4thステージ73:狂気の女
「あはは、あはは、あははははは♪お兄ちゃん……そんな、矛で私に勝とうだなんて……とんだ世迷い言を言うようになったわねーーーそんな悪い子は、また閉じ込めてあげるよ。暗闇の空間にね‼」
座った状態で、彼女は俺の方に手を降り下ろす。
これは……あの魔法が来る!
「暗黒魔法:黒空間……」
暗黒のような闇が、俺を覆い隠し、世界を黒く塗りつぶす。
だが、その瞬間、空間には亀裂が入り、見事に破壊された。
その光景に、天野蘚琉は眠気が覚めた顔をして、一筋の汗を流していた。
「ん……んな……バカな……」
「甘いな、前の俺とは別人だぜ……」
トンっと、矛を地に軽く鳴らすと、天野蘚琉が座っていた玉座が急に破壊された。
天野蘚琉は、この出来事に予想できずに、無様にその場に転んでいる。
全世界の王だなんて、大層な肩書きを名乗っているわりに、なんだか拍子抜けのご様子。
あらら。
「やってくれたわね……クソガキがぁ……」
「おやおや、ほんの少し前にお兄ちゃんなんて言っていたのに、とんだ手のひら返しだな」
「ーーーえへへへ……いいよ……いいよ、お兄ちゃん……もっと、私をいじめてよぉぉ」
気が狂っているというより、感情が定まっていない。
心が病みすぎて、闇となっている。
彼女の心は、どうしようもなく、黒く染まっている。
「早く、これ打ち込まなきゃ、ダメか……」
俺が彼女に未だ見せていないポケットの中にある切り札ーーー【Human】の投薬が出来れば、あの状態をどうにかすることができるかもしれない。
だけどーーー。
「お兄ちゃん……私の本気見せてあげる……」
おぞましく、そして狂気に満ちた女は、これまで喰らってきた魔法をこの場ですべて体現してきた。
炎・水・雷・闇・氷・風・地・光、そして新属性の無……。
炎の魔法、水の魔法、雷の魔法、闇の魔法、氷の魔法、風の魔法、地の魔法、光の魔法……そして、無の魔法。
そして、神魔法さえも……。
神々しく、ふてぶてしく淡い光を放つ、自称全世界の王ーーー天野蘚琉は、赤く身に纏った赤いドレスに栄えるほどの、邪悪な翼を生やして宙を舞う。
「全魔法……さあ、お兄ちゃん……可愛がってあげるから……いたぶって、愛でて、なぶって、愛でてあげるから……」
ヤンデレポーズで彼女は、俺の方をじっと見つめてそう言った。もう、病んでるとかそういう次元の話ではなく、ただただ彼女の言動や行動が怖いと感じるのだ。
次に何をするか分からない。
予想がつきにくい。
気持ち悪い。
そんな風な彼女に、俺は淡々とこう述べた。
「……いやだ」
すると、ヤンデレからヤンデルに完全に移行した彼女の顔つきは、黒く黒く染まっていく。
そして、メンヘラのようにわめき散らし、最後には。
「じゃあ、死ねよ‼死んで死んで、死にまくれ‼」
と、罵詈雑言で罵倒するのだ。
そして、狂気と魔法に満ちた彼女は、怒りの笑みを浮かべながら、俺に対する総攻撃を始めたのだった。
絶望を与え、確実に殺す……そんな攻撃をーーー。




