4thステージ52:乱戦へと
表世界……つまりは、湖の水面から飛び出たわけだが、そこにはディルとエンが立っていた。
明らかに敵意をむき出しに、こちらを睨み付ける彼女たちに向かって俺は笑顔でピースをして、そのまま一気に上空へと逃げた。
無策に彼女たちと戦っては、これまた天野蘚琉の策略通りになってしまうだろう。
ディルの時空間魔法……それによって、時空に乱れが生じて一瞬俺は捕らえられそうになるものの、拒否により事なきを得る。
「あぶねぇ……思えば、世界魔法連合のトップのほぼ全員が襲いかかってくるって、ある意味絶望的だよな……」
早く、あいつらと合流して対策を練らなきゃな……なんて、思っていたのも束の間……俺は、荒ぶる竜巻に襲われた。
まるで、ミキサーのようなその鋭い風は、俺の身体におびただしい傷をつける。
直ぐに拒否をしたのだが、時すでに遅し……俺の前には竜巻を発生させた張本人が既に行く手を阻んでいたのだ。
先程の竜巻を発生させたのは、他でもないーーー風の大魔導士トルネだった。
彼のいつも付けている王冠は外れていることから、今の彼は力を完全に解放していることがすぐに分かった。
「よぉ……主人の敵……確か名前は、天野翔琉だったっけ?いけすかねぇ、顔しやがって……」
「お、トルネじゃんか久々!元気?」
「はぁ?馴れ馴れしいんだよ!初対面のこの俺様に何を偉そうな口を利いてるんだか……」
「初対面?あー、そういえば記憶を根底からいじられているんだっけ?つまりは、俺との旅とか会話も全部忘れてやがるわけだ」
「何を訳のわからぬことをーーーまあ、とりあえずお前は死んどけ……それが、主人のご意志ならば、勤めるのが下僕たるものの定め……また、主人に足蹴にされたいし……えへへ」
あー……やっぱりこいつ、変態だわ。洗脳されようが記憶を根底からいじられていようが、そこだけは変わらねーのなトルネ……。
「世界最強の風の魔法を操る男……悪いけど、君に時間を割いてる場合じゃないんだよね……一刻も早く、天野蘚琉を倒さなきゃいけないんだから……」
ピクッと、トルネの眉間が動いたと思ったら、その表情がみるみると黒くてまがまがしい怖い顔に変わった。
「天野蘚琉を倒すだと……お前が?」
「まあね」
「身の程をわきまえろ、この屑が!風の魔法:疾風怒号巻!」
唐突に放たれた、風属性最強の魔法……一瞬回避が遅れてしまって少しかすってしまったけど、やはり末恐ろしい魔法だ。後ろの奥の方の山が粉々に砕けて、吹き飛んでしまった。
「こわっ!」
「ふん、回避出来たのは誉めてやるけど、だがやつらも追い付いたようだな」
と、トルネはニヤリと笑っている。その宣言通り、先程の砕けた山の方から2つの影が接近していた。
ディルとエン……時空間を操る時の監視者と、炎の種族【龍族】の元族長にして、龍族王家の血筋を持つ、半龍。
どちらとも、けた違いな戦闘能力を持つ者たち……。完全状態の神魔法ならば太刀打ち出来たかもしれないけど、今の俺は……俺では、ギリギリ引き分けるが精一杯だろう。
「あっれ?天野翔琉じゃん!」
と、唐突にトルネの後ろから現れたのは、負極魔法の使い手アニオンだった。
これは、これはーーー戦局が絶望的になってきたな。
「初めまして、天野翔琉♪私の名前はーーー」
「アニオンだろ?知ってる知ってる知り尽くしてる……」
「うわ、ストーカーかよ!きも!死ね!」
アニオンってこんなに、毒舌キャラだったのかよ。嫌な女だなーーー。
「はぁ……はぁ……追いついた……」
「うちらも流石に全力でここまで飛ばすと、疲れるわ~」
おっと、丁度残りの2人もご到着のようで。やれやれだぜ、全くーーー。
「お、ディルにエンも!お疲れ様♪」
「黙れ、お前が逃げるからうちらが必死に追いかけてきたんだろ!」
「そうよ……それに、よくも影武者で欺いてくれちゃって……覚悟しなさい」
「あららら……殺す気満々って感じだね……果たして、俺を殺せるかな?」
「舐めた態度ばっかりとってるんじゃないわよ!時空間魔法:時閉鎖」
すると、ディルから半径1キロに渡って、金色に輝く鎖が球場に囲むように張り巡らされた。どうやら、またもや俺は幽閉されてしまったようだな。
「さて、天野翔琉……私たちの主人である天野蘚琉様……全世界の王に逆らう反逆者よ……その罪……死で償うがいい!」
そうディルの台詞が終わると同時に、戦闘は開始されたのだったーーー。




