4thステージ62:神は水面へと進む
神の作りし20個の宝具の1つである閃光矛……矛という棒状の長い刃物のイメージとは裏腹に、現在は腕にはまるほどのブレスレットになっている、この武器。
この武器には、意思が存在する。
普通ならば、見た目通りの威風堂々とした、言ってしまえば張り詰めた頑固なものであるかと思う。
仮にも、神様が作った道具なのだから、それが普通ーーー一般的考えかと思う。
だが、その考えは、この世界においては無意味だった。
普通に、アウトな意思が入っていたのだから。
こんな意思が強いのかと、俺は疑問に思うけれどーーーまあ、実際に戦闘になってみなきゃ分からないものだろう。
最終兵器として、とっておきとして、これは最後まで取っておこうーーー文字通りの切り札となることを期待して。
「Zzzz……むにゃむにゃ……」
「こいつは、いつまで寝てるのやら……」
泣きつかれて寝てしまったーーーそんな、赤子みたいな青年、天野狼牙(偽名:パラノイア)は、未だに長い長い眠りについている。
こんな、薄気味悪いところでよく寝れるなと、俺は感心してしまうのだけれど、いい加減起こさないと、物語も進まないことだ。
どれどれ、起こしてやるか。
「おい、狼牙……狼牙。起きろ」
「ん?……むにゃむにゃ……Zzzz」
「2度寝するな!」
「Zzzz……うふふ……むにゃむにゃ……」
「寝ながら笑ってやがる……夢でも見てんのか?」
「……うふふ……お姉ちゃん……」
「なんだ、過去の思い出でも見てんのか?」
「……お姉ちゃん……むにゃむにゃ……パンツ見せて……」
「どんな過去を送ってやがったんだよ‼」
「……‼」
俺の大声に反応したようで、ガバッと上体を起こして狼牙は目覚めたのだった。
「むにゃ?あれ?お兄ちゃんだぁ♪」
「いや、お前の知る天野翔琉とはまた別の天野翔琉だ……って、抱きつくな!」
ぎゅっと、俺に抱きつく狼牙に嫉妬心なのか、妬みなのか……はたまた、殺意なのか……ジンライはその様子を冷ややかな目で眺めていたーーー 時折、歯軋りを立てながら……。
「ほら、離れろ狼牙!」
「えー?おいらの事嫌い?」
「嫌いじゃないけど、好きでもない……だから、普通だ」
「じゃあ、お兄ちゃんは誰が好きなのさ!」
「え?」
「俺もその話気になるなー」
ライが食いついた。
「あたしもあたしもー」
リュウが食いついた。
「俺もー、気になるなー」
ジンライまでもが、食いついた。
こりゃあ、大漁だぁ。
「ちょっと待って、お前ら落ち着け!恋バナしてる暇は俺たちには無いだろ!」
「翔琉ちゃん……女子はね、世界の破滅よりも、好きな男の好きな人が誰なのか……それを知る方が大切なのよ」
「それ、世界滅んじゃうやつだから。結果として世界滅んじゃうやつだから、それ‼」
「翔琉ママー、俺の事息子以上に好き?」
「息子以上に好きって、どういう意味なんだよ‼」
「マイスイートハニー翔琉、俺との結婚生活は退屈になったのか?」
「この虎妄想と現実が噛み合ってないぞ‼」
やめろやめろ。
お前ら、一端落ち着け!
「ーーーさてと、そろそろ私は行くね」
そういって、始まりの神は暗闇の道に向かって歩んでいく。このピラミッドの出口……その方向へと、彼女は向かっているようだ。
「おい、始まりの神……」
そういって、俺は彼女を引き止めた。
始まりの神は、くるりと振り向き、俺の顔を見つめてにこりと笑うと「なにかしら?」と聞き返した。
「最後に1つだけ、聞きたいことがあるんだ」
「なにかしら?」
「記憶を根本から捏造された仲間たちーーーディルたちの記憶……それは、天野蘚琉を倒したら、治せるのか?」
「……どうかしらね?私自身も、記憶を根本から弄られていた事がないから、アドバイスしようがないから、本当に感で言わせてもらうならば、大丈夫よ。あなたは、これまで通りに、自分の思った通りに進めばいい。それが、天野翔琉くん……君が成功する秘訣だし、何より君自身の能力なのだから」
「俺自身の能力……?」
「そうよ、あなたの能力はねーーー」
語り終えた始まりの神は、このピラミッドから、この世界から去っていった。
と言っても死んだわけではない。
このピラミッドの水面に反射する逆の世界へと帰っただけだ。
始まりの神は「後は、あなたたちが何とかしなきゃいけない……私が手を下すことは許されないーーーだから、こそ……私は見守ることしかできない」と言っていた。
彼女の真意はなんなのか、結局俺は理解することが出来なかったけど、彼女は彼女なりに世界へと事を案じているのだとーーーそういう風に考えることにした。
これでよかったのか……それは、再び彼女に出会うことがあったときに問うことにしよう。
このときの考えは正しかったーーーそう言ってもらえるようにも……今はこの世界を……いや、一人の女の子を救おう。
力に溺れ、全てを食らう女の子を……。




