5thステージ6:悪魔の神へ
「とりあえず、ジンライ……翔琉お兄ちゃんのところへ行こうか」
「そうだな……よし、行こう‼」
と、俺たちは急ぎ翔琉ママたちのところへと向かう。
てくてくと、通路を歩いていくと、フードを被った小さな悪魔が歩いていた。
「あのすみません」
と、俺たちが声をかけると、少年はにこりと笑って「はい、なんでしょうか?」と聞き返してきた。
見れば見るほど少年なのだが……なんだろうか。
他の悪魔に比べて、邪気というか、力が強い気がする。
戦闘漫画っぽい人物に、台詞を例えるならば「こいつ……できる‼」的な台詞を浴びせるのがいいのだろうがーーー今は、それどころじゃない。
「あの、中性的で優しそうな人間がここを通りませんでしたか?えっと……結構周りにも人や獣がいたと思うんですけど……」
「あー、翔琉くんのことかい?それなら、この先の通路を左に曲がった先にある【御神体の間】にいるはずだよ」
「あ、そうですか。ありがとうございま……」
いや、待て。
待てよ俺。
なんで、この少年は……。
「すみません、僕急いでるんで♪じゃあ、失礼します」
ペコリと、頭を下げた少年はあっという間に、通路の奥へと消えていった。
「なあ、狼牙……いまの子……」
「あぁ……翔琉お兄ちゃんの名前を口にしてたな……」
「中性的で優しそうな人間……それだけだったら、他にも当てはまるやつはいそうだよな……」
「……一応、あとを追うか?」
「……いや、やめておこう……。彼は恐らく、かなりの強者だ。策も無しに、むやみに追いかけて、逆鱗に触れてしまうと、厄介になりそうだ」
「……じゃあ、とりあえず、この先の広間に向かおう」
「そうだな」
急いで俺たちは、広間に向かう。
天野翔琉を急いで、この社からーーーこの冥界から、連れて帰らなければならないーーーそんな気がしてたまらなかった。
ここは、表面上は美しいけど、内面上は危険だ。
危険すぎるほど危険だ。
早くしないと、取り返しのつかないことになりそうだ。
広間に着くと、翔琉ママたちは御神体ーーー【ヨルヤ=ノクターン】が眠るとされる棺の前にいた。
悪魔神ヨルヤ=ノクターン。
全世界を始まりの神に、正真正銘作らせた神物。
そして、冥界の悪魔たちの祖になった神だ。
悪魔たちは、彼には逆らえない。
彼に逆らうことは、1つの宇宙の終わりを意味する。
始まりの神ですら、あやすのが大変だった悪魔ーーー1度暴走したら止まらないだろう。
だからこそ、この場に眠りという形で封印されているのだからな。
「お、ジンライたち。遅かったね」
と、ボル伯父さんはにこりと笑っている。
だが、この空間の尋常ならぬ淀んだ空気に、少し苦しそうだ。
「あ、伯父さん。翔琉ママは?」
「ん?翔琉ならそこにいるじゃん、ほら」
と、指差す方向には、確かに翔琉ママはいる。
いつもと変わらない、いつもの翔琉ママが。
「あ、ジンライたち……どこにいってたの?」
と、翔琉ママは俺たちのところに歩み寄ってきた。
歩み寄ってきた……歩み寄ってきてーーー唐突に首をしめ始めた。
「ぐぅぅぅ……翔琉ママ……苦しいよ……」
「お兄ちゃん……やめ……」
こんなに苦しんでるのに、ボルやライ……他の魔導士たちは一歩も動いていない。
いや、唯一この状況をおかしいと感じ、唯一俺たちの首から翔琉ママの手をはね除けた女がいた。
「……翔琉……いえ……お前は誰だ」
そういって、苦しみから解放されて、床に倒れていた、俺たちと翔琉ママの間に立っていた人物ーーーそれは、時空間を操る魔導士ディルだった。




