5thステージ0:寝る子は寝る
美しい湖畔の中心にある小さな島。
この上には、とある人物が住んでいると噂されている。
なんでも、この世界の人間ではないとか……。
伝説の神魔法を扱え、その上伝説の【閃光矛】を所持し、世界を何度も救った英雄……そして、神を2人宿す肉体を持つ少年。
そう言う人物を聞くと、大抵の人は物凄い容姿なんだろうなとか、想像するんだろうね。
これだから、一定の価値観しか持たないやつはダメなんだよ。
視野を広く持てば、戦争なんか無くなるんだよ。
というか、変な想像で、その人物についての印象を崩されてしまうのは俺にとっては、ものすごく嫌だ。
なにせ、俺の親だし。
なにせ、俺の大好きな人だし……。
俺ーーージンライを愛してくれてる人だから……。
ジリリリリっと、場の雰囲気に似合わない不快な音が、湖一帯に鳴り響く。
と言うのは、昨日の夜に俺が仕掛けておいた目覚まし時計の音だからだ。
「ほら、ジンライ‼起きなー、朝だぞ」
そう、俺の部屋のすぐ近くの1階に通じる階段から、俺の大好きな天野翔琉の声がする。
むにゃむにゃと、目を掠めながら俺は目覚まし時計を止めるが、再び眠ってしまう。
だが、数分後ーーー。
「ほら、ジンライ起きなきゃダメだろ」
と、翔琉ママは俺の部屋に来て、ベッドから引きずり下ろそうとするのだった。
「やーや‼まだ、寝るの‼」
「駄々こねないで、起きろ‼」
「やーや‼」
「しゃーねー……買い物は、狼牙と行くか……」
「いや‼起きました‼まじで起きました‼いやー、お早うございます隊長殿‼本日も大変よい天気で‼」
ガバッと起き上がった俺は、2階にいる翔琉ママを押し退け、1階に急行した。
1階に着くと、同居人である天野狼牙と、太古の魔導士ディルが翔琉ママが作ったと思われる朝食を美味しそうに食べていた。
外では、ボル伯父さんが洗濯物を広げているし、パパは、これからお仕事みたいで出掛ける準備をしていた。
「「おはよう、ジンライ」」
「え、あ……おはよう」
何でこんなにいるんだ?
俺は翔琉ママと2人っきりで、過ごしたかったのに。
「ほら、ジンライ。早く朝ごはん食べないと、遅刻するぞ」
と、2階から翔琉ママがニコニコしながら、降りてきた。
あ、そうだった。
今日は学校に行く日だったーーー。
魔法学術園……ここは、世界魔法連合が管轄する学校で、現在俺が通う学校だ。
というのも、今から2日前の話。
翔琉ママが、唐突に俺と狼牙の2人に、学校へ行くように迫ってきたのだった。
なんでも、もう少し常識と経験を学んでこなきゃダメだとのことで、ディルや、その他のモブどもに頼んで、学園内で一番入学が難しい超新星クラスへの転入届を出したのことだった。
俺は最初、拒否したがーーー。
「じゃあ、おいらは翔琉お兄ちゃんの言うとおりにするよ」
と、天野狼牙の野郎がいい子ちゃんぶりやがったせいで、俺は首を縦に降るしか無くなったわけだ。
「何で学校で、学ばなきゃいけねーんだよ……」
もう、習うべき知識なんてないはずなのに……。
どうして、勉強しなきゃいけねーんだよ。
制服姿の俺は、とぼとぼと自分の教室へと向かうのだった。
「おはよーっす」
と、俺は教室へと入る。
内装が悪趣味なんだよなここ。
なんで、鯱が黒板の四隅に建ってるんだか……。
「おはよー、ジンライくん」
「おー、カゴメじゃねーか」
カゴメーーー赤茶色のボブカットの、可愛らしい猫族の女の子で、このクラスの委員長だ。
俺が転入生として、ここに来たときに一番始めに仲良くなった女の子だ。
すごくいいやつなんだけど……。
「くんくん……あ!ジンライくん!今日の朝、トマト食べた?トマト食べたでしょ?トマト食べたんだ♪いいなぁ~」
何故か、トマトの話になると、異常なまでに興奮するんだよな。
猫族なら、普通マタタビの匂いで興奮するのにーーーまあ、俺は翔琉ママだけどな。
とまあ、クラスに来たものの……やることねーや。
「委員長……俺、早退する」
「え?えぇぇぇぇ?今来たばかりじゃん!」
「朝から身体が怠くてさ……んだから、んじゃ!」
パチン、っと俺は空間魔法を使って自宅へと戻る。
すると、翔琉ママがソファーですやすやと眠っているのを発見したので、起こさないように俺の部屋まで運んで、俺は翔琉ママを枕がわりにして、再び眠るのだった。




