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道化師は止まらない  作者: しみず みし
8/21

第三話の二

 え~、話の流れで起承転結の『転』の部分にかかる伏線を張りました。

言われないと伏線だと思われないようにしたつもりではありますが、どうでしょう?

伏線と言っても張っても張らなくても済む部分で、大した事ははありませんが・・・。


 それは、二人がいい加減質問攻めに辟易して、精神的にぐったりし始めた時に告げられた。


「ユウ!レイ!村が見えたぞ!」

 野営した場所から歩き始めて数時間・・・。

 太陽が中天を過ぎてしばらく、坂を登り切った所でルナが後続のユウとレイに告げる。

「元気だな、姫さんは・・・・」

「・・・・腹減った」

少々げんなりした顔で、ユウとレイは独り言のようにポツリと言葉を漏らす。

 朝から歩き通しで数時間、二人(+ルナ)は魔法で出した水しか口にしていない。

太陽が中天に差し掛かり始めた頃、昼ご飯にしたいというレイの提案は、『もうすぐ村に着くから、そのまま歩いて行った方がいい(注:安全面の事も配慮してます)』というルナの言葉で却下され、そのまま歩く事になった。

一応、携帯食(お菓子)が少しマイバッグの中に入ってはいたが、ルナを送り届けてからの後、二人で放浪する羽目になる可能性も考えて、今は食べないで我慢という結論になった。


『二人が住んでいた場所は、何処か?』から始まって、『その奇妙な服(学生服)は何?生地が毛織物(けおりもの)っぽいが、素材は何?裁縫が凄く綺麗だが、どうやったら二着とも全く同じに縫えるのか?』とか『下に着ているシャツ(制服のYシャツ)は、どうしてそんなに白くできているのか?』とか『履いている靴は見た事ない素材と布の組み合わせだが、素材は?靴底部分の知らない素材は何?製法が分かれば我が領地でも作れるものなのか?』とか『魔術とは、本当に習得すれば使えるようになるのか?ユウの方で教えられるか?使うと、どんな感じがする?他に、どんな魔法が使える?』とか『昨日今日で見せて貰った紙コップなどの紙製品は、どうやって作る?』とか、その他諸々の質問攻めに遭って、道中ずっとこの調子ではかなわないなと思ったのも我慢するという結論の一因となっている(また、余計な事を聞かれるから)。


 道中延々と続く質問攻めに呆れ半分、質問しっ放し歩きっ放しにもかかわらず全く疲れを感じさせないルナに体力的な意味で感心半分といった感じで見る二人に、ルナは柔やかな笑顔で村を指差す。

「もうすぐ村じゃ。村の入り口から少し歩けば、村長の家まで辿り着ける。もう一踏ん張りじゃから、頑張るが良い」

「あの~、お嬢?」

「何じゃ?」

「この辺りの地域って、一日三食の習慣はないの?」

「前はそうじゃったんだかのぅ・・・・今は食料の減りを少しでも抑える為に、一日二食になっておる。今後、豊作になればまた、戻るとは思うのじゃが」

「ホントに、カツカツの状況なんだ・・・・」

「とは言え、そんな中でも軍事は手を抜けないから、三食のままじゃがの」

「そうなの?」

「こと軍事に関しては、食料の削減は士気に大きく関わるからのぅ。騎士団にせよ歩兵団にせよ、何とか維持はしておる。父上は、頭を抱えていたがな・・・・」

「まぁ、そりゃそうだろな。士気が低くても役に立つ軍隊ってのは、寡聞(かぶん)にして知らない。なぁ、レイ?」

「兵を飢えさせないのは、戦略の基本中の基本だ」

「まぁ、そういう事じゃ。じゃから、少しでも早く食料問題解決の策があれば、すぐにでも着手したいのじゃ」

「いや、姫、そういう問題は、一朝一夕で解決できる事なんて、稀有だぞ」

「むぅぅ・・・・ユウの言う通りなのじゃが、それでも早急に何とかしたいと思うておる」

「レイ、次善のヤツでもいいから、何かない?」

「ない袖は振れねぇよ。空気や霞から食べ物を作り出せるってんなら話は別だけど・・・・」

「む~~~~・・・・何か、良い知恵はないものだろうか?」

 そんな会話をしながらてくてく歩いて村に辿り着いた三人に、程なく声がかかる。


「姫様!ルナ姫様ではございませんか!」

 声をかけてきたのは、純朴そうな顔立ちをした中肉中背の農夫だった。

少し日焼けした農夫は目を丸くしてルナを見た後、後ろに立つユウとレイを若干訝しげな目で見る。

「うむ、戻ってきたぞ。後ろにいるのは、獣の討伐とは別に襲撃に遭っての。その時に私を助けた恩人じゃ。失礼のなきよう、頼むぞ」

「は、はい!」

農夫の視線から意図を察したルナが、そう言って農夫が抱いたであろう疑念を解消してやる。

「それと済まぬが、村長は今、ご在宅か?」

「は、はいぃ!村長は今、子供達を集めて、字とかを教えてる時間のはずです。あ、それじゃ今から一っ走りして、姫様の事を村長にお伝えして「いや、構わぬ」」

農夫の言葉を遮って、ルナは農夫を引き留める。

「お主の心遣いは嬉しいが、お主本来の仕事を中断してまで余計な仕事をして貰う必要はない。それよりも畑仕事に精を出して、少しでも収穫を増やし、皆の腹を満たしてやってくれ。私も、去年お主の奥方が献上してくれた美味しい黒パンを楽しみにしている故にな。材料の麦は、確かお主が作っておったはずじゃろ?」

「は、はいぃぃ!覚えて頂いて、光栄です!頑張って畑仕事に精を出してきます!」

 言うが早いか、農夫は凄い勢いで自分の畑に向かい走って行った。


「・・・・お嬢」

「何じゃ?」

「ひょっとしてお嬢は、『人(たら)し』の才能があるのか?」

「人聞きの悪い事を言いよる。そんな訳なかろう。去年の収穫祭に招待を受けた折、あの者の奥方ができたてのホカホカを差し出してくれたのじゃ。じゃから、良く覚えていただけじゃ。普段は、さほど温かい料理が出てこない故にな」

「まぁ、何でもいいや。お嬢は、その才覚は、無くさないようにしとけよ。お嬢の人生で、その才覚は貴重だ」

「言われんでもそのつもりじゃが、そんなに貴重なのか?」

「事細かに説明するとえらく長くなるから割愛するけど、貴重だ。俺の言う事は気にせず、そのままのお嬢でいてチョ」

「何かよく分からぬが、分かった事にしておく」

「それでいい。結局は国にしろ、領地にしろ、街にしろ、重要なのは『人』だって事さえ忘れなければ、それでいい」

「レイ、お前、深くて良い事言ったように見えるが、適当に言っただけろ?」

「バレたか☆」

「なっ!・・・・内心、ちょっとでも感銘を受けた私の心はどうしてくれるのじゃ!」

「まぁ。細かい事は気にするな。ただ、適当に言ってはいるが、内容は頭の片隅にでも置いといてくれ。なるほどと思う時が、たまにあったりするから」

「・・・・・・何か、いろいろ台無しな気もするが、心に留め置く事はしておこう」

「ヘイヘイ☆」

「・・・・ところでユウ、畑をずっと凝視しておるが、何ぞ気になる事でもあるのか?」

「いや、気になる程の事でもないんだけど・・・・姫、何も植えられてないけど、休耕地っぽくない耕された畑が所々にあるんだけど、何?」

「?・・・・何じゃろうのぅ?気にしていなかったから、分からぬ。どうしても気になるようなら、後で村長辺りにでも聞いてみるがよい」

「ん~、そうだな。聞くのを忘れてなかったら、聞いてみるよ。それともう一つ聞きたい事があるんだけど、いいかな?」

「何じゃ?」

「姫の言う村だけど、見たところ『村』と言うよりは『村落』とか『集落』と言った方がいい位の小ささなんだけど」

「仕方あるまい。入植が始まって、まだ十年は経っておらぬからの。ここ数年ゴタゴタしておって、追加の入植者が増えておらぬのじゃ。それでも始めに入植した十戸から、今は二十戸近くまで増えたのじゃぞ」

