4thステージ43:意識の世界からの最期
闇ーーーこの世界全ては闇の中。
ここはどこ?あたしは誰?ーーーそうだった。あたしは、リュウ。世界最高峰の治療魔導士にして、8人の大魔導士の1人。
あれ?なんで、ここにいるの?
あれ?なんで、あたし……。
そうだ……そうだった。
「あたしは、天野蘚琉に負けたんだ……」
天野蘚琉……自称【全世界の王】。そして、パラノイアの正体……。まさか、変身して戦うだなんて……本当に人間かよ。
「ここどこよ……」
辺りは闇一色。自身の身体がようやく見えるほどの黒い世界。そんな中を、流れに任せて、あたしは漂っていた。世界と世界を隔てる空間に飛ばされた……というわけでも、なさそうだ。だとしたら、身体が動かないはずだもの。
「ここはね……君の意識の世界だよ、リュウ……」
そんな声が後ろから聞こえたので、振り向くと、そこにはイミナが立っていた。イミナ……天野蘚琉の兄である【天野翔琉】である。だが、あたしが愛している【天野翔琉】とはまた別の【天野翔琉】だ。彼は、先程の自称【全世界の王】の実兄。そして、パラノイアと呼ばれた天野狼牙の義理の兄でもある。そういえば、イミナの魂をあたしの中に隠していたの忘れてた。すっかり、幻想詩を探すことに夢中になってて、そのあとは殺し合いをしていたものだから。
「イミナ……あなた、蘚琉が狂ってるってなんで黙ってたのよ……」
「いや、黙っていたわけではない……ただ、狼牙の外に出ているってことだから正常になったのかと思っただけだーーーあの頃の……純粋で明るくて優しい、自慢の妹に……」
「ふぅーん……でも、元に戻ってはいなかったようね……」
「それなんだよな……僕も計算が狂っていたようだったよ……まさか、狼牙にまであんなに悪影響を及ぼしていただなんて……」
「天野狼牙にまで影響?ってことは、狼牙って元々あんな感じではなかったの?あのなんか気持ち悪いストーカーみたいな感じでは……」
うん、とイミナは頷き、深いため息をついた。どうやら、彼自身もそうとう辛い思いがあったようだ。あまりにも悲しそうな顔つきだったので、これ以上詮索するのはやめてあげようと思った。いったい何があったのかーーーそれは、この戦いが終わってからでもいいだろう。
「さて、イミナーーーあたしは、天野蘚琉を止める。というか、あいつを止めないと、みんなが完全に死んでしまう……」
「それは無茶だろ……リュウ……君の身体はもはや限界に来ている……加えて、最強のチート道具の幻想詩は粉々に砕かれてしまっている。これでは、君は治療女王魔法を5分しか発動できない上、発動終了時に不純物が溜まりすぎて、下手をすれば死ぬぞ」
「いいわよ……みんなを救えるなら……あたしは、よろこんで……」
バチン……虚空の闇の中に、破裂音が響く。破裂音……というか、顔をぶたれた音だった。イミナが、あたしのほほを思いっきりひっぱたいた。
「なにするのよ!女の子の顔をぶつなんて!いったいこんなときになにを……」
「いい加減にしろ!」
イミナの怒号が、あたしの口を閉ざした。
「自分の命を粗末にするやつなんかに、他人の命を救えることなんかできるわけないだろ!それに、お前……こんな時まで敵を倒すことしか考えられないのか!?」
「じゃあ、教えてよ!あいつを倒さずに……この事態を救うには!」
「……逃げろ」
「はぁ?逃げろって、みんなを見捨てて?」
「いや、違う……みんなと一緒に逃げるんだ」
「無茶言わないでよ……そんなこと、どうやってやればいいのか判らないわよ!」
「本当にそうか?」
「はぁ?」
「本当に分からないのか?」
「……」
「仕方がないな……お前がさっきまでいた場所はなんだ?」
「時空図書館のシェルター内」
「時空図書館って、自由に出入りできるんだっけ?」
「いいえ、許可されていないと例え神であろうと侵入できない仕組みになってるけど……」
「今のお前の敵は誰だ?シェルター内全員か?」
「いいえ……天野蘚琉だけ……!」
「ようやく分かったか?」
「天野蘚琉だけを、外に追い出せば……全員逃げれるってこと?」
「ご名答……だけど、ここで問題が……どうやって天野蘚琉を追い出すか」
「空間魔法しかないけど……あたしは、空間魔法は使えない……せめてボルが復活してくれればなんとかなるかもしれないけど……天野蘚琉が易々と引っ掛かってくれるかしら?」
本当にそこが不安だった。ただでさえ、捕食で魔力零にしてくる化物に加えて、シェルター内全員の魔法を使えるってなったら非常に厄介だ。同じく空間魔法で相殺されてしまう可能性もある。
「……じゃあ、その役目は僕がやるよ……」
イミナはにこりと笑っていった。死を覚悟した人物の目ーーーイミナの今の笑みにはそれが、混じっていた。
「あなた、死ぬ気?」
「いや、だって仕方がないじゃないか……オールドアの創造主である僕ならば、空間魔法は使える……まあ、オールドアからの力を少し使うだけだけど……僕は、外の世界へと戻ったらオールドアへと帰還する。そして、身を隠しているよ。そうすれば、翔琉たちが帰ってきたときに天野蘚琉の暴走を止めてもらえるじゃないか……」
「イミナ……」
覚悟を決めろ、あたし。もう、これしか手がないんだ。こうするしかみんなを救えないんだ。こうしなければ、世界は守れないんだ。そう考えて、必死に頭をその考えで埋め尽くして、あたしはイミナの指示通りに動くことにした。
みんなを救うためにーーーそう思って、グッと気持ちを押さえた。
ガバッと、あたしは勢いよく立ち上がった。そして、目の前には天野蘚琉(変身後)が驚いた様子で見ていた。
「おやおや……この死に損ない……まだ、やるっていうの?」
「いいえ……あなたの相手をするのはあたしではない……彼よ」
そういって、隠していたイミナはあたしから解放された。そして、身体を実体化させて、地へ降り立つ。
「やあ、蘚琉……改めまして、こんにちは……お前の兄ちゃんだよ……」
「えー、うっそー!お兄ちゃん!生きてたの!あの時、狼牙にやられたと思ってたのにーうわー、驚いたー(棒読み)」
「まったく、お前は……いや……もうなにも言うまい……お前はここでお兄ちゃんが、止めてやる」
イミナは、にこりと笑って天野蘚琉に近づく。蘚琉は、ただただ兄が近づくのを待っていた。キョトンとした表情で。そして、イミナが天野蘚琉に触れた瞬間、彼女は兄の胸を隠し持っていた剣で突き刺す。
「ガハッ……」っと、イミナは血を吐くが、それでも笑っていた。にこりと笑って……そして、最後の力を振り絞って言った。
「リュウ……達者でやれよ……」
そういって、彼は……イミナは天野蘚琉を引き連れて、時空図書館から消えたのだった。




