5thステージ17:危惧されし力
「ん……?ここは?」
俺が目を覚ますと、どこか見知らぬ家の中にいた。
こんなところに来た覚えはないな……。
あれ?
さっきまで、創始神墓地に居たはずなのに?
疑問に思いながらも、上体を起こそうとするが、激痛が走り、俺は起き上がることが出来なかった。
「痛い……ん?」
よくよく見ると、俺は包帯をぐるぐる巻きにされた状態だった。
上半身も下半身も、すっぽんぽんにされた上で、その上から包帯をぐるぐる巻かれている。
包帯の服みたいだな。
「こんな状態でいるのは、ヤバイから、早く光治を発動させて、早く回復しなきゃ……ってあれ?」
いつもならば、意図も簡単に発動できた光治。
しかし、今回だけはうんともすんとも発動しない。
それどころか、神魔法でさえも発動することができない。
「なんで?」
と、身を動かそうとするが、動かない。
なんでだ?
なんで、発動できないんだ?
「無駄だよ、ジンライ……今、あなたには魔法は使えない……」
と、言って現れたのは時空間魔法の使い手ディルだった。
「あれ?なんで、ディルがここに?ってか、ここはどこだ?」
「ここは、私の別荘の1つ……創始神墓地付近にある、隠れ家よ。翔琉にも、誰にも言ってないから、まあ知らなくて当然だけど……」
「そっか、ディルが俺を助けてくれたのか?」
「……その事なんだけど……あなた、あの場所で何をしたの?」
「何って……翔琉の行方を追って、始まりの神に聞こうかと思って、あの場所へ行ったら、アスモデウスって、悪魔に襲われて……」
「それで、あの魔法を無意識に使っちゃったのね……」
「あの魔法?」
ディルは、すごく怖い顔をしていた。
怯えてるっていうより、悲しいって顔より、怒ってるって感じの顔だった。
あの魔法ってなんだ?
あの、神魔法が黒くなったやつかな?
あんなの、闇天神と同じじゃないか。
何が問題あるのだろうか?
「……」
「おい、ディル。黙ってないで教えてくれよ。あの魔法ってなんだよ」
「邪神魔法……」
「‼」
邪神……この言葉を聞いて思い出すのは、あいつだけだ。
あの、傲慢で、ねちっこくて、嫌らしくて、気持ち悪くて、生々しく、痛々しく、激しく愚かなあの神……アマギだ。
かつて、俺の母親である天野翔琉との2度に渡る激しい戦闘があったアマギ。
かの異世界で、確かに倒したはずだったがーーー。
「あなたは、自分のやったことの意味をよくわかっていないようね……」
「やったことって言いましても……俺自身にその自覚は無かったんだから、仕方がないんじゃねーの?」
「ええ……まあ。翔琉でさえも、神魔法の裏側を発動するような状況になったことが無かったから……あなた自身の才能だとも言えるけど……」
「要点というか、支点がぐらついてるせいか、話が見えてこないな……その邪神魔法を発動させてしまった結果、世界に、俺に、天野翔琉に何が起こるんだ?」
「邪神アマギの復活、あなたは悪へ落ちる、天野翔琉はあなたに殺される……」
「‼」
この嘘つき!とは、一概に彼女に対しては言えない。
何故ならば、彼女は未来を見ることができるからだ。
時の監視者ーーーその役柄上、その立場上、常に時間の流れに対して、フェアでいかなければならない。
だが、彼女は今、その条件をアンフェアにしてまで、未来のことを俺に伝えた。
それはすなわち、世界の破滅と、天野翔琉の死を回避するために……監視者として、最大限の忠告だと悟るしかないだろう。
今おかされているこの状況は、俺にとって最悪だし、世界にとっても、天野翔琉にとっても、時の監視者としても、危険な状態なのだ。
「だから、あなたの邪神魔法を封じるために、少し窮屈だろうけど、フィリに頼んでもらって、あなたには【戒めの呪い】をかけたから……極限まで、あなたの能力を封じたから……暫く、魔法使用禁止ね」
「えぇぇぇぇぇぇ!!そんなぁ……これじゃあ、翔琉ママ帰ってきたときに、2人でランデブー出来ないじゃん!」
「何よランデブーって。だから、親子で怪しい関係築くの止めなさいって……」
「怪しくないぞ?単に、翔琉ママを裸にして、それでもって……」
「裸にしてって時点でアウトだから……ダメ。ランデブー禁止‼まったく、翔琉ったら、この子にどんな教育してるんだか……」
「あー、教えてくれたのは翔琉ママじゃなくて、ライパパだよ?」
「あの虎ぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」
と、叫びながらディルはドタドタと、部屋から出ていった。
なんにせよ、俺は今、魔法が使えない。
こんな状況で敵に遭遇でもしたら、もう終わりですよ。
だけどまあ、大丈夫か。
たぶん……。




