5thステージ1:平穏な日々で
「ジンライ……ジンライ、起きて」
「ん……むにゃむにゃ……」
「ジンライ……起きて……ぐぅ……」
「ん?なに、翔琉ママ……まだ寝てたい……‼」
俺はすやすやと眠っていたのだが、翔琉ママを思いっきり抱き枕にして眠ってしまっていたようで、翔琉ママが苦しそうにしている。
あと、顔に俺のよだれが垂れてるな……♪
「えへへ……翔琉ママ……」
「ジンライ、離してよ……これから、リュウのいる癒しの泉に行かなきゃ行けないんだから……」
「え?リュウ師匠に何かあったの?」
「いや、まあーーー治療を手伝ってほしいって言われただけ。リュウたちの水属性の治癒は、自分に相当負担がかかるから、俺の光属性の魔法なら、負荷をかけることなく全員助けられるでしょ?」
「んー?じゃあ、俺も行くかな」
「ん?というか、お前学校は?」
「えへへ……サボり」
「‼はぁ……またかよ。まあ、お前がそうしたいならそうすればいいけどさ……少なくとも、ソファーで寝てた俺を自分の部屋にお持ち帰りして、あまつさえ抱き枕にして、よだれまでかけるようなのを常識だと思ってほしくないから、学校へ行ってもらってるんだけどな……」
「えへへ……翔琉ママに言われたなら仕方がないけど、学校の連中って、頭悪いから、もう教わることないし、むしろこちらが教鞭を取りたい位だけどね♪」
「はぁ……そっか……お前が生まれたときの俺も、学校には行っても授業受けてなかったから、そこが反映されたのか……んまあ、とりあえず……離せ」
翔琉ママは、俺の首筋を指で軽く撫でた。
こちょばしい♪
「あははは♪翔琉ママくすぐったいよ♪」
と、俺がじゃれている間に、翔琉ママは俺の腕と足の拘束からすり抜け、何事もなかったように部屋から出ていった。
もう、あの身のこなしは、人間じゃねーな。
えへへ……。
「でも、翔琉ママと寝れたからいいや♪学校行くより、翔琉ママと一緒にいる方がいいもん……もう、寂しい思いはしたくないもん……」
翔琉ママは、異世界の人間。
あと、約半年後には自身のいた元の世界へ帰ってしまう。
ただでさえ、翔琉ママは忙しいし、何よりトラブルメーカーだ。
ことあるごとに、どこからともなく敵が現れては戦い、時に誘拐され、時に死に瀕する……。
そんな人生ーーー疲れるじゃないか。
「俺は翔琉ママを……ううん……天野翔琉って人間が好きなんだ。翔琉ママからもっと親子愛が欲しいんだ……」
ふう……っと、ため息をついて俺は翔琉ママのあとを追う。
すなわち、癒しの泉へと向かうのだった。
癒しの泉……治癒を扱う者が集う場所にして、負傷者、病人などが多く集まる場所でもある。
ここの泉の底には、起源泉という絶対的な癒しの力を持つ泉の源泉がある。
かつて、俺はそこで戦ったことがあるけどーーー結局は、負けてしまった。
その結果ディルが危うく死ぬところだった。
まあ、結果として翔琉ママが救ってくれなかったら、俺たちは強大な権力の敵に殺られていた。
「あ、リュウ師匠♪」
泉の近くにある古城……その前に、俺が翔琉ママの次に尊敬している女性ーーーリュウがいた。
リュウは、俺に気がつくとにこりと微笑んで「ジンライちゃん、おいでおいで♪」と、手招きをしてくれた。
リュウ師匠は、かつて水の大魔導士の神殿で、俺を助けてくれたことに加えて、魔法を教えてくれた女性だ。
俺は、基本翔琉ママ以外の人間は、生物は信用していないのだが、この人だけは信用できた。
だが、後々聞いた話ーーーこの人って……。
「ジンライちゃん、どうしたの?戦いに来たの?手合わせしに来たの?それとも、バトりに来たの?」
「いやいや、違いますってーーー」
戦うことが狂うほどに好きな、戦闘狂だったらしいことを聞かされた。
翔琉ママも、かつてこの地で襲われ、無理矢理戦わされたらしいのだが、結果として当時神魔法を使わずに翔琉ママは勝ったという。
すごくない?
戦闘の素人が、戦闘の達人に勝っちゃうんだぜ。
やっぱり、翔琉ママは凄いなーって話でした。
はい。
「翔琉ママ来てませんか?」
「ん?あー、翔琉ちゃん?来てるわよ。今ほら、あそこで治療してるでしょ?」
と、リュウが古城の近くの広場を指差すと、そこには背から翼を生やした神々しい少年ーーー天野翔琉が、今まさに治療をしているところだった。
天野翔琉の使う最強の治療魔法ーーー光治。
どんな、傷ですら10秒で完全回復させてしまう光属性最強の回復魔法。
まあ、俺も使えるけど、翔琉ママのは元々ある【慈愛の心】のせいで、余計に強力になってるんだよなーーー。
「うふふ……ここにいても、私の中に溜まっていた不純物を完全に除去してしまうなんて……相変わらず最強だね……」
「うん。翔琉ママは、最強だよね……でも、だからかな……時々可哀想って思うんだ」
「ん?なんでだい?」
「翔琉ママって、いろんな人に好かれて、いろんなことできちゃうからさ……結果として、自分に不幸が溜まったりしても、気がつかないままで、なすがままでそのまま乗り越えちゃうじゃん。だから、背負わせすぎだし、背負いすぎだから……可哀想って思うんだ……」
「んー、まあ……そうね。あたしも翔琉ちゃんに頼りっぱなしのところがあるし……まさに今も頼っちゃってるから……でもね、それでも笑顔でやるやるって言えるから、翔琉ちゃんなのよね……だからこそ、誰からも好かれるのよね……」
リュウ師匠は、笑顔でそういっていた。
でも、やっぱり罪悪感があるのかな?
少しだけ、悔しそうに拳を握っていた。
自身の非力を呪うようにーーー。
「ふぅ……とりあえず、全員の治療は終わったよ♪もちろん、リュウたちの不純物もキレイさっぱり浄化しておいたから♪」
「ありがとう翔琉ちゃん……こうして、手伝ってくれていつも助かってるわ」
「いやいや、役に立ててよかったよ。じゃあ、帰るね」
と、翔琉ママが帰ろうとしていたので、俺は後ろから翔琉ママの手をつかんで「俺も帰る」とにこりと笑って言った。
翔琉ママも、にこりと笑って俺の頭を撫でて、そのまま俺の空間魔法で、自宅へと戻るのだった。




