4thステージ75:黄泉の畔で
「あははははは、あははははは♪お兄ちゃん、さよーならー」
「あははははは、あははははは♪お兄ちゃん、死んでくれてありがとう♪」
「あははははは、あははははは♪お兄ちゃん……じゃあな……」
こんな声が、こだまするんだ。
ここはどこだ?
辺りは、月夜のような薄暗さ……そして、目の前にみえるのは……湖?
「あれって、ディルとライと初めて泊まった所に似てるな……」
なんで、こんなところに……。
痛い!
なんだ、これ?
あぁ……そうか。
お腹の穴を見て理解したよ。
「俺、死んだんだ……」
今回はアマデウスや、レネンの助けは期待できない。
魂が分離した状態で、この場に滞在してしまっていたのだからーーー回復も追い付かない。
閃光矛もーーー今は、ダメだ。
回復状態に変えるためには、声に出さなきゃいけない。
現実世界でーーーつまりは、心に思っていただけじゃあ、発動しないんだ。
あーあ……俺は何回死ねばいいんだよ。
爆発の時にも似たようなことがあったな。
ライにお腹を貫かれた時にも、似たような体験したな。
でも、ここまで鮮明に、はっきりと分かりきった死後の世界があるだなんて……。
「人間が知らないことなんて、まだまだ多いんだな……」
あれ?
じゃあ、なんで俺はこんな場所で意識を保っていられるんだ?
もしかして、死んでないのかな?
まだ。
風前の灯ではあるものの、火はまだ消えてないーーーってことなのかな?
「あれ?あの湖に映ってるのって、ジンライたち?」
湖の水面に映し出されているのは、泣きながら俺を抱き抱えているジンライと、その後ろで唖然とした顔をしている天野狼牙、そして泣き崩れているリュウと、男泣きを決めているライ、それにリュウの背中で泣いているディルだった。
みんな、なんで泣いてるんだ?
「あー、そっか……俺が死んだからか……」
俺は湖の湖畔に座り込む。
はぁ……というため息混じりで、空を見上げると、美しい夜空が広がっていた。
ちょうど、流星群のように星たちが雨のように流れ出した頃、1人のフードを被った男が俺の後ろに立っていた。
まるで、死神のような格好だった。
「誰?」
と、俺が振り向くと、男はフード越しにニヤリと笑って「誰でもないよ」と答える。
そして、男は俺の隣に座って、ふぅ……と落ち着き始めた。
「いやぁ……それにしても、君の人生って大変だよね」
そう言いながら、男は近くにあった小石を弄っている。
この男は何を知っているのだろうか。
突然現れて、突然語り出すって、なんだか怖い。
「あの……あなたは、誰なんですか?何者なんですか?俺の何を知っているんですか?」
「あは♪僕はなんでも知ってるよ♪まあ、強いて僕の事を語るならば、悪魔って言っておこうかな……」
「悪魔……ですか」
「そそ。ずっと眠っていたんだけど……君のことは、よく夢に出てくるからね……天野翔琉くん」
「俺が、あなたの夢に?」
「そうだよ。予知夢と言うより、世知夢ってところかな。今、世界でなにが起きているのかを知ることができる夢ーーーそんな感じ。というか、悪魔の登場に対して、君はあまり驚かないんだね、変な人間だ」
「まあ、虎獣人とか、精霊とか、龍族とか、神様とか……もう、ファンタジーなこの世界には、馴れちゃったからかな……でもさ、馴れることって怖いんだよね。警戒できなくなるからーーー」
「へぇ~人間って、そういうもんかねぇ?」
「そういうもんだと思うけどね、俺は……‼」
謎の人物との会話の最中、おもむろに湖の水面を見ると、状況が変化していた。
映し出されているのは俺の仲間たちなのだが……どうやら、天野蘚琉と戦っているようだ。
しかしながら、この状況はやはり劣勢だと思えるほど、押されている。
ジンライ、天野狼牙、ディル、リュウ、ライ……そして、先程は確認できなかったイミナ。
精神の器の力を徐々に吸われ、辛そうな顔立ちに、なにより天野蘚琉は無傷ーーー。
「おやおや、君のお友達は、このままだと殺されちゃうね。君の子供も……君が好意を抱いている女性も……みーんな……」
フードの人物は、再びニヤリと笑っている。
なにがそんなにおかしいんだよ。
「お前は、なにが言いたいんだ?」
と、俺が不快そうな顔で奴を睨むと、フード越しに奴は笑い、そしてこう言った。
「悪魔と取引しないかい?天野翔琉くん……僕ならば、きみを助けてあげられるし、彼らを助けてあげられるぜ……」
今まさに、喉から手が出たくなるほどの、甘く危険な言葉を、俺に奴は投げ掛けたのだったーーー。
 