「わ~、(すげ)えやお嬢~、倍近くに増えたんだ~~~」(←棒読み)

「レイ、何故に棒読みなのじゃ?ユウ、私は何処かおかしな事を言ったか?」

「まぁ、レイのリアクションも分からないでもない。村と言ったら、普通、限界集落でもない限り人口数百人から数千人規模の集落を想像するからな。生まれたばかりの赤ん坊を入れても百人に満たないような集落を村というのに、肩すかしを食らった気になるのもむべなるかなという感じだ」

「限界?むべ?まぁ、よい・・・・将来、きっともっと大きくなるはずじゃから、今のうちから村を名乗っておっても良いであろう?」

「将来込みの名称かよ、姫・・・・だけど、そうすると、たかが百人弱の村の陳情を受けて害獣退治ってのは、割に合わなくないか?」

「領民の多少で、陳情の可否を決める訳ではないのだぞ・・・・だが、まぁ・・・・少々下衆(げす)い話にはなるが、こういう小さな村落でも我が領民であれば、できる限りの支援は受けられるという評判になる事実もある。入植者を増やそうとすると、こういう評判で結構人が集まってくるから、馬鹿にできぬのじゃ」

「へぇ~・・・・お嬢、世間知らずかと思ったけど、それなりに世故(せこ)()けてるじゃん」

「主に父にじゃが、いろいろあったからのぅ・・・・おかげで外では、多少猫を被らねばならぬ。時々、気疲れはする」

「そうか・・・・姫、そういう話は、表だっては口にしない方がいいぞ。人を束ねる場合、多少に関わらず清濁併せのむ必要はあるが、それを表だって言うのは良い結果を招かない」

「ユウの言う通りじゃの。お主らは少々気安いから、余計な事を言ってしまったようじゃ。済まぬが、他言無用で願うぞ」

「「(りょう)~か~い☆」」

 そんなこんなな会話をしながら、三人は村長のいる場所へと足を進めていった。


「ほれ、他の家より二回り程大きいあの家が、村長の家だ」

 村の中央にある広場を過ぎ、何回か曲がり角を曲がったルナは、目の前に現れた家を指してユウとレイに告げる。

「ほぅ・・・・レイ、見ろよ。これは、人によっては郷愁を誘うような・・・・」

「よく言えば風景に溶け込んでいる、農家を少し大きくしただけのような、典型的な農家の住居だな。実に、味わい深い・・・・ユウも、こういうのにグッとくるよな?」

「まぁ、割と・・・・結構、良い佇まいじゃん、典型的な田舎仕込み風で。良いなぁ、シンプルで・・・・俺は好きだな。こういう家は」

「まぁ、俺も嫌いじゃないけどね。落ち着いた雰囲気があるし」

「二人とも、何訳の分からぬ事を言って、家を評論しておるのじゃ?地味なのは認めるが、住む分には何ら支障のない住居じゃぞ?何か不満か?」

「いやお嬢、この場合は、住環境の話はしてないって。日常のそこはかとない些事(さじ)に、『侘び』や『寂び』と感じ取っているだけだ」

「ワビ?サビ?何じゃ、それは?・・・・まぁとにかく、村長に挨拶をして、まずは腹を満たす事にしようぞ。お主達も、お腹が空いておろう?」

「「勿論!」」((ぐぅぅ~~・・・・←腹の音))

ユウとレイのお腹が、返答と同時に鳴り、空腹を告げる。

「声を揃えて言う程に(お腹が)減っておるのは分かった。ならば、早いところ村長に挨拶をせねばならぬな」

 ルナはそう言うと、村長の家に向けて今までよりも心持ち早く歩き始めた。


 村長の家・・・。

 それは、ごくごく普通の農家の住居だった。

他の農家の住居と違い二回り程大きな家で、庭があり、その庭を囲むように木の柵が立てられていた。

庭も村長宅らしく、他の住居より広い。三、四十人位なら楽にバーベキューパーティーが開ける位だ。

しかも村長宅に向かって左側の庭の隅には、牛小屋らしきバラックのような建物が備えられ、牛が二頭程のんびりと草を()んでいる。

その横には農機具や雑多物が置かれている物置らしき納屋が三つあり、そのうち二つは妙に新しい。見た目通りなら、最近建てられたばかりのようだ。

更に向かって右側には物干し台があり、その奥で子供達らしき人影が数人固まっている。

 他にどうという特徴のない、ごくごく普通の農家の風景だった。


「・・・・済まぬが、村長はおるか?」

 子供達のいる方へ、ルナは声をかける。

その声に気付いた子供達が一斉に振り返り、ルナの顔を確認すると同時に程度の大小はあれ、(みな)相好(そうごう)を崩す。

「姫様だぁ!」

子供の中で年長と思しき背の高い女の子に抱えられた、妹らしき小さな子が真っ先に声を上げてルナを指差す。

それを合図にしたかのように子供達は立ち上がり、一斉にルナの周りを取り囲む。

「姫様、おかえり!」「姫様、何処も怪我ない?」「姫様、オオカミ達をやっつけてくれたぁ?」「姫様、帰ってくるの、ずっと待ってたよ!」「姫様!」「ルナ様!」「姫様っ」ETC.(エトセトラ)ETC.(エトセトラ)・・・

子供達に取り囲まれて、一斉に声をかけられるルナ。

声をかけられているルナは、柔やかな微笑(ほほえ)みを浮かべ、子供達の声に丁寧に返答している。


 その様子を一歩下がった位置で見ていたユウとレイは、お互いをチラ見した後、レイの方から言葉を発する。

「お嬢、エラい慕われてるなぁ・・・・」

「そうだな。いい傾向じゃないか。下手に高飛車に振る舞って嫌われているより、幾万倍もマシだな」

「同感。やっぱお嬢、人誑(ひとたら)しやん」

「そうだな」

 ユウとレイがそんな会話をしていると、体つきのガッチリした初老の男がルナに近付いてきた。


「姫様、お帰りをお待ち致しておりました。昨日はお帰りになられなかったので心配しておりましたが、無事にお戻りになられて安心しました」

「村長か。今、戻った。心配かけたようじゃの」

「いえ、無事であれば幸いです・・・・ところで、お付きの方々は如何なされましたか?姿をお見受けしませんが?」

「うむ・・・・その事じゃが、害獣駆除で移動中に正体不明の者達に襲撃を受けての。皆、私の為に討ち死にしてしまった」

「何と!誠ですか?」

「済まん。急な襲撃で、ほとんど反撃もできなんだ・・・・皆、私を庇ったばかりに・・・・」

スパーン!

