5thステージ19:記憶
俺は、この別荘内に軟禁されることになってしまった。
そして、俺を監視するために、ディルとライ……そしてボルと狼牙とリュウだけが残り、他のメンバーは始まりの神の元へと向かった。
俺の情報通り……いや、夢での御告げの通りなら、始まりの神ならばなにか知っているはず。
仮にも、冥界を作った張本人なのだから。
そして、翔琉の言葉を信じて……。
「ジンライ……俺にも、もう少し頼ってくれよ……お前の父親なんだから」
ライは泣いていた。
自身の無能さに。
そして、俺が頼ってくれなかった現実にーーー。
ライは、息子である俺を心から愛していた。
だがどうだろうか。
俺は、父親であるライの事があまり好きとは言いがたい。その理由は、単純にして明確だ。俺は天野翔琉が好きで好きでたまらない、ライの血から生まれた。
そして、それは同時に凶暴な虎族としての血筋すらも宿してしまっていると言うことなのだ。
いくら、慈愛の心の強い天野翔琉の血が混じっているとはいえ、血には逆らえない。
いや……なんだろう。
血のせいにするならば、案外……もっと、おぞましいものが入ってしまっているのかもしれない。
この憎しみの感情は、あまりにも凶悪すぎる。
もしかして、俺の親って他にもいるのかもな。
悪意の塊みたいな、なにかが……。
「なあ、ライパパ。あの時、俺を生んだ儀式って、誰がとりおこなったんだ?」
「なんだ?急に……お父さんが泣いているこんな時に……」
「じゃあ、この沸き上がるような憎しみはなんなんだろう?」
「……憎しみ……か……」
そう言ったのは、ボル伯父さんだった。
ボル伯父さんは、ライパパのお兄さんだ。
まあ、かなり複雑な家庭環境ではあるものの、兄として彼は成すべきことを成そうとしたが、誤った価値観で物事を進めてしまったため、かなり長い間2人には確執があった。
ボル伯父さんのお父さん……つまるところ、俺のお祖父ちゃんと言うわけなのだけども、実際のところボル伯父さんもさんとは血は繋がっていないのだ。
いやまあ、俺も繋がっていなければ、ライパパも、ボル伯父さんも……その虎の血は受け継いではいない。
つまりは、義理のお祖父ちゃんってことになるけれども……同時にボルにとっては、本当の両親を殺した男でもあるらしい。
そんな複雑な家庭環境にいながらも、屈折した思いになったりしたものの、結局のところボル伯父さんは、翔琉ママと出会って、親友になったらしい。
その親友になってからというものの、ボル伯父さんは穏やかな性格になったらしい。
「ジンライ……憎しみなんて、抱くだけ……無駄だぜ……」
とまあ、伯父さんから言われてしまったら、言い返すことは出来ない。
自分より、過酷で残酷な運命に縛られていた伯父さん相手にカッコつけても、しまらないというものだ。
「だから、お前も……■■のように……?」
「伯父さん……?」
「あれ?なんで言えないんだ?■■……‼」
「伯父さんどうしたの?」
ボル伯父さんは、恐らく俺の母親の名前を言おうとしている。だが、なぜだ?
なぜか、発音できないらしい。
■■■■と……。
あれ?
「なんで?頭の中で■■ママのことを思いたくても思えない……なんだこれ?」
「……みんなの記憶から、■■の事が消えた?」
時空間魔法を扱うディルですら、この事態は予期していない出来事だったようだ。
いや、むしろ予期できなかった……何者かに、妨害されて。
「嫌だ‼嫌だ‼俺は■■ママのこと、忘れたくない!」
「■■……■■‼」
やがて俺たちの記憶から、一人の人間の記憶が完全に抜け落ちる。
それは、誰だったのかは忘れてしまったけれど……俺たちにとって大切な人物だったということは言うまでもない。
思い出せない人物。
それが、俺の母親らしい。
どうやら、記憶を奪われてしまったようなのだ。




