4thステージ81:安息の平和
天野蘚琉による魔力零&洗脳被害がおさまって、1週間が経過した。
数多くの被害や、損害が出てしまったこの戦争ーーーだが、1つの物語に終止符がついたことは、幸運だったのかもしれない。
天野蘚琉の救済ーーーそのことによって、この先の未来に【パラノイヤ】という怪物の登場と、魔力零という症状は永劫見ることが無くなったのだから。
まあ、魔力零に関しては、完全に無くなったとは言えないかもしれない。
この先、そういった症状を引き起こす魔法が開発されたり、病気が流行るかもしれない。
でもまあ、その時はその時の時代の者たちに任せることにしよう。
さて、今回の首謀者でもある天野蘚琉はといえば、【オールドア】内で、兄が見守る中、長い長い贖罪の旅……悪夢のぼうけんが始まったのだ。
この先1000年は目を覚まさない……それが達成されたとき、彼女が壊し、滅亡させた世界は元に戻る。
彼女自身の許しを願う旅……それが始まったのだった。
一方、俺ーーー天野翔琉はと言えば……。
「え!オールドアが、使えない?」
そう言って、オールドアの前でディルたちと揉めていたのだった。
「違うよ、使えないんじゃなくて、今は動かないの……」
「え?なんで!」
「天野蘚琉が暴走したとき、このオールドアに溜め込められていた【異世界へと渡るために必要なエネルギー】が、全て喰い尽くされてしまっていて……最充填には、最低でも半年は必要なのよ……例え、神魔法を使ってもね」
と、ディルは言うのだった。
確かに、こんな強大で巨大な扉が、どういう原理で動いているのかと思えば、充電式のバッテリーで動いているスマートフォンと似たようなものなんだな。
まあ、こちらは完全にチャージされないと動かせないけどーーー。
「え?じゃあ、その間、俺はこの世界でしばらく暮らすしかないってことかぁ……泊まる場所ねーぞ……」
ピクッと、この俺の【泊まる場所ねーぞ】って言葉に反応した者たちがいた。
そして、そいつらは俺のところに駆け寄ってきて。
「翔琉‼じゃあ、俺と住もうぜ♪毎晩毎晩、ゴロゴロしてくれれば家賃とかいらねーから♪」
「いや‼あたしと住みましょ‼あたしの家、城だし、豪華だし♪食事も翔琉ちゃんの好きなもの作るよ♪」
「翔琉さん、私と共に、住みませんか?以前お褒めいただいた、数々の料理振る舞いますわよ♪」
「翔琉くん、一緒に森番してくれないかな?2人だと楽できるし、研究も進められるんだよね♪」
「翔琉ママとは、俺が住むの‼息子なんだから、親から離れたくないの‼」
「翔琉くん……また、私に料理食べさせて……じゃなきゃ、馬鹿弟子をいじめちゃうぞ♪」
あははは……。
この前まで洗脳されてたのに、元気だな、みんな。
ってか、最後のアニオンの台詞は、俺が承諾しなきゃエンがボコボコにされるんだよな?
もう、半分脅迫だぞそれ……。
「待って待って‼みんな、落ち着いて……」
「お、翔琉。たまに、チェスして遊ぼうぜ♪あれだったら、他の遊びも教えてくれよ♪」
あ、ボル……。
うーん……ボルが、一番安全なのかな?
いやでも、前に殺されかけたからな……。
いや、でも一番の友達だし……。
「むむむ……む?」
と、不意に一番後ろでもじもじとしているディルと目があった。
……。
よし、決めた。
「ディル、家貸してくれないか?」
借家に住もう。
それが、平和的な解決方法な気がする。
誰かの家に泊めてもらうのが、喧嘩の元になっているようだし。
「どうかな?」
そう俺が言うと、俺に集っていた者たちは一斉にギロリとディルを睨む。
だが、ディルはそんな様子を気にせずに、にこりと笑って。
「ふぅ……仕方がないな……いいよ」
と、頬を赤めて言うのだった。
かくして、俺はこの世界で残りの半年間を過ごさなければならなくなった。
そして、この半年間で、俺のこの世界での冒険が終わりを告げることをまだ知らない。
今は、安息で平和だと言うこの一時を、なにも知らずに過ごすことにしよう……。