ルナの言葉に周りの空気が急激に重くなり始めた時、ルナの頭に鎖鎌型の投げハリセンが頭を打ち、小気味のいい音を響かせる。

 ルナが後ろを振り向くと、ユウがハリセンをしまい込む所だった。

無論、何処にしまったかは、ヒ・ミ・ツ☆だ。

 そしてユウの横にいたレイが、間髪入れずにルナに話しかける。

「お嬢、今は冥福を祈って落ち込む場合じゃないよ。今は可及的速やかに、事後の報告をするのが先決だろ?まずは腹ごしらえしてから城に戻って、報告してから葬儀する時まで、悲しんじゃダメだって。周りに影響する」

「・・・・・・レイは厳しいのぅ。じゃが、言う通りじゃな。今は、落ち込む時ではないな・・・・音の割に痛くなかったが、お主達のハリセン?と忠言は心に留めておこう」

「いや、姫、一定期間過ぎたら、サラッと流して欲しいんだけど」

「お嬢、何年も心に留められては、恨まれてるようにしか見えないから・・・・」

「そうか?・・・・まぁ、良い。それで、村長に・・・・」

と、言いながら改めて村長の方に向き直ったルナの視界に、『姫様に何て事するんだぁ!』と怒鳴ろうと拳を上げつつ口を開いたところでルナの許す旨の言葉が出てしまい、口を開けたまま上げかけた拳をどうしようかと思い悩んでいる村長の顔があった。


「村長、どうしたのじゃ?」

「・・・・・・いえ、姫様に無礼を働いた輩に抗議しようとしたところで、姫様がお許しになったので・・・・よろしいのですか?」

「うむ。この者達はぞんざいな態度ではあるが、言うておる事は理にかなっておる。故に村長も、多少の事で目くじらを立てないでくれるとありがたい」

「はぁ、まぁ・・・・姫様が、そう(おっしゃ)るなら」

「うむ。村長の心遣いは、嬉しく思う。以降も、よしなに頼まれてくれ」

「ははっ!・・・・では、早速台所にいる女達に申し付けて、姫様達の分のおやつを追加で作らせてきます。それとおやつを食されるまでに、今晩泊まられる部屋を整えておきます」

「うむ。手数をかけるな」

「いえいえ。それまで、どうかゆるりとお待ち下さい」

 そう言って村長は、自宅へと入っていった。


「ねぇ、姫様ぁ~」

 村長が自宅に入ってすぐ、小さい子供がルナに声をかけたのをきっかけに、子供達が再度ルナの周りに集まってくる。

「姫様、今度はいつまで居られるの?」

「姫様!私、自分の名前が書けるようになったの!」

「姫様!僕も、文字が書けるようになったぁ!」

「私は、ようやく数字が覚えられました!」

「姫様!」「姫様ぁ・・・・」

 子供達は口々にルナに話しかけ、ルナは多少困惑しながらも丁寧に受け答えしていく。


 それを何となくポケッと見ていたユウとレイの(そば)に、気の強そうな男の子が一人、何か言いた気に近付いてきた。

(あん)ちゃん達さぁ、姫様にあんまり失礼な事、すんなよなぁ。姫様、優しいから怒らないけど、凄い失礼だぞ。もう二度と、失礼な物言いすんなよ」

子供なりに凄んでは来ているものの、決定的に迫力が欠けている。

簡単に言ってしまうとユウとレイにとっては、子供の可愛い()れ言程度の言葉だと言う事だ。

 僅かばかりの時間であるが、少し視線を上に向けて考えたレイが視線を子供の目線に合わせると、おもむろに口を開く。

「・・・・『人を見て法を説け』という言葉がある。分かるか?」

「何だよ、突然・・・・ごまかそうとしても、無駄だかんな」

「話す相手の事を力量を見て、それに合わせた話し方、教え方をしないと、宗教上の教えにしろ伝えたい事にしろ伝わらないぞって意味の言葉だ」

「そ、それがどうした!」

「つまりだ・・・・坊主の物言いじゃ、伝えたい事が伝わんないぞって事だ。世紀末の救世主伝説に出てくるヤツの台詞風に言うと、『あ~~~?聞こえんなぁ!』って事だ」

スパ~~ンッ!(←レイの頭に、ハリセンが炸裂した音)

「痛でっ!何すんだよ、ユウ?」

「あのなぁ、子供相手にムキになって、口答えしてるんじゃないよ。泰山流拳法使う刑務所所長の台詞なんざぁ、ココでは俺にしか分かんないぞ」

「まぁ、細かい事は気にするな。純粋まっすぐな少年の気持ちをまともに受け止める事に抵抗があるんでな。適当にごまかさせて貰った」

「やっぱり、テキトーぶっこいてたんかよ」

「んじゃユウ、純粋まっすぐ君の言葉を真摯(しんし)に受け止めて、真面目に対応できるか?」

「んなの、無理に決まってるだろ。そんなまともで高潔な精神なんざ、持ち合わせちゃいないよ」

「だろ?だから、テキトーに対応しただけだ」

「・・・・お前達、僕を馬鹿にしてるのか、自分をけなしているのか、どっちなんだ?」

「少年は、いちいちそんな事を気にしなくていいぞ。ところであそこにある、あの庭石(にわいし)みたいなデッカい石に書かれている文字っぽいのは、何だ?」

「話、逸らすなよ・・・・それと、僕は『少年』じゃない。ペーターって名前があるんだ」

「んじゃペーター、あれは何?」

「・・・・あそこの大きな石に村長が文字を書いて、僕達がそれを覚えて文字を覚えていくんだよ!」

「ふ~ん・・・・教育熱心な村長さんだな。ちなみに、週で何回位、こういう事をやっているんだ?」

「今は農閑期(のうかんき)だから、週に一回から三回位、普段は週に一、二回で、収穫期は子供も駆り出されるから、習う暇ないよ」

「なるほど・・・・あと、教えて貰ってるのは、文字だけ?」

「村長が『将来役に立つから』って、数字と簡単な計算も教えてくれてる。僕もやっと、簡単なかけ算位ならできるようになった」

「それは、凄いな。ペーターも凄いし、そこまで考えている村長さんも偉いな・・・・おい、ユウ、石の文字が分かるか?」

「・・・・済まんが、分からん」

 何度も書いては消したような跡があるその石には、薄い白色でこう書かれていた。


『Gaudie, iztan liezakect poitace.』


「・・・・ペーター、コレ何て書いてあんの?」

「兄ちゃん達、文字読めないの?・・・・『今日は、いい天気ですね。』って書いてあんだよ」

「そうか・・・・ユウ、どう思う?」

「ん~~・・・・バ語っぽいけど、()語っぽい要素もあるし・・・・文体的には()語のような・・・・翻訳魔法が機能してるから、最初に姫に会った時に想定した言語で『当たらずとも遠からず』って所だろうけど、何語なんだろ、これ?」

「ユウでも分かんないか・・・・お嬢!ちょっと聞きたい事あるんだけど、いいかな!」

 ユウはルナに聞こえるように、少し大きめの声でルナに呼びかける。

「?・・・・どうしたのじゃ?」

レイの呼びかけの答えて、ルナがレイ達の近くにやって来る。

「レイ達の方から聞きたい事があるなどと、珍しい事もあるものじゃ。で、聞きたい事とは、何じゃ?」

「お嬢、この辺りの言語って、何語になるんだ?使ってる文字は表意文字で種類はアルファベットってのは分かるんだけど、単語の文字配列とか文法の法則性が今一つ分かんない。似たような言語は幾つかあるけど、俺とユウが知ってる言語でそっくり該当する言語が思い当たらない。な()で、何語なのか教えてくれると助かる」

「ん?何語も何も、お主達はちゃんと喋って・・・・そうか、翻訳魔法とかいう魔法を使っておるのじゃったな」

「そういう事」

「ならば教えておこう。バラギ語じゃ」

「え?」

「バラギ語」

「・・・・い?」

「バラギ語じゃ」

「い?」

「バラギ語じゃと言うておる」

「い?」

「バラギ語と言うておろうに」

「い?」

スパ~~~ン!

