4thステージ72:玉座で王は佇む
【~伏神殿~】
神が世界を監視するために建てられた建造物。
このなんとも、神々しい建物からは現在ーーー壮絶なまでな邪気によって澱んでいる。
何というか、不気味で、気持ち悪い……正面に立ちたくないし、出来ることならば見たくもないーーーそんな、雰囲気が漂っている。
「空気が澱んでいると言うよりかは、汚染されていると言うのが正しいのか……」
そんなことを言いながらも、正面入口から階段を上っていく。
螺旋で蛇のように長々と続く階段。
一人で歩むには心細いけど、天野蘚琉が【捕食】を使う以上、俺の大切な仲間たちは、また魔法と記憶を喰われる可能性があるからな。
「それだけは、絶対に嫌だ……もう、あんな辛い思いは、したくないからーーー」
ぐっと、拳に力を込め、俺はこの階段を上っていく。一歩、また一歩と、思いを秘めながら。
【~第1空間~】
「「ディル!」」
空間に響き渡る、虎と女の驚きの声。
だが、そんな声に特に反応を見せずに、停止した空間内でディルと呼ばれたその女性は優しく微笑む。
「あらあら、まさか私まで操られてるって思ってたって顔してるわね。いささか、心外だわ」
「だって、お前あんなにも翔琉のことを……」
「あー、あれ?演技よ演技。まあ、翔琉には気づかれてたけど……まさに、迫真の演技だったでしょ?」
「いや、そうだけども……ってか、あんたどうやって、天野蘚琉の魔力零に耐えたのよ。あれは、あたしたちにとって抗えないもののはずでしょ?それに記憶を喰われたんじゃ……」
「まあ、以前似たようなことがあったから、私は大分反省したのよ。特に記憶を失ったことに関してはね……」
ディルは依然、とある老害どもの策略によって記憶を失っていたことがある。
そのときの彼女は、弱く、脆く、儚い……そんな言葉が相応しいものだった。
そして、彼女は危うく生け贄にされるところまで、自らの命を危険にさらさせてしまった。
その前編でも、肉体を奪われるという失態を犯している彼女には、プライド云々より、単純に自分に対する防御が甘いことが露見し、異様なまでに恥ずかしい気持ちになっていた。
恥ずかしいこともさることながら、情けなく、残念だと感じていた。
何度も何度も何度も……敵の策略の上で踊らされ、手のひらで操られ、あまつさえ記憶も取り上げられる。
それは、彼女に【反省】という言葉と【警戒】を高める結果となっていた。
今回の場合は、まさにその反省が生かされた結果だったと言える。
特に記憶改竄に対して、彼女はある対策をしていた。
それは、時読衣に自身の記憶をコピーしておくことーーー自身の操られた後の行動を考えたとき、ましてや仲間たちが全員敵の手に落ちたとき……自身はどういう行動をするのだろうか?
すなわち、誰かと戦うことがあるのかどうかと言うことだ。
もしも、自身が戦うことになるならば、全力で戦わなければならないのならばーーー必ず、時読衣を着ることになる。
それならば、その着た瞬間に記憶が蘇るように魔法を仕掛けておけばいい。
自分の記憶が元に戻るように、細工しておけばいい。
それぐらい、できるはずーーー何故ならば、彼女は時と空間を操る魔法を使いこなす一族なのだから。
未来に自分の記憶を飛ばすことぐらい可能だ。
ならば、着た瞬間という未来に向かって魔法を仕掛ければいいだけだ。
時空間魔法【猶便】。
未来への自身に対する最小にして最大の投資ーーーそれは、自分の記憶というかけがえのない必須アイテムなのだ。
「さてとーーー私も加わったことだし、反撃しちゃいますか♪」
【~第2空間~】
イミナ=ファルコンの登場というジョーカーカードの登場は、まさに場の空気も雰囲気も一変させた。
先程まで喧嘩していた2人は手を取り合い、共闘。
先程まで余裕だった3人は、圧倒的力の差に劣勢。
まさしく、逆転というべきだろう。
ジンライと天野狼牙ーーー彼ら2人は似た者同士だ。
愛するものを頑なに愛し、頑固でワガママで、時に優越感を見せつける……だが、本当は単に甘えたいだけなのだ。
2人とも、策略によって生み出された生命体なのだから……。
1人は、神殿で……1人は、実験室で……。
それぞれ、何者かによって突き動かされ、運命の軸に埋め込まれた存在である。
だからこそ、彼らは互いが己と重なってみえ、反発し、喧嘩をする。
自らの弱い部分を見せつけられているような感覚に陥ってしまうからだ。
だが、互いの弱い部分を補えばーーー2人で力を合わせれば、あの天野蘚琉すら……天野翔琉すら凌駕する可能性も秘めている。
まあ、彼らはこの事実を知りはしない。
いや、知っていても否定するだろう。
何故ならば、2人が慕う彼ら彼女らこそ……彼らが目標とする者たちなのだから……。
「決めるよ!狼牙!」
「おうよ!ジンライ!」
「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼」」
強大な光……それが、空間内を埋めつくし、3人に向かって放たれる。
「「光の魔法:神之憤怒‼」」
仲良く声を揃えて放った、光属性最強の魔法は、3人に当たり、戦闘不能へと追い込んだ。
この勝負、ジンライと天野狼牙の勝ちだ。
「待ってろ、翔琉ママ‼今、助太刀するからな‼」
「……お姉ちゃん……今度こそ、助けて見せる‼」
【~伏神殿~】
最上階……いや、むしろここは屋上だろうな。
「やれやれ……天野翔琉君……いや、異世界のお兄ちゃん……ようこそ、我が居城へ」
屋上に設置されている、豪華絢爛な玉座にだらしなく座る赤いドレスを身に纏った女ーーー天野蘚琉は、そこに君臨していた。
まるで、これから一眠りしようとするのではないかというほど、だらしない格好だが、まあ君臨していた。
威風堂々だらしなく君臨する彼女に対して、俺は、冷淡に腕に装備していた腕輪を矛へと変えて、彼女の方に向けながら言う。
「決着……つけようぜ」




