5thステージ10:天野翔琉のいない世界
ジリリリリ‼
激しく音のなる目覚まし時計の音。
それを止める俺だが……数分たっても、あの声はしない……。
いつものように下に降りても……その人物はいない。
朝御飯を作ってくれるその人も、優しく撫でてくれるその人も……。
でも、この家にはその人物……翔琉ママのいた匂いが残っている。
いつものように学校に行けとか、いつものように用事でふらっと出掛けたりとか、いつものように居てくれたのにーーー。
「……翔琉ママ……俺たちは……負けたんだよな……」
ソファーでぼーっと天井を眺めながら、俺はそう呟いていた。
あの件以来というものの、冥界に行くことは出来なかった。
というか、冥界に通じる門が、粉々にされていた。
俺たちが歴史的敗北をした、あの時にーーー。
「翔琉ママ……。あんなに近くにいたのに……あんなに優しい人だったのに……あの時……遊びに行こうだなんて言わなければ、こんなことには……。……うぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼」
後悔と懺悔……そして、俺の怒りの涙が流れ落ちる。
ポロポロと……滝のように……。
ソファーの下に敷いていた、絨毯がびしょびしょに濡れる頃……俺は虚空を眺めて、無気力となっていた。
当たり前の風景を奪われた時ーーー心を持つ生物と言うのは、なんて無力で、なんて哀れで、なんて悲しいのだろう。
親を失う……それも、最悪の形で。
悪夢なら目覚めてくれ……幻なら消えてくれ……。
現実なら、逃避させてくれ。
もう……なにも考えたくない……もう、なにも見たくない……もう、なにも聞きたくない……。
天野翔琉が誘拐されてから、1週間が経過した。
彼の捜索もとい、彼の元へ行くための冥界の入口を探すため、俺以外のメンバーは、必死になって探している。
だけど、やっぱりなにも進展はなかった。
時空図書館での捜索も虚しく終わったと聞いている。
つまりは、なにも出来ないのだ。
俺たちは、あの悪魔に対して……拐われた天野翔琉に対して、なにもできない。
「ジンライ‼おい、ジンライ‼」
1階からライの声が聞こえる……でも、俺は応えるつもりはない。
俺はあれからと言うもの、ひきこもりになってしまった。
学校にも行かず……いや、まあ毎回サボってるんだけど。
家から1歩も出ず……部屋から1歩も出ず……。
「ジンライ‼冥界へ行く方法探しに行くぞ‼おい、返事しろジンライ‼」
「うるせーな‼俺のことは放っておいてくれよ‼」
そう言うと、毎回ライは黙ってしまう。
父親の癖に、こんな時どんな言葉をかければいいのか分からないようだった。
父親の癖に……。
俺は母親への愛情が強すぎたからか、父親に対しては相当冷たくなっている。
かなりのギャップ感がある。
「翔琉ママ……」
ぎゅっと、毛布を手繰り寄せ、俺はそのまま泣きながら眠ってしまった。
こんなにも辛いのに……誰かに八つ当たりすることでしかなにもできないのが、本当に嫌だーーー自分が嫌になる。
夢……ここは、俺の夢。
だけど、なんだろう……。
誰かが、ここに入ってきた。
泣きたくなるような位、懐かしい光を身に纏ったその人物は俺の方をみて、にこりと笑って「ジンライ……始まりの神を……頼ってみて……ジンライ……必ず、待ってるから……」と、言っている……。
……。……。……。
……。……。……。
……。……。……。
ん‼
「翔琉‼」
ガバッと上体を起こして、周りを見渡すが、ここは俺の部屋だ。いつもの光景しか、目の当たりにしかできない。
でも、なんだ、さっきの夢……。
翔琉ママ……だったのかな?