 いきなりユウが、レイの頭をハリセンで叩く。

「痛っ!痛いじゃないか、ユウ」

「やかましい!真面目に質問してるかと思えば、ココじゃ俺にしか通じないようなネタでボケるなよ」

「良く気付いてくれた☆このまま気付かれなかったら、どうしようかと一瞬思ったんだけど、気付いてくれて嬉しいわ」

「中年のおっさんの駄洒落レベルのボケをするんじゃない!さすがに気付くのに時間がかかったわ」

「ユウ、レイ、何がネタだったのだ?」

「あぁ、姫さん、済まん。気にしないでくれ。真面目に答えてくれてたのに、レイが俺でもくだらないと思うレベルの低さでボケるとは思わなかった」

「どういう事じゃ?意味が分かりかねるが?」

「気にしないでくれ、姫。姫が答えてくれた『バラギ語』と、俺達が住んでた地域の近所に『イバラギ県』という地名があって、それとかけただけだから」

「・・・・・・・・おぉ!だから、聞き返す時に『い?』と聞いていた訳か」

「あ、あの~、お嬢、ギャグの解説を聞いてから改めて感心されても、居心地悪いんだけど」

「だったらレイ、初めっから分かり辛いボケをかますな」

「だって、ボケたいお年頃だから☆」

「だから!男が小首(かし)げて上目遣いに台詞吐いても、全然可愛くねえから!」

「やっぱユウは、いいツッコミしてくれるなぁ☆」

(まれ)に、今みたいにツッコむのも疲れる時があるから、TPOを(わきま)えてボケてくれ」

「あ~~~・・・・前向きに検討し、鋭意努力致します」

「どっかの政治家みたいな返答は、しなくていいっての!」

びしっ!(←ユウが、レイにツッコミの手を入れる)

「・・・・いつの間にか、私は置いてけぼりじゃの」

「あぁ!ごめん、お嬢。取り敢えずバラギ語って聞いた事ないなぁ。ユウは、聞き覚えあるか?」

「ない。少なくとも、俺の知ってる範囲内の知識にはない」

「だよなぁ・・・・」

「そうか?少なくともこの近隣では、皆この言葉を使っているぞ?」

「お嬢、近隣って、どれ位の範囲よ?」

「向こう三軒両隣の領地と叔父が治める飛び地の領地では、ちゃんと通じているぞ?」

「何、その微妙な範囲は・・・・」(←半分呆れ)

「まぁ、方言みたいなモンか・・・・そう考えれば、昔、欧州や亜細亜圏で淘汰されていった言語の一つと考えれば知らなくても不思議では・・・・でも、ちょっと待てよ。確かに言語学の歴史的観点から言えば・・・・・・」

「ハイそこ!ブツブツ言って、自分の世界に入り込まない!」

「けどなぁレイ、考え方によっては未発見の貴重な言語サンプルを体験できてる訳で・・・・」

「ストップ!このままだとユウの思考が暴走しそうだから、ここで止めとけ。今は学生らしい思考をするよりも、優先すべき事があるだろ?」

「ん?・・・・あぁ、そうだな。考察する時間は、これから見繕えばある程度は確保できるか。まず優先すべきは、姫を「腹ごしらえで(ファイナル)(アンサー)っしょ!」」

ユウの言葉を遮るカタチで、レイが、大きめの声で自信満々に言い放つ。

「・・・・いやレイ、確かにそうだが、一番の優先は姫を無事に送り届ける事だろうに」

「そうだっけ?」

「レイの中では、私の扱いは軽いようじゃの」

「いやお嬢、そんな事ないぞ。今後の生活基盤となる仕事の口利きをしてくれる人を、そんな軽い扱いをするはずがないじゃないか☆」

「レイ、今の台詞をもう一度、私の目を見て言ってみよ」

「・・・・ゴハン、マダカナァ~~~」(←棒読み)

「棒読みの言葉で、ごまかすでないぞ」


そんな会話をしていると、村長宅の扉が開き、村長と比較的大きな鍋を運ぶ婦人が二人程外に出てきた。

更に続いて、長テーブルとイスを持った婦人が数人続いて出てくる。

「姫様ぁ!取り敢えず皆の分のおやつができるまで、このスープでお腹を少しでも満たして下さい」

 村長がルナに話しかけてる傍らで、テーブルやイスがテキパキとセッティングされていく。

「・・・・姫様、どうぞこちらへ」

 セッティングが終わると一番年嵩(としかさ)の婦人が、ルナを長テーブルの短辺に置いたイス・・・いわゆるお誕生日席、または上座・・・へと招く。

「うむ・・・・村長夫人、忙しいところを済まぬな」

(ねぎら)いの言葉をかけつつ、ルナは促された席へ着席する。

「・・・・さて、ユウとレイ、お主達も私の隣について一緒に食べるとしようぞ」

「姫様!それは・・・・」

 ルナの言葉に、思わず村長が声を上げる。

「良い。私の恩人達だ。一緒に食事を取っても、問題あるまい。それに、昨晩と今朝(けさ)方、この者達の持つ貴重な(●●●)食料を分けて貰ったのでな。お礼の一部として、村長夫人を始め婦人方が作ってくれた食事の美味しさであれば釣り合いも取れようし、この者達も存外の喜びとなろう」

 食料について、手持ちの量が多い訳ではないものの特に貴重という訳ではなかったのだが、ユウとレイは空気を読んで無言で流す。

「はっ、ありがたきお言葉!」(←村長)

「・・・・申し訳ありません。空腹であろうと思いまして時間優先で作った即席の料理(ゆえ)、粗末なものとなっておりますが・・・・」(←村長夫人)

「いや、朝から歩き通しで来たので、すぐに食べられるものの方がありがたい。村長夫人の心遣いは嬉しく思う」

「恐れ入ります」

 (うやうや)しげに頭を下げる村長夫人に軽く頷いたルナは、ユウとレイに手招きをする。

「ユウ、レイ、お主達も早く座って、食事を取るが良い。この村で出される食事は、何でも美味しいぞ」

「了解だ、姫」「はいはい・・・・」

同時に返事をしたユウとレイは、促されるままに二手に分かれてルナの両脇を挟むカタチで座る。

何故なら、イスをその位置にセッティングされたからだ。

「・・・・では、(うつわ)によそわせて頂きます」

 村長夫人の言葉を合図に、婦人達によって三人の目の前に木でできた大きめのお椀、同じく木製のカトラリー(今回はスプーンとフォークが一組)が並べられる。

その後、村長夫人は大鍋を持った二人と共にルナの右後ろ側から近寄り、大鍋の中のスープを、ルナ、ユウ、レイの順に器に入れていく。

「美味しそうじゃのぅ」

「ありがとうございます。取り敢えずすぐに食べられるよう、具材を細かく切ったスープになります」

「そうか・・・・」(←にっこり)

