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魔法世界に来てしまった結果、最強の魔導士になってしまった  作者: ただっち
パラノイアクライシス編:第7章~逆転への道と狼の弟子~
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4thステージ58:愛する女

「なるほど……そう言うわけだったのね……」


俺が語った、天野狼牙の物語ーーー苦痛の選択と、記憶を失う恐怖……それがリュウには理解してくれたようで、深く彼女は頷いていた。

自分に酷いことをしたのは、天野蘚琉……彼はなにも悪くない。だけど、自身に刃を突き立てた肉体は目の前にいる天野狼牙という、若干複雑な状態になってしまっているが、それでもリュウはにこりと笑って。


「うん、許す!」


と、言い切った。

実に凛々しく、カッコいい……そう俺は思った。

やっぱりリュウは、カッコいい。

こういうあっさりしてる女性は、俺は好きだ。見ていて、清々しいし、なにより安心できる。


「ーーーところで、狼牙くん……俺とキャラ被ってるよね?」


そういって、何故かジンライは対抗心をむき出しにしている。こういう女性は俺は苦手だな……嫉妬心強いって、時として恐ろしいことするからさ。


「え?いや、そんなことないですよ……たぶん」

「いやいや、だって、産み出されて、天野家の人間に育てられて、そんでその育ててくれた人を愛してて、獣の耳生やしてて、なんて……キャラパクりじゃん!」

「ジンライ落ち着けって!」


そういって、グダグダ文句を言う愚息は、父親(ライ)によって、連行されていくのだった。


「ははっ、なんかごめんね……根はいいやつだから」

「……」

「そんなに気にしなくていいから」

「あ、すみません。ちょっと、蘚琉お姉ちゃんのこと考えていて……」

「それなんだけど……かつて、天野蘚琉に投与された、斬神夜弥の作った試作のワクチン……あれは、不老不死を解除するものではなくて、精神を破壊する薬だった」

「あの野郎……散々お姉ちゃんを実験道具に利用しやがって……」

「だけど、その薬……彼女から不死の能力の一部を奪っていた……だから、彼女はそれを補おうと【捕食】の能力に目覚めた……全ては、防衛本能のために……」

「……」

「彼女を助けたいかい?」

「え?助けられるの?」


狼牙はその言葉に食いついてきた。いや、希望を持ったようで、先程からの暗い表情が少しだけ明るくなったように見える。

俺はにこりと笑い、こくりと頷いた。

その瞬間、天野狼牙からは、大粒の涙がこぼれ落ちた。そして、生まれたての赤子のように、彼は大声で泣いた。

愛する女性が元に戻るーーー長い年月、深い深い精神の奥すみの本来の記憶を持つ心は、そのパラノイアと呼ばれる獣の行動に罪悪感を持っていた。

無関係の者を巻き込み、エネルギーを無作為に奪い、世界をまるごと食らっていたーーーそんな罪に、彼は必死に耐えながら愛する女性が元に戻ることを待っていた。

それが、ようやく叶うのだーーー長い長い道のりを越えて、ようやく悲願が叶う。

彼にとって、こんなにも嬉しいことはない。

俺は泣いている彼の頭をそっと撫でた。

優しく、優しく……。

彼が泣き止むまで……ずっと。

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