ……。
ジンライ
"
俺は書き終えた手紙を、机の上に置くと、監禁されている部屋のベッドの上に寝転んだ。
あれから数日……結果としてずっとここに閉じ込められてしまっている。
戒めの呪いの影響……そして、失われてしまった母親の記憶。
世界は混沌へと向かっている気がするんだ。
俺の母親は、この世界で様々なことを行っていた……はずだ。
ディルの時空図書館での調査も虚しく空振りとなってしまったし、始まりの神に至っては、行方不明になってしまったし。
事態はどんどん悪くなってきている。
ママ……あなたが居たときが本当に平和だったんだね。
俺はあなたに会いたいです。
会って、この失われた心の穴を埋めて欲しいです。
「ママ……どこにいったんだよ……」
俺は涙を流す。
もう思い出せない人物を思ってーーー。
【ー冥界ー】
「ありえない、ありえない、ありえない‼」
冥界四大鬼族ルシファーは、自身の目を覆い隠したくなる現実と今まさに向き合っていた。
彼女の魔法である繰返魔法∞は、これまで彼女が戦闘を行った666ものの生物全てを永遠に迷わせ、自らの魂を差し出させてきた悪魔の悪魔による魔法だった。
つまるところ、全666戦の内、666勝0敗だったわけだ。
それも、相手の敗北宣言による完全な勝利で。
だが、この彼女の無敗伝説も、今終わりを告げた。
「なんで、あの女がここに……というか、何故生きている!」
と、ルシファーは攻略され破壊された建物の上空で、少年を抱えたまま、ルシファーの主人ヨルヤ=ノクターンと対峙する女を見ていた。
その女とは、始まりの神と呼ばれる女……ヨルヤ=ノクターンの唯一の親友だった女ーーーファーストだ。
「ファースト……お前、生きていたんだな?」
「勝手に殺さないでくれる?ヨルヤ……」
「ふふん……その強気な言い方……懐かしいな……」
「いや、懐かしまなくていいわよ?私は翔琉くんを連れて地上に帰るから……」
「いんや、それはダメだね……俺の親友を勝手に連れ出すのは許さないよ……例え、元親友でもね……」
ビリビリと大気が振動するくらい、ヨルヤの殺気は凄まじいものだった。
だが、始まりの神……いや、ファーストはそれに動じること無く、笑みを溢す。
その笑みの先にいるのは、自身の抱き抱えてる少年……天野翔琉だった。
天野翔琉……地上では忘れられた存在となってしまっているが、この冥界では記憶は健在している。
そして、その異端とも呼ぶべき天性の力も……。
そう、ルシファーの迷宮を破ったのは、なにを隠そう天野翔琉だ。
迷宮からの脱出直後、彼はヨルヤに再び拐われかけたが、その一瞬をついてファーストが翔琉を拐い返した。
そして、現在ーーーこの緊迫した状況が生み出されているのだ。