「いい匂いだな、レイ」

「そうだな。匂いからして、ソーセージか何かの腸詰め系の肉が入ってるみたいな・・・・」

「良くお分かりで。豚のボロニアソーセージを使っています」

「なるほど。それや具材を細かくする事で、短時間にスープの旨味を引き出すと・・・・」

「ウマミ?・・・・と言うのがよく分かりませんが、味が良くなると言う事でしたら、そうです。自分の母親から、そのように教わりました。何でも、戦の時の炊き出しや祭りの時の男衆への差し入れなど、調理時間が少なくて量が必要な時に重宝してます」

「なるほど。経験則に基づく、立派なノウハウですね。このスープの味に、期待が持てそうです」

「さすがレイ、食べ物に関しては細かい男なだけはあるな」

「いや、ユウ、誤解を招くような言い方は止めとけ。俺は、食い物に関して細かい訳じゃない。食べる(●●●)事に関して、ジワッと熱量が多いだけだ」

「似たようなモンじゃん」

「違うって。俺は、美味しく食べる事にのみ興味が強いだけで、他は結構どうでもいいんだけど」

「・・・・そういうもんかなぁ?」

「そういうもんだ」

「それよりユウとレイ、お喋りはそこまでにして、そろそろ食べぬか?お腹も空いておるし、スープが冷めてしまったら、せっかくできたてを出してくれた者達に申し訳ない」

「・・・・姫の言う通りだな」

「そうだな。お嬢の言う通りだ」

 居ずまいを正して、三人は食事と向き合う。


「では、頂くとしようかの・・・・今日の御飯が食べられる事を神に感謝して」

「「いただきます」」

 ルナのかけ声で、食事を始める三人。

ルナはあくまでもある程度ゆっくりしたペースでスプーンを運んでいるのに対し、ユウとレイはお腹の空いた若者らしく半ば掻き込むような動作でスプーンを動かしていく。

ペースはバラバラではあったが、三人の表情は美味しい食べ物を食べている時特有の表情をしているのだけは共通していた。


「・・・・では姫様、私達は作業が残っていますので失礼させて頂きます」

 三人の食がある程度進んだ所で、村長夫人はルナにそう言ってこの場から退出しようとする。

「?・・・・あぁ、そうか。そう言えば、台所で何かを作っている途中であったか。作業を中断させてしまって、済まぬの」

「いえ。では、失礼させて頂きます」

そう言って、村長夫人と婦人達は再び台所で得作業をすべく、村長の家に入っていった。

ちなみにスープの入った大鍋は、ルナ達が食事を取っているテーブルの上にデンと置いてあった。


「・・・・・・村長、少々良いだろうか?」

 少しの間スープを無言で食べていたルナは、何かを思い付いたように村長に話しかける。

「どうされました、姫様?」

「気になったのだが、婦人達は台所で作業をしていると思うが、何故にそれほどの量を作っておるのか?」

「言ってしまえば、食料消費節約のためです。中食のおやつを、村の皆がこの家で取って貰う事で消費を一元管理しています。朝と夜の食事はまだ管理してませんが、このままいくと二、三ヶ月後には全部の食事を一元管理して消費を抑えないと厳しいですな」

「う~む・・・・そればかりは天候と気温次第の、文字通り『神のみぞ知る』事じゃからのぅ。どうしようもない」

「はい。取り敢えず、以前教えて頂いた促成栽培で野菜を試験的に育てている分が、あと1ヶ月程で収穫できますので、そこまで食料が保てば一息つけるはずです。その頃には、冬眠から覚めた動物や渡っていた鳥が戻ってくるはずなので、猟で食糧は確保できる算段はできるのですが・・・・」

「つまり、あと一月(ひとつき)位しないと食料事情が覚束(おぼつか)ず、それまでの食糧供給の算段がついてないと?」

「はい。小麦は春に蒔く分を除くと一週間から十日分位の備蓄がある程度ですし、畑に植わっているものの収穫は早くとも二ヶ月近く後になります。また、秋から初冬にかけて収穫したキノコはとうに無くなってますし、小麦の代用食の蕎麦の実は村人全員を養うには備蓄量が決定的に足りません」

「ふ~~む・・・・とは言え、食料の支援に関しては私の所も備蓄が心許ない状況じゃから、安易に約束できぬ。しかし、何とかしてやりたい気持ちもある故、別のもので支援できないものはないか・・・・・・のう、ユウとレイ、お主達に何か・・・・妙・・・・案が・・・・」

 言いながらユウとレイに視線を向けたルナに、大鍋に入ったスープを平らげて満足げに『ごちそうさま』と呟くユウと、イスを後ろにずらしてお腹を擦っているレイの姿が目に入った。


