4thステージ55:偽りの抗体
天野蘚琉が投与されたワクチン……それは、あくまでも試作段階のものだった。それは、先程の歴史書から読み解くことができた内容だ。
斬神夜弥という人物によってもたらされたそのワクチン……実際のところ彼にどのような思惑で、どのようなことを考えていたのかーーーそれは、知らないし、知りたくもない。けど、言葉で表すならば、卑劣という言葉が相応しいものだと、俺は思う。
というのも、実際に使用されたワクチンの成分を探っていくと、実はあの薬の成分は、決して不老不死を解除させるものなど、入っていなかったのだ。
つまり、斬神夜弥は初めから不老不死を解除する薬など、作ろうとはしていなかったのだ。
いや、一部は確かに解除されているのだが、彼にとってはそれは偶然の産物だったのではないだろうか。
では彼は、何を作ろうとしていたのか、そしてなにを作り出したのかーーーそれは、成分を見れば一目瞭然だった。
「あの薬は、全て違法薬物の結晶だったんだよ……俗にいう、麻薬とか、そういう類いのやつーーー精神を侵して、全てを逆転させてしまう……そんな、薬だったんだよ」
そういって、俺は紅茶を飲みながら、ジンライたちに語るのだ。流石のジンライたちも、言われたことをすぐに理解するには時間がかかるだろうーーーなんせ、突然として分かった事実だしな。
「え?じゃあ、天野蘚琉は、斬神夜弥にいいように利用されてるってわけ?なんのために、そんな……」
「いや、それについても、あらかた理解できたよーーー天野蘚琉をあの状態にした結果、彼女がどのような行動を取ったか……いや、彼女によってどのようなことが起きたかをーーー」
「彼女によってもたらされた……出来事ねぇ……」
「全世界が掌握されたこと?」
「全員の記憶が捏造されたこと?」
「【捕食】という能力の覚醒?」
「ぶぶー、全員ハズレ」
バッテンマークを俺は彼らに突きつけた。
そして、俺は言うーーー正解を……模範解答を。
「正解は、天野翔琉の殺害でした」
「「「は?」」」
と、ジンライたちは驚いていた。まるで予想だにしていなかったようなのが、逆に俺としては驚きなのだけどーーー。
 
「なんで、なんで翔琉ママの殺害が、その斬神夜弥の計画なんだよ?」
「それは、俺にもわからないーーーでも、1つだけ言えるのは今、唯一無事な天野翔琉は全世界で俺だけだ。まあ、ボロクソ殺られていたイミナは、魂だけの存在だから、オールドアさえ無事なら生きているけど、あいつは始まりの神によって転生させられた存在……だから、天野翔琉としては、死んでいるって事になっちまうんだよ」
「だけど、それならば、そんな目的があるならば、何故天野蘚琉は黒空間内で、最後の標的である、翔琉を殺さなかったんだ?」
「うーん……例えば、殺したかったけど殺せなかった……とかは?」
「殺せなかった?」
「何かの目的、何かの準備のために、今は……少なくともあの状況では殺せなかった……という風にしか、現状では考えられない……そして、さっきのディルたちから察するに、もう準備は整っている……だから、あとは俺が死ねばいいだけ……なんじゃないかな?」
「うーん……まあ、そうかもしれないな……」
「とにかく……今の天野蘚琉は薬のせいであんな状態になっているのが明確に明かされたわけだ……だとするなら、あの薬を解毒してしまえば言い話になる」
「確かに……でも、翔琉……それは、どうやって作るんだ?」
「俺に任せろ♪こう見えても、薬学は得意でねーーーなにより、天野蘚琉のいた世界は化学の発展していた世界ーーーならば、俺がやるしかないでしょ」
「流石はあたしのマイスイートボーイね♪」
「流石は俺のマイスイートハニーだぜ♪」
「流石は俺のマイスイートマミーだぜ♪」
マイスイートほにゃららってやつ流行ってんのか?
なんでこいつら、こんなにも息ピッタリなんだか……。
「ーーーだけど、その前に……俺にはやらなければならないことがある」
「やらなければならないこと?」
「これ……」
と、俺は古びた鍵を彼らに見せる。
「これは?」
「始まりの神が俺にくれたーーーピラミッド内部へ入るための鍵だ」
「始まりの神ですって‼」
と、リュウは苦い顔をしていた。すごく嫌そうで、嫌悪している……そんな表情。
いったい、始まりの神と何があったのか?
まさか、肉体の奪い合いとかしていたわけでもあるまいし、そんな顔しなくてもいいのにな。
「ピラミッド内部……そこには始まりの神が残した宝具と、狼が眠っているらしいーーー」
それが、天野蘚琉打開策に必要な文字通りの最終兵器として機能するかは、俺の使いどころと言う感じなのだろう。
そのため再び、あの地へ向かわなければならないーーー始まりの神が眠りし土地……創始神墓地へ。
 




