4thステージ66:世界決戦③
【~第1空間~】
7人の大魔導士、そして太古の魔導士……ここで、彼らは戦を行っている。
だが、まあ五分五分の戦いではなく、圧倒的に、暴力的なまでに差のある戦闘だといっておこう。
雷の大魔導士にして、【白虎】の生まれ代わりとされている男ライ。
水の大魔導士にして、世界最高クラスの治癒魔導士でありながら、戦闘狂リュウ。
この2人は、現在……圧倒的戦力差に襲われている。
「くっ!流石にキツいな……」
「えぇ……やっぱり、強いわね……連合トップクラス全員を相手にするのは」
ボロボロで、腕や足、顔には切り傷や打撃痕などがある彼らの様子を見る限りでは、現在いたぶられているという表現が相応しいかもしれない。
「あはは~、血が滲み出てるね……裏切り者の魔導士ライとリュウ……」
うっとり顔で、アニオンは彼らのボロボロの姿を見て興奮している。
血を見て興奮するとか、鮫かよ。
あ、鮫は血の匂いで興奮するんだっけ?
まあ、血で豹変するならば、似たようなものか。
「天野翔琉についたあなたたちを責める訳じゃないけどさ……なんで、あの男の味方をするわけ?」
と、ヒョウは冷ややかな眼差しで、彼らを見下しながら問う。
「確かに……天野翔琉なんて、あんなクズな人間によく追従できるわね……私なら、ヘドが出て死んでしまいますわ」
「あー、分かる分かる~。私も、植物も枯らされてしまいそうで、怖いわ~」
ボロクソの、相手にボロクソに、彼らの仲間をーーー天野翔琉を侮辱する仲間だった彼女たち。
彼に恋した女も、彼に恩義を感じた女も、彼を慕った女もーーーもはや誇りという気概もなく、感情もなく、ただただ機械的に傀儡のままに、あるがままに場に流されているようだった。
その様子は憐れみを越えて、もはや次にリュウが言った言葉が相応しいだろう。
「可哀想……」
リュウは、彼女たちに向かってそう言った。
まるで、憐れみを受けていることに苛立ちを覚えたアニオンたちの攻撃は再び始まる。
残虐なるままに、その攻撃は記憶から消された仲間に、牙を突き立てるのだったーーー。
「翔琉ちゃんを悪く言うことでしか、あなたたちには翔琉を語ることしか出来ないだなんてーーー本当に、翔琉ちゃんの記憶が抜けてるのね……安心して、みんな……あたしは、別にそんなみんなの事を責めないよ。責めないけど、攻めさせては貰うけどねーーー治療女王魔法、発動」
青く淡く光るリュウの魔法……一定時間不死者になる魔法。そして、同時に自らの命を削る魔法でもある。
一定時間内で戦闘を終わらせないと、彼女には死が待っている。水の治癒魔法最大の弱点でもある【治療者に負荷を与える】を体現しているようなその戦闘方法。
彼女自身は「死と隣り合わせなのは、患者も医者も同じ条件……自らが死に携わるのを恐れた医者なんて、それはもはや医者とは呼べない」という持論を持ち合わせているほどの覚悟と意思を背負った女なのだ。
「雷虎魔法:白虎の陣、発動……」
そしてここにも、強固な意思を持った人ーーー否、虎がいる。
雷を全身に身にまとい、荒々しくそして、堂々とした面持ち……凛々しく君臨するその姿は、まさしく【白虎】の生まれ変わりに相応しい姿だろう。
「……お前らーーー散々、翔琉に助けてもらってたってのに……それが、俺達の誇りなのか!?それが俺達の絆だったのか!?」
ライは憤りと不満を仲間たちにぶつける。
しかし、彼らの耳には、その思いは届かず……。
挙げ句の果てには。
「うわー、なにあの虎……なんか吼えてるよ……気持ち悪いな」
などと、トルネらに罵倒されてしまうのだった。
そして、ホルブからはこんな言葉が飛び出た。
「雷の大魔導士ライ……お前の言っていることが全く分からんが、少なからずとも儂らには、天野翔琉との思いでなど存在せぬ。少数派の意見なんぞ、多数で埋め尽くされてしまえば霞んで見えなくなるもんじゃ……お主たちは、今や少数派……誰も意見なんぞ聞いてくれんわい」
確かにそうかもしれない。
多数で埋め尽くされたら、少数派の意見なんかは消え失せるだろう。
言葉を通すには、権力と多数の指示……それが、世の中を動かしてきたこれまでの総意だ。
歴史上見ても、どんな世界でも、それは変わらないだろう。
でも……。
「例えそうだとしても……多数で攻められて、リンチされようと、意見を押し潰されようとーーー俺は……俺のしたいことをする。例えそれが、誉められないことでも、例えそれが、同意されていないことでも……俺は後悔したくない。後悔して死ぬくらいなら、どんなバカなことでも、どんな無駄なことでも挑戦してから死ぬ‼それが、俺のーーーいや、俺達の覚悟ってやつだ‼」
「ふむ……去ることながら、惜しい逸材だが……残念だーーーここで、骸となりて、朽ち果てろ……」
こうして、世界魔法連合のトップによる無謀で無粋な戦が繰り広げられるのだった。