「・・・・・・・・」

ルナは無言のまま、視線を下に落とす。

ほとんど食べてしまったスープと器、木の食器が目に入る。

再び、視線をあげる。

空になった大鍋と、にこやかに食事の余韻を堪能しているユウとレイ。

「・・・・・・った」

「ん?」

「どうした、お嬢?」

「・・・・スープを」

「?」

「スープがどうしたって、お嬢?」

「おかわりしたかった・・・・」

「・・・・あ!済まん、姫!」

「勘弁してくれ、お嬢。周りで物欲しそうに見てる子供達の視線に、耐えられなかった」

「・・・・何故、子供達のせいにするのじゃ?」

「だってなぁ、お嬢、飯食ってる時に近くで物欲しそうな目で見られてみろよ。いたたまれなくて、スープの味がしなくなってくる。だから、急いで食べ切った」

「むぅ・・・・気持ちは何となく分かるだけに、責め辛いのじゃが・・・・私の分まで残しておいて欲しかったのじゃ」

「う・・・・ごめんよ、姫」

「お詫び代わりと言っては何だが、おやつの時に何か一品、二品簡単なものを作るから。それで許して頂戴」

「レイ、お主が作るのか?」

「まぁ、素材はここのものを使わせて貰うし、簡単なものになるけどな」

「食料の備蓄は少ないから、そこそこの量で構わんぞ。それと・・・・」

「子供達の分も作ってくれって、言いたいのか?」

「うっ、うむ・・・・」

「今子供達のお母さん達が作っているおやつってのが、どういうものをどれくらい作ってくるかで決めるぞ。それでいいか?」

「まぁ、食材を無駄にせぬ観点から言えば、それが妥当よの」

「んじゃ、許可も出た事だし、下準備でも始めるか。ユウ、頼める?」

「ハイよ。取り敢えず、(かまど)とストーブ(注:暖房器具ではなく、調理器具の方。昔のオーブンみたいなやつです)とまな板は必要か?」

「あぁ。ストーブじゃなくて焼窯(やきがま)で頼めるか?んで、それぞれ三、一、一(注:個数です)あれば充分だろう。あと、シンクなんかもできる?」

「本格的になってきたな・・・・まぁ、いい。まな板は、このテーブルにおいて作業するって事でいいのか?」

「うん。竃は横一直線に並べる感じで、焼窯はその後ろに。ナイフとかは、後で村長さん()から何本か借りるか」

「あと、ボウルとか泡立て器とかは?」

「それもあれば、村長さん家から借りようよ」

「ユウとレイ、お主達、何の相談をしておるのじゃ?」

「調理器具の準備だ、お嬢。子供達の分も考えれば、竃は複数必要になると踏んだんだけど」

「台所を借りればいいものを、何故に外で作ろうとするのじゃ?」

「ついでだから作るトコ見せて、気に入った料理を自分達で作れるようにする為だ。そんな訳で村長さん、庭の一部を借りて料理の実演したいんだけど、いいかな?」

「・・・・・・まぁ、姫様がよろしいのであれば、私からは何も言う事はない」

「ありがとう。それじゃ、使わせて貰います。お嬢、食材によりけりだけど、俺の覚えてる簡単なやつから作るって事でいいか?」

「ほぅ、ユウとレイが居た所の料理か・・・・期待できそうじゃな」

「使える食材によりけりだ。あまり期待しすぎて、ハードルを上げられても困るから止めといて。それに、使える食材が決まってない以上、竃三つでも多いかも知れん」

「・・・・んじゃレイ、始めるぞ」

「よろしく☆」

 テーブルの近くにいた子供達に場所を移動させて適当な場所を空けたユウは、両手を軽く挙げて魔法を発動させる。


「クラフティングストーブ」

ユウが言葉を発すると地面がボコボコ盛り上がり始め、焼窯のカタチになっていく。

「凄ぇっ!」

 ペーターが、一際大きい声が響く。

「何だペーター、魔法を見た事ないのか?」

「当たり前じゃん、魔法なんて・・・・魔法?・・・・魔法・・・・うえぇぇぇ!」

ペーターにつられたかのように、子供達と村長がザザッと引く。

「魔法って言ったら、魔族だけが使える悪魔の技じゃん」

「違えよ!厳密には魔術だから、技術を習得すれば誰でも使えるから。現に(転生前は)魔法の使えなかった俺が使えるようになってんだから、間違いない」

「ほ、ホントかよ?兄ちゃん?」

「本当かどうかは知らぬが、魔族ではないユウとレイの両名が当たり前のように魔法を使えるのは事実じゃ。昨日から、私も結構目にしておるぞ」

ビビる子供達にフォローを入れようとしたのか、ルナが話に入ってきた。

「姫様、そうなんですか?」

「うむ。じゃから、不必要に警戒する事はない。それに昨日からの付き合いじゃが、あ奴らが性格的に人に害をなすとは思えぬ故、安心するが良い」

「ま、まぁ、姫様がそう言うなら・・・・」

子供達は、ルナの言う事なら信じるようだった。


「あ、(あん)ちゃん・・・・」

 恐る恐るといった感じで、ペーターがレイに近付きつつ話しかける。

「ん、何?」

振り返るでもなく、ユウの作業をじっと見ながらレイは答えた。

「魔法って・・・・誰でも使えるって本当か?」

「まぁ、体内に魔力を有している事と、コツと勘とテクニックと練習を継続できる気長さがあれば多分できると思う。俺も昔は、三十か四十まで女断ちして歳を重ねたDT(ドーテー)じゃないと魔法使いにはなれないと思ってたんだけどな。事実は違ってた」

「え?女?・・・・え?どう?え?」

「細かい事は気にするな。ただ、魔法より、ペーター達が習っている文字とか計算の方が将来有用だから、そっちを身に付けとけ」

「え~~~、そっちの方が面倒くさいじゃん。計算できたって、何かの役に立つとは思えないし」

「ふっ・・・・まだ生まれて十年も経ってないような子供だから、そう思うんだ。例えば将来、大きくなって彼女ができて、その彼女から『子供ができた』って言われた時、計算ができればその子供が本当に自分の子だ(ズパ~~~~~ン!)へぶっ!」

 レイの言葉を遮って、ユウが投げハリセンをレイに当てる。

「レイ!子供相手に、下ネタ使うなよ!しかも、生々しい方向の・・・・」

「イイやん。どうせ意味なんて大きくなるまで分からんだろうし、結構重要な・・・・」

ズパアアアアンッ!

ユウは跳躍するや、レイの頭めがけてフルスイングでハリセンを振るう。

「い、痛いってば、ユウ」

「やかましい!ちょっとは下ネタ控えるまで、黙っとけ!」

 一連の会話を訳が分からずに見ていたペーターは、今度はユウの方に話しかける。

「な~な~、兄ちゃん、こっちの兄ちゃん(←レイの事です)が言ってたのって、どういう意味?」

「え?そ、それは・・・・」

「な~な~、女断ちってなぁに?DTってどういう意味?」

「ユ~ウ~☆ごまかさないで、教えておくれよよ~☆」

ズパアァァンッ!

「レイ、どさくさに紛れて、お前が茶化した質問するな!」


「姫様、少しだけよろしいですか?」

「どうしたのじゃ、村長?」

 ユウとレイの行動を傍目で見つつ、村長がルナに近付いて小声で話しかける。

「姫様の言う事ですから信用はしておるのですが、果たしてあの二人は、姫様の言う通りに信用をおけるのでしょうか?」

「ふむ・・・・私の言葉だけでは、今一つ信用がおけないと?」

「いえ!決してそう言う訳では・・・・ただ何と言うか、礼儀知らずではないのですが・・・・気安すぎると言うか、軽いというか・・・・姫様は人が良すぎるから信じておられるかも知れませんが、どうも人に接する態度に疑念を抱かせる何かがあるようで・・・・」

「うん、村長の言いたい事はだいたい察せられる。私も、最初は判断がつきかねた。何せ、魔法を使うし、言葉も全然通じないし、奇妙な服を着ておるし、箸と言うそうだが細い木の棒で食事をするとか妙な風習を身に付けておるしの」

「姫様、さすがに言葉は通じておりますが?」

「いや、翻訳魔法という魔法を自分達にかけて、私達の言葉を話しているだけだ。だから時々、意味が分からない言葉を話すぞ」

「左様ですか」

「私も、始めは二人が魔族か、人攫いか、気を許したところで命を奪う暗殺者の類いではないかという疑念を持っていたが、話しているうちに違うと言う事が分かってきたのじゃ。まぁ、決定的だったのはレイの方じゃが、私を襲撃から救う際に統率者格の人を殺めての。ユウのアドバイスを聞くまで、晩の食事をほとんど取らず、夜中に嘔吐しておったわ」

「・・・・どういう事です?」

「つまり、例え敵対するものであっても同じ人間を殺める事に、嘔吐する程の忌避感を持つような人間じゃと言う事じゃ。そういう人間が、私を殺めたりする暗殺者のはずもあるまい。それに二人共、何も言わず、お金も請求せず当たり前のように晩と朝の食事を私に出してきよった。お人好しが過ぎるきらいもあるが、私に危害を加えないという点においては信用しても良かろうと判断した訳じゃ」

「なるほど。姫様の方で、既にある程度見極めておられるのですな。ならば、私の方からは何も言う事はありませぬ。姫様の言葉を信じて、あの者達と接する事にしましょう」

「うむ。よろしく頼むぞ」

 ルナと村長の視線の先には、、作業をするユウとレイ、そして興味深げに作業を見つつ興味に任せていろいろ質問を始める子供達の姿があった。




 そんなこんなで竃と焼窯ができた頃、村長の家からできた料理、食器、テーブルを持った婦人達がゾロゾロ出てきて、焼窯などに驚きつつもテーブルを配置し食器を並べ、料理を盛り付けていく。


「・・・・姫様、いつの間にこのような竃などが?」

作業が終わったところで、村長夫人がルナに近寄って質問してくる。

「村長夫人か・・・・勝手に作って申し訳ないと思うが、許せ。婦人達が作ってくれたスープが殊の外美味しかったらしく、あの二人が私の分も残さず食べてしまったのでな。追加で何か作ってくれと、私が要望した。ついでで申し訳ないが、何か食材を供出してくれるとありがたい」

