5thステージ13:色欲の暴虐
アスモデウス……この女の目的は分からない。
だが、これだけは言える。
この女ーーーこの悪魔は、敵だ。
紛れもなく、確実にーーー。
こんな見え透いたまでの破壊活動に加えて、自らを悪魔と認め、あまつさえも俺の親ーーー天野翔琉の名まで出した。
誘拐されて、冥界に監禁されてる、天野翔琉の名前を……。
臨戦体勢に入ったとはいえ、俺は凄く怯えている。
先の戦闘で、回想さえも入れられないほどに、瞬殺されてしまった悪魔との……冥界四大鬼族との戦闘を思い出してしまったからだ。
あの悪魔のような悪魔の攻撃の数々……この身に受けたから分かるが、次元が違う。
あの時、俺たちはまったく油断なんかしていなかった。
油断も隙もまったく見せていなかった。
なのに、全力で挑んで、あの様だった。
全力で挑んで、全力で戦って、瞬殺された。
まさしく、刹那の一撃だった。
そのときの恐怖は、未だに身体に染み付いていた。
そのため、俺は怯えている。
びくびくと、恐怖にうち震えている。
「あはん?ジンライ様ったらん、そんなにびくびくしなくてもいいわよん」
アスモデウスは、かわいいものを見ているときの女子の顔をしながら言う。
バカにしやがって……。
「いや、これは恐いわ。流石に、怪しい服装した、怪しい悪魔にびくびくしなくてもいいわよん、なんて言われたらこれは恐いわ……」
「あはん。まあいいわん。私の目的は、あなたを連行することなんだしん……ヨルヤ=ノクターン様の名によりねん」
「ヨルヤ=ノクターンだと?翔琉ママを拐った、あのガキか……」
「あのガキ……」
ピクッと、アスモデウスは眉間にシワを寄せた。
この反応は、人間で言うところ怒りなのかーーーいや、なんにせよ……俺はどうやら地雷を踏んでしまったようだ。
悪魔の地雷を……。
嘘だろ……ヤバイなんてレベルじゃないぞ。
「ヨルヤ様をガキ扱い……私の主をガキ扱い……ガキがガキ扱い……へぇ……いい度胸してるじゃん……ジンライ‼」
アスモデウスは、そう怒鳴ると、みるみる醜い身体へと変化し……最後には、醜い悪魔になっていた。
目を覆い隠したくなるような、醜くて、気持ち悪くて、吐き気が止まらない……そんな、醜女に。
「私の本気……見せてあげるよぉぉぉぉぉぉぉぉぉお仕置き程度になぁぁぁぁぁぁ」
大声で威嚇する獰猛な野獣のようにーーー彼女は、色欲の悪魔は、俺に向かって襲いかかるのだった。
神魔法……それさえも、打ち破るこの悪魔に、このまま俺はなす術なくやられてしまう。
残酷なまでに、俺は弱い……。
だからこそ……だからこそ、天野翔琉の……俺の母親の力を使わせてもらう。
「閃光矛、発動」
と、懐に隠し持っていた、天野翔琉の装備品にして、神が作りし20個の宝具の1つ……かの魔力を喰らう化け物さえも打ち破った、閃光矛。
この矛の力ならば、この色欲の悪魔に対しても有効かもしれない。
だけど、1つ問題がある。
この矛は所有者……そして、使用者を選ぶ気まぐれな矛である。
先の戦闘で、元主のヨルヤ=ノクターンにボロボロに敗北してからと言うものの、この矛は力を失ったように、なにも起こらなかった。
光輝いていたその光は、消え、ブレスレット状の今のこの状態でさえ、魔力は愚か、力さえ感じない。
そんな力を失ったかのような、この矛を、果たして俺が動かせるのかーーーというのが、今回の勝因だろう。
まあ、早く発動しなければ、あと3秒でくるあの悪魔に、やられーーー。
「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」
ドゴッと、見事にスイングしたその足による攻撃は、見事にクリーンヒットして、俺は湖の方へと蹴り飛ばされた。
いや、蹴り飛ばされただけならば、まだいい。
蹴り飛ばされた先の湖の上を、俺は水切りの石のようにバチャバチャと、跳ね、そして向こう岸の花畑まで吹っ飛ばされたのだ。
痛いじゃ済まない……人間ならば、もう即死だろう。
だが、俺は半獣……今の攻撃は、即死攻撃ではないが、十分に致命傷となり得るくらいの威力を発揮していた。
瀕死にして、最大のピンチ……。
色欲の悪魔になぶられるのかと思えば、これ以上におぞましいことはあまりないだろう。
悪魔との戦いは、悪魔優勢のまま続く。
戦闘……というより、これはもはや処刑だ。
公開処刑……。
俺の場合は、あの言葉がきっかけだから、後悔処刑かもな……。




