4thステージ78:闇の変換
黒々しい繭……それは、やがて羽化し、中から現出した。
禍々しく、黒い破けたドレスを身に纏う女性ーーー天野蘚琉は現れた。
以前の赤いドレス姿より、明らかに力が増している。
どす黒いオーラが周囲を染め上げ、青かった空はすっかり夜に変貌していた。
いや、夜になった、ではなくーーー闇に染め上げられた、この表現が正しいだろう。
「さて、お兄ちゃん……殺してあげるよ……♪」
静かに笑みを浮かべた、彼女ーーー天野蘚琉が、空間に手を翳すと、一瞬で空間がえぐりとられた。
えぐりとられたってより、喰われたーーー?
「【捕食】昇華……私は生まれ変わったのよ……全てを喰らうことの出来る、生命体にね」
「ーーーそれって、もはや人間に戻る気ないよね?」
「え?人間?何言ってるの?私は元々化け物じゃないのぉ♪あー、なんだろうねこの気持ちいい感じ……あは♪」
自らの能力に、自らの記憶も感情も喰わせたのか……なんてことを。
「ーーー翔琉君……」
と、イミナが俺に話しかけてきた。
ってか、居たの!?
さっきの会話聞かれたじゃん……。
てか、ディルを抱き締めたりしたの見られてんじゃん!
ディルも、顔赤めてるよ?
いやいや、まて俺。
今はそれどころじゃねーだろ!
「なんだ、イミナ」
「もう……蘚琉は戻らない……もう、あの状態になってしまったら、もう戻れないーーーどうか、君の手で、安らぎを与えてやってくれ……」
「それってつまり、俺に人殺しをしろってことか?」
「あれはもはや人ではない……人間が人間を殺すと殺人罪で死刑になることもあるけど、動物を殺した程度では、たかだか金を払えば済むみたいな話だよ……あれは、人間ではなく動物……野蛮で理性が壊れた醜い動物……そう思えばいいのさ」
「お前は……自分の妹を動物ってよく言い切れるな……嫌だよ。人1人の命を背負ってこれから生きていくなんて、俺には到底できない……だから、俺はあいつを殺すんじゃなくて、戻すんだ。この閃光矛の力を使って……これだけは、使いたくなかったけど……もう、ワクチンが効かないならば、これしかないんだ……」
俺の腕に光輝く閃光矛……。
この閃光矛には、全部で八つの戦闘状態が存在する。
その中でも、第五戦闘状態という状態が、今回の天野蘚琉には有効だろう。
この状態の閃光矛の能力は、攻撃した対象の全てを逆転させてしまう、という単純な能力になる。
白を黒に、右は左に、光は闇に変わる。
そして、あったことはなかったことに変わるのだ。
俺がやろうとしているのは、まさにそれで、天野蘚琉にワクチンが効かないならば、不老不死になる前に戻してしまえばいい。
不老不死になる前に戻してしまえば、記憶も感情も全てがその頃に戻るはずだ。
勝機は、もうこれしかない。
この能力に……全てをかけよう。