ルナの言葉に、村長夫人は自分の夫の方にそっと視線を走らせる。

その視線に気付いた村長は、軽く息を吐いて肩をすくめ、僅かに頷く。

村長夫人はその動作だけで、全てルナが勝手なわがままでやらせた訳ではない事と、出せる範囲で食材を出しても良い事を察する。

「分かりました。今ある備蓄でご希望の食材があれば出させて頂きます」

「済まぬな。感謝するぞ」

 感謝の意を口にしたルナに、タイミング良くレイが呑気に声をかけてくる。

「お嬢~☆なんか食べたいものある~?」

「・・・・取り敢えず、レイに任せる。見繕って、持ってきて貰えぬか?」

「O~K~☆」

変わらず呑気な返答をすると、レイはおやつの食事が並べられているテーブルへと向かっていった。


「・・・・そういえば、村の男衆は来ないのか?おやつは村長の家で、皆で食べると聞いたと思ったのじゃが?」

「はい。その通りでございますが、男衆が来る前に子供達に先に食べさせてます。男衆と一緒だと、欲しいものを食べ損ねる子供も出てきますので」

「なるほど。そのような考えであったか・・・・」

ルナと村長夫人がそんな会話を交わしていると、両手に皿を持ったユウとレイが近付いてくる。

「お嬢~、お待ちどう。適当に持ってきたけど、取り敢えずこの位で良いかな?」

レイが差し出した皿には、少し大きめのフランクフルトソーセージ、ベーコンの薄切り、ローストビーフ、ソバの実を炊いたもの、スライスしたカンパーニュ(注:丸い堅焼きのフランスパン)、ザワークラウト(注:キャベツの千切りを乳酸発酵させた漬け物)、粒マスタード少々がバランス良く盛り付けられていた。もう一つの皿には、ブラウンソースから作ったと思われるシチューが入っていた。


「うむ、済まぬな・・・・しかし村長夫人、こういうのを毎日大量に作るとなると、大変じゃろ?」

「まぁ、正直言ってしまうと・・・・しかし、他の家の女達も交代で毎日手伝いに来てくれてますので、作業量は軽減されています。何より、主人の決めた方針ですから・・・・」

「苦労をかけて済まないとは思っているのですが、村長として村の者を飢えさせないようにするのも責務だと思ってますので・・・・」

「ふ~む・・・・なかなか良い妙案の出ない問題よの。取り敢えず、腹が減っては、良い考えも浮かばぬ。食べる事にしようぞ」

 ルナの発言に村長夫妻は頷き、ユウとレイは嬉々としてテーブルへと向かって行った。




「うむ・・・・村長夫人、なかなかの美味しさであった」

 ルナは満足気な声を上げながら、イスの背もたれに寄りかかる。目の前の二皿には残滓しか残っていないところに、ルナの言葉が世辞やおべっかでない、正直な感想であると知れる。

「ありがとうございます。喜んで頂けて、何よりです」

「うむ。特にシチューは見た目は普通だが、コク(ぶか)みのある味で美味しかった」

「はい。我が家秘伝の味付けです。気に入って頂けて、何よりです」

「しかし、おやつと言えば軽食程度の量を予想していたのじゃが、結構な量があるものじゃのぅ。嬉しい事ではあるが、以外だの」

「ええ、まぁ・・・・ザワークラウトや香草などはまだ多少の備蓄は残っているのですが、肝心の小麦や肉類の備蓄が心許(こころもと)ないので・・・・」

「なるほど。各家庭でそれぞれ軽食を作らせるには、該当する備蓄の食料が不足していると言う訳じゃな」

「はい」

「なるほどのう・・・・なかなかに頭の痛い問題じゃの。麦や肉の代わりになる食材がポンと用意できれば話は簡単なんじゃろうが、そんな都合の良いものが・・・・ところでユウとレイ、先ほどから微妙な顔をしておるが、食事のが口に合わなかったのか?」

「・・・・いや、姫、そう言う訳じゃないんだけど」

「味付けが俺達にとって少し塩辛い位で、味はなかなか旨い。塩辛いのは、農作業なんかの肉体労働者向けの味付けと考えれば納得いくし、シチューの中に、多分ローストビーフの余った肉汁を入れていたり、ザワークラウトが酸っぱすぎないように程よく水につけて酸味を柔らかくしたり、フランクフルトは肉の臭みを感じないよう、且つ香草の味が強く感じない絶妙な配分で混ぜられたりと、何気ない料理の影で細やかな工夫が感じられて、凄く好ましい」

「!我が家秘伝の味付けを、簡単に見破るなんて!どうして分かったんです?」

「・・・・まぁ、同じように秘伝として伝わってきた知識を、伝えていく人同様に広めたがる人もいるって事で・・・・こんだけ旨い料理が揃っているのに、今一つ足りない要素があるんでな。それが顔に出ていたのだったら、済まない。無い物ねだりは好ましくないのは、分かっているんだけど・・・・」

「どんな要素じゃ?」

「どんな要素って言われても・・・・なあ、ユウ?」

「言うだけ言ってみようよ、レイ。代替のものがあるかも知れないし・・・・簡単に言ってしまうと、ボリューム感と取り合わせの相性の要素です。腸詰めのソーセージ、ザワークラウト、シチュー、次点でベーコン辺りの食べ物に相性抜群のものがあるんだけど、それが無いって事だよ」

「ほぅ、ユウとレイは、それを知っていると言う事かの?」

「そうだよ、お嬢」

「教えてくれぬかのぅ?それは一体、どんなものじゃ?」

「興味あるん、お嬢?」

「無論じゃ。村長夫人も、そうであろう?」

「はい。是非、教えて頂きたいと思います」

「と、言う訳じゃから、早く教えるのじゃ」

「それはねぇ・・・・」

「「それは?」」

「ピルスナー式で醸造された、きんきんに冷えたビー(パアァアンッ!←ハリセンの音)痛いやん、ユウ!」

「違うだろ!確かに、エールとかビールのおつまみとして愛好している人は多いけど、今は違うだろ!」

「え~~、いいじゃん、少し位ボケても・・・・って、分かった分かった。ハリセン振り上げないでってば。ちゃんと言うから」

「最初から、そうしてくれ」

「へいへい・・・・で、話を戻して言うけど、ジャガイモだよ」

「じゃがいも?何じゃ、それは?村長夫人、聞いた事あるか?」

「いえ、聞いた事がありません」

「別称で、ジャガタラ芋とか馬鈴薯とかポテトとか呼ばれるやつだ」

「!ポテトか!」

「お嬢、いきなり身を乗り出さないで」

「ポテトならポテトと言ってくれれば良いのに・・・・そうか、ジャガイモとも言うのか」

「いきなり食いついてきたけど、どうした、お嬢?」

「どうしたも何も・・・・村長、ジャガイモは数ヶ月前、我が城から種芋を渡したはずじゃが、どうしたのじゃ?」

 ルナの質問に村長は表情を歪め、申し訳なさそうに言葉を口にする。

「確かに『年に何回か収穫できて、食糧事情の改善にもってこい』だと言われて、頂いてはおりますが・・・・」

「何か不具合があったのか?」

「・・・・はい。種芋から大量に収穫できて冬を越すのが楽になったと喜んでいたのですが、ポテトを食べた者の中から体調がおかしくなった者が連続して発生しまして・・・・」

「何?本当か?」

「はい。最初は何かの風邪か水あたりか虫刺されかと思ったのですが、共通している事がポテトを食べた後に頭痛や腹痛を起こしたり、嘔吐して寝込んだ者がでました。で、原因は何だと寄り合って会合していた時にポテトを食べていた者が数人、症状が出まして、ポテトの何かが原因と分かって、食べさせるのを中止させました。取り敢えず、栽培中だった畑からポテトを引き抜いて、今は空けてあります」

