4thステージ56:ピラミッドの秘密
「始まりの神……あいつ、嫌い」
と、リュウは言った。
彼女いわく、身体を弄ばれたからとのことなのだが、いったいなにをされたんだろうか。
腕を抑えながら、リュウは痛々しいことを思い出したかのように、苦しそうな表情を浮かべている。
「リュウ……辛そうなら、待ってるか?」
「いや……一緒にいく……翔琉ちゃんは今、極限まで弱くなってしまっている。そんな状態で、あの女の近くにみすみす好きな男を行かせるほど、あたしは嫌な女じゃないわよ」
「あー、そうだ、始まりの神からの伝言……」
「ん?なによ……」
「【今度来たら、純粋な勝負をしましょう……もう、私には身体は必要ないから、純粋な勝負を……友情が芽生える楽しい勝負をしましょう】だって」
「……ふーん」
リュウは不機嫌そうにしているものの、若干ではあるが嬉しそうにも見える。
こんな状況でも、勝負となれば嬉しそうにするんだなーーー流石は、戦闘狂だな。
「なら安心……だけど、始まりの神の胸には穴が開いてたと思ったんだけど、それで身体が必要ないってどういう事かしらね?」
「あー、それなら俺が治した」
「へ?翔琉ちゃんが?あの傷を!?」
リュウはがっつくように、こちらに顔を近づけた。
近い、近い!
「ああ、光治でな」と、言って俺は彼女を押し戻した。
「そそ、こう胸に手を当てて、穴を埋めて……」
「おいまて、翔琉ちゃん……始まりの神の胸を揉んだのか?」
「む?まあ、結果的にはーーーでも、フルートの方が大きいと思うぞ‼」
「いや、そこじゃねーし、新しい疑問が出てきやがったよこの野郎……翔琉ちゃん……いつフルートの胸揉んだんだよ」
「あー、それはJMGを読めば、そのうちその回が登場するって、どうしたのリュウ?俺の腕を掴んで……」
「えい!」
ボイン、っとリュウは自らの胸に俺の腕を押し付けた。
うお!柔らかい!ーーーって、えええ!!!
「リュウ!何してるの!」
「フルートと始まりの神だけじゃ、ずるいと思って……あたしも、翔琉ちゃん悩殺したいし……」
「悩殺って、殺す気満々かよ」
「ほらほら、子供の教育に悪いからやめろ、リュウ」
と、ライがリュウから俺の腕を解放すると、今度は自身の首もとに腕を持ってきて、俺の腕を使って自らの首もとをかきはじめた。
「ゴロゴロ~♪」
「お前もだろーが!」
ゴツン、っとリュウがライを殴り付けた。
その衝撃で、俺は腕を解放されたわけだが……まったく、こいつらは。
こんな状況でもマイペースで、大好きだぜ。
「翔琉ママ……俺も……」
と、青年姿のジンライが悪い大人たちの所業を見て、グズり始めた。
仕方がないな……と、俺はジンライの頬を撫でた。
子供は親に甘えたい……それは、どの世界でもどんな状況でも変わらないのだろう。
ならば、俺は親らしくどんなときでも子供を守ろうではないか。目の前でこの子がやられる事があったら、俺はなにをするかわからないかもなーーー。
創始神墓地の湖の上には空飛ぶピラミッドがある。
空飛ぶ巨大建築物といえば、俺にはラピュタとかぐらいしか思い付かないのだけれど、なんだろう……壮大さばかりとは裏腹に、何故こんなにも、あの建物の中からは悲しそうな気配がするのだろうか。
なんというか、哀愁漂うピラミッド……なんだか、不思議な言い回しだが、その言葉が相応しいものだと、改めて思った。
「ふう……どうやら、今はディルたちは居ないようね……」
リュウは水の魔法により、辺りの生命反応を探ったが、俺たち以外の反応は、あのピラミッド内部以外からは感じ取れなかったらしい。
逆に言えば、あのピラミッド内部にはたった1つだけ……生命反応があると言うことなのだ。
「でも、翔琉ちゃん……その古びた鍵を、どこで使えばいいのかな?あたしは、前に来たときにピラミッドを調べたけど入り口はおろか、鍵穴すらなかったけど……」
「リュウ……水面に映る、ピラミッドを見てみろよ」
と、俺はにこりと笑って指を指す。
彼女ははてなマークを頭に掲げたまま、水面に目をやるとパーっとスッキリした顔になった。
「うわ!これは、気がつかなかったーーー」
そういって、彼女の見る水面には、ピラミッドの影と日の光にによって生まれた小さな穴……鍵穴があったのだった。
水面に映る影……ここに鍵を差し込めば、ピラミッド内部へと行ける……。
そう、確信していたのだった。




