4thステージ76:差し伸べられた手
悪魔との契約……。
俺の世界ではそれは、非人道的にして、魂を奪われる行為だと言われている。
悪魔のためにと、身を破滅させた者……悪魔に取り憑かれ、友人を痛め付けた者……悪魔の権力と財力で、世界を滅ぼしかけた者……。
数多くの逸話や、伝説が残る悪魔との契約……。
だが、悪魔は契約には忠実だ。
破れば自らに罰が下るーーーそこだけは、人間とは違って、約束を守ってくれる律儀な存在だともみえる。
「さあ、どうする?翔琉くん……」
確かに……ここで、こいつに助けを願えば、仲間たちも俺も、この場は助かるだろうーーー。
だが、その後はどうなる?
まだ、こいつは契約の内容について明確に開示していない……。
うかつに、首を縦に振れば、後々地獄を見るのは間違いなく俺だろう。
「俺は……お前とは取引しない……」
「あらあら?そんなこと言ってていいのかな?天野翔琉くん……君がそんなことをいっている間に、また1人……また1人と、君の守りたかった者が倒れていくのに……そんな強情なこと言ってていいのかな?」
「……」
確かに……。
今、この段階で、俺の仲間たちは、次々と天野翔琉の毒牙にかけられ、倒れていく。
どんどん、倒れていく……。
だけど……。
「じゃあ、仮に取引した後で、俺は何をしなければならないのかーーーそれを開示してくれ。そうしたら、取引は考えてやってもいい」
「考えてやってもいいなんて、上から目線~。あは♪別に僕は、それを開示するためにこの場にいるんじゃないんだぜ?たまたま通りかかって、死にかけた生物がいるから、親切心でアプローチしてやってるんだ。なんなら、帰ってもいいんだぜ?」
「じゃあ、さようなら。俺は別の方法を模索するから」
冷淡な言葉を投げかけ、俺は湖畔から去ろうとするが、その行く手を悪魔が遮るのだった。
「待って待ってよ‼僕が悪かったって……」
「は?邪魔。退いてくれるかな?」
「ちょ!おま!なんで、そんなに急に冷たくなるんだよ、態度が……氷河期かっつーの‼」
「氷河期ねぇ……面白くないね。んじゃ‼」
すたすたと過ぎ去ろうとするが、再び悪魔が遮るのだった。
なんなんだよもぉ‼
「ごめん、謝るから。ふざけないから……お話聞いてください……」
「……いいよ。止めとく、んじゃ‼」
そういって去ろうとしたとき、ガシッと後ろから抱き付かれ、ぎっちりと固定されてしまった。
「やだやだ!僕の話聞いてくれるまで、離さないから!」
「いや、離してくれないと話してくれないんでしょ?じゃあ、離さなきゃ」
「あ、そっか……って、文字で遊ぶな!悪魔を言いくるめようとするなんて、どんな性格してるんだよ……」
「天使みたいでしょ?」
「どこがだよ‼てか、自分で天使みたいでしょ?って言うな‼気持ち悪い‼」
いけないいけない‼
ついつい、弄りやすくて遊んでしまった。
「なんだ、お前……構ってちゃんか」
「ううう……仕方がないじゃないか‼友達ったって、悪魔なんだから精々1人しかいないし……僕はずっと眠ってばかりだし……だから、契約とか取引でもしないと、誰かとの繋がりがなくなるじゃんか!」
「あれ?でも、1人だけ友達いるんでしょ?だったらその子に……」
「ダメなんだ……」
「???」
「そいつは、あるものとの戦いに破れ、この世を去ったんだ……だから、もういない……だからこそ、他の遊び相手が欲しかったんだよ……僕を恐れずに……僕と遊んでくれる……そんな、友達が……」
「契約後の代償は、助けてやるから友達になれ……ってことかな?悪魔と友達になれと?」
「そうだよ。それ以外はどうでもいい……魂なんて要らない、記憶なんて要らない、生命のエネルギーなんていらない……友達さえ居てくれれば……それだけでいい」
「なんだ、案外可愛いげのあるやつだな」
よしよし、と俺はフード越しに頭を撫でた。
なんか、フード越しでも、髪がふさふさしていて気持ちいい。
そして、この悪魔もまんざら嫌でもないご様子。
「んじゃあ、無利子で俺を助けてくれよ。そうすれば、お前と友達になってやる。契約もしないし、取引もしない。単純に友達になろうって話し。どうだい?」
「え……でも、悪魔だから契約……」
「ほら、契約契約って、どこかのインキュベーターでもあるまいし‼俺と友達になって、俺を助けてくれよーーーえっと、名前は?」
「……僕の名前は、ヨ……いや、ノクヤだ」
「ノクヤか……んじゃ、よろしくなノクヤ」
悪魔との契約は取り止め……悪魔と友達になる。
この選択は、果たして良かったのか。
そんなのは、どうでもいい。
とりあえず契約とか、取引とか、そういった類いを回避できたのだからーーー。
主従関係ではなく、平等な関係ーーーそれが、社会での基本だ。
「じゃあ、ノクヤ……俺を、助けてくれ」
「うん、いいよ♪じゃあ、また今度……今度は翔琉が遊びに来てよ……冥界のお祭りも近々あるし♪」
「すげぇ、祭りだな……まあ、うん……考えとく」
と、俺が言うとノクヤは消えた。
結局素顔は見れなかったけど、どんな顔してるんだろ?
まあ、それよりもーーー今は、あの女ーーー天野蘚琉をどうにかしなきゃな。
そして、俺は現実世界へと引き戻されたのだった。
目が覚めたその時、天野蘚琉と俺の仲間たちの戦いは大詰めだった。
まさしく、トドメを彼らに刺そうとしている彼女の腕を掴み上げ、俺は彼女にいった。
「はい、そこまでーーーここからは、俺との戦いな」




