5thステージ15:冷血の威圧
冥界に監禁されてる天野翔琉。
彼は、十戒社内の部屋にいる。
そして、彼を監禁しているノクヤこと、ヨルヤ=ノクターンも彼のそばを離れず、ただただ一時の安らぎと、永遠の時間を楽しんでいる。
ノクヤは、天野翔琉に地上の世界……つまりは、【魔がさす楽園】での様子を、常時見せてあげている。
それは、親友と呼んで親しんでいる天野翔琉きっての願いだからだ。
「自分は逃げないから、地上の世界と、仲間たちの安全は保証してくれ」
と、せがまれてしまったら、そりゃあ、ノクヤも聞かなければならない。
ノクヤは危惧していた。
天野翔琉の能力を……そして、天野翔琉自身の力を。
神魔法、閃光矛、神々の魂ーーーこれらさえも、奪い去って、今や最弱に思える天野翔琉だが、その天才性と努力家……また、知識は健在である。
故に、天野翔琉が本気を出せば、天野翔琉はこの冥界から目をつぶった状態でも帰れる可能性はゼロではない。
本当に限りなくゼロに近い可能性でさえ……彼は、強運で可能にしてしまうかもしれない。
それが、ノクヤには怖かったのだ。
だが、こんなノクヤの心中を天野翔琉は知らない。
だからこそ、天野翔琉は監禁されてるのだ。
しかしながら、配下の悪魔によって今……この現状はぶち壊されてしまった。
「……‼この気配は……」
地上の世界から、明確に感じ取れたおぞましい殺気。
天野翔琉に感じられたこのおぞましい気配を、ノクヤには感じることはできない。
何故ならば、その気配は、彼と同じものだったからなのかもしれない。
同じもの同士の気配は感じられない。
何故ならば、同じなのだから。
「強い憎しみの力……そして、悲しみ……神魔法の裏側へと繋がる闇の力……ダメだよジンライ……その力は、破滅しか生まないんだ……」
天野翔琉の言動はノクヤには、理解できない。
だが、ノクヤにはこれだけは分かった。
【天野翔琉は、地上の世界へと戻ろうとしている】
ノクヤ……いや、ヨルヤ=ノクターンにとって、これは一番危惧し、恐れていた事態だった。
せっかく閉じ込めたのに、このままでは……逃げられる。
「翔琉?嫌だよ……ダメだよ……逃がさないよ……」
「ノクヤ……そこを退いてくれ……俺は、地上へと帰る」
「ダメだよ……行っちゃダメ。例え翔琉でも、聞き分けないと怒るよ?」
「ノクヤ……君にかまってる時間は終わったんだ……意地でも通してもらうよ……」
始めて向かい合って、始めて威圧されたノクヤには、天野翔琉に逆らえる気がしなかった。
どんな生物、どんな悪魔、どんな神さえも倒せる力を持つヨルヤ=ノクターンは、始めて恐怖を覚えたーーー異形の姿でもなく、化け物でもなく、ただ普通すぎる普通の少年に。
天野翔琉は、数多くの知識を有しながらも、その知識を使うことなく、世界最強最悪の悪魔に、無血勝利を決めたのだった。
その勝利後、天野翔琉は我が物顔で、悠然と地上へと向かった。
憎しみに捕らわれ、神魔法の裏側……【邪神魔法】を発動させた自身の息子を救いに。
何故ならば、邪神魔法を発動させてしまったら、あいつがこの世に蘇ることになる。
邪神魔法を発動させてしまった対象者の心を蝕み、いずれ肉体を共有する形であの邪神が目覚めてしまう。
幾度ともなく戦った、あの悪魔より悪魔らしい神……邪神アマギがーーー。