「あぁ!それじゃ、所々空いていた畑って、そう言う事だったの?」

 村長の話から、村に入る時に気になった事が分かって、思わず呟くようにユウは言葉を口にする。

「その通り。村中のポテトを回収して、今は我が家の倉庫に入れてます。もっとも、全部は入りきらなかったので、新しく倉庫を二つ突貫で建てて、ようやく全部回収し終わったのが四日前です」

「あの、妙に新しい倉庫が?」

「そうだ」

「はいは~い☆村長さん、幾つか質問あるんだけど、良かですか?」

 小首を傾げて会話を聞きながら考え事をしていたレイは、軽く手を上げて村長に声をかける。

「お嬢や村長さんが言うポテトって、白っぽい薄紫がかった花が咲いて、薄黄土色のごろごろ丸っこい芋の事かな?」

「知っているのか?その通りの代物だが・・・・」

「・・・・んじゃ、俺らが知っているジャガイモと同様だって前提で話するけど、取り扱いについて何か、口頭なり文書なりで注意点を聞いたりしなかった?」

「私が(じか)に取りに行った訳ではないから分からないが、受け取った者からは連作禁止などの栽培上の注意点を幾つか聞いた。他は・・・・」

 顔を少し上に向けて、村長は懸命に思い出そうと考え込む。

「・・・・食べる時の注意点は、何か聞いてます?」

「!・・・・そういえば、確か芽には毒があるから、切り取って食べるとかだったかな?」

「あなた、あと緑の皮と中まで黒くなった芋もですよ」

「あぁ、そうか。あとは、冷暗所に保存して日光には絶対当てないとかだったかな?」

「そうですよ」

「うん。ポテトを受け取りに行った者から聞いたのは、だいたいこんなもんだったと思う」

「なるほど・・・・村長夫人、申し訳ないけど、ココでジャガイモをむいて貰っていいですかね?少し芽が出てて、皮に緑色の部分があるヤツがいいな」

「?・・・・まぁ、よろしいですが、それが何の役に立つのでしょう?」

「ん~~~、本当に俺らの知っているジャガイモなのかって確認と、頭痛なり腹痛なりの原因究明って感じかな?」

「分かりました、では、キッチンナイフなどを取ってきます」

「夫人、ついでに漉し器みたいにそこが編み目になっている容器となるべくクセのない油、フライパン、塩、胡椒、調理用のヘラ、ベーコンの薄切り辺りを用意して貰っていいですかね?」

「・・・・・・いいですが、胡椒というのは?」

「あ~~・・・・ペッパーです。あるなら黒胡椒の方がいいです」

「ペッパーって・・・・だいぶ普及してきましたけど、まだまだ(値段的に)高い調味料ですよ。確かに、収穫祭用なんかのハレの日の為に少しばかり取り置いてはありますが」

「あ~・・・・じゃ、胡椒はキャンセルで。替わりにバター、ミルク、クリーム、チーズ、デミグラスソース、卵、パン粉、平らな鉄板、ヘット、ラード、そこが深い鍋と思いっ切り浅い鍋、中華鍋と菜箸、それから・・・・」

次々と口から要望を告げるレイに、村長夫人はレイの言葉を遮るように片手を前に出す。

「分かりました。一遍に言われても覚えられませんので、調理道具と調味料などを一揃え持ってきます」

「申し訳ないですが、よろしくお願いします・・・・で、村長さん、話は戻るけど、腹痛起こしたりした人ってのは、共通してジャガイモを食べていたんだね?」

「うむ。当日の食事が、()かしたポテトとか薄切りに焼いたポテトとかだったと聞いている」

「なるほど・・・・それじゃ、そのジャガイモを・・・・」

「適当な大きさのものを、倉庫から出してこよう。それでいいか?」

「お願い致します」

「ふむ。一応、感謝の礼儀はなっているな。持ってくるから、取り敢えず待ってろ」

そう言って村長は、ジャガイモがしまってある倉庫に足を向けて、ルナ達から離れて行った。

「・・・・で。だ。お嬢」

「何じゃ?」

「最終的な確認してみないと分からないけど、もし俺の予想通りだったら・・・・」

「・・・・だったら?」

「頭痛とか腹痛とか嘔吐の原因と予防法は、分かったと思う」

「ホントか?」

「それと、村長の言うように、あの倉庫に入っているのが全部ジャガイモだったら、食糧不足は一気に解決するぞ」

「ポテトがそのまま食料になると?」

「まぁ、そうだな。もし予想がドンピシャなら、後は飽きが来ないように料理のバリエーションを増やしてやるだけかな」

「おおお・・・・思わぬ所で、解決の糸口が見付かったのぅ」

「あれ?他の場所では、ジャガイモ作ってないの?」

「う・・・・うむ。ちと教会の方でな・・・・『悪魔の実』だから食べる事まかり成らぬと、教皇庁からお達しがあったそうで、今の現状を知っている我が城下の神父が困っておったわ」

「あ~~~~、何となく分かる。果物のようなものは木の上になるものだから、地面から出てくるなんてあり得ないとか何とかって理屈だったか・・・・」

「レイ、お主は何でそんな事を知っている?同じような事が、お達しの文書に書いてあったわ」

「俺とユウが居た所も昔、同じような経緯を辿ってジャガイモが長い間、表だって食べられない時期があった地域があってな・・・・話が長くなるから、これ以上はパス」

「そうか・・・・」

「そんじゃ、ジャガイモがポテトだったと仮定して、料理の準備するとしますか」

「レイ、嬉しそうじゃの?」

「当たり前だよ、お嬢。ジャガイモは良いぞ~~~~☆」

気楽そうに軽口を叩くレイは、会話の流れで調理まですると予想して、追加で竃やら何やらを魔法で作り始めているユウの方へ、ゆっくりと歩いて行った。


 おかしい・・・・この章で後半、料理ショーネタをやるつもりだったのに。まだ、料理にすらかかっていない。

資料集めとか手間取って、だいぶ時間かかりました。これまで知らなかったのですが、西洋って食習慣的に野菜(キノコも含む)とか香草や香辛料は食べるけど、山菜などを食べなかったんですねぇ。おやつのメニューで山菜を使ったものはマルッと使えなくなりました。それに伴い、山菜のおやきを食べながら、子供達にソロバンを教えるネタも使えなくなりました。他にクレソンとかは季節的に早すぎるので、今回は出番なしです。

そのうち山菜ネタとか自然薯ネタとかは、やるつもりです。


 そんな訳で、ユウとレイが飛ばされた時空間で使われている言語は、バラギ語という架空の言語です。前回より法則性を整えて表記してみましたが、どうでしょう?

 文法はギリシャ語をモデルにして、単語レベルでバスク語にラテン語の単語を適当にミックスするようなカタチにしてます。

この道化師モノは、初期段階ではバスク地方をモデルに構想していたので、藁束を持ち上げて落とす独特の祭りとかいろいろ設定を考えてました。

ただ構想していた当時、バスク語に関する書籍が全書籍の範囲でネット検索かけても三冊しかヒットせず、辞書的な書籍がなくて断念してます。

 現在の舞台設定はバスク地方ではなく、気候的に地中海性気候地帯に近い、海から少し離れた架空の場所に設定してます。

そのうち海辺の街に行く話もやる予定なので、気長にお付き合い下さい。


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