第二話の三
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ボチボチと、更新していきます。
ユウの走る先は緩やかな傾斜の坂となっていて、まだ声の主が見えてこなかった。
カキンとかガシャンとか小さく聞こえてくる音に嫌な予感を覚え、更に走る速度を速める。
坂の天辺まで走りきった時、そこから数m下、距離にして数百m先を走る道で繰り広げられる襲撃現場が、ユウの視界に入ってきた。
道の周りには、幾つもの爆発したようなえぐれた跡、血を流して動かない鎧を着た男達、カクカク動く人形みたいな等身大の何か、数体の人形を従えているらしき全身黒布を纏った男、そしてゆっくり迫る男から逃れようとじりじり後退る少女・・・。
少女の姿を見たユウが反射的に駆け出そうとした時、ユウの腕が誰かに捕まれた。
「誰だ!」
振り向くと、少し息を切らせたレイが居た。
「何故止める?」
「落ち着け!普通に走って行っても、向こうがこちらに気付いてから女の子一人殺すくらいの時間が十分にあるだろ。間に合わないよ」
「じゃぁ、どうすればいい?って、身体強化して行けばいいのか!」
「だから、ユウは遠距離用の魔法使えるだろ?」
「使えるけど、ここからじゃ有効射程距離圏外だ。無理だ!」
「そういう事でお悩みのある貴方、そんなユウの為に、これをプレゼントフォーユー」
「何これ?青い宝石?」
「ちょっとした事情で手に入れた、魔力増幅機能付きのアイテムだ。それはユウの分だから、なくさないようにな」
「分析・・・・って、おい!これ、めちゃくちゃレア度の高いアイテムだぞ!」
「え?そうなの?」
「そうなの?って、下手したら国宝級の純度の魔素で構成されたアイテムだよ。何処で手に入れたんだよ?」
「ヒ・ミ・ツ☆・・・・って、そんな恐い目で睨むなよ。体感時間で言うなら、さっきここに来る直前。『魔溜まり』から落ちている時かな」
「見え透いた嘘を・・・・っていう目じゃないな・・・・・・・・分かった。詳細は聞かない。でも、いいのか?こんなレア度の高いアイテムを?」
「心配するな。自分の分もある」
そう言って、レイは赤い宝石に見えるアイテムをユウに見せる。
「いや、そうじゃなくって・・・・まぁ、いいや。んじゃ早速、使わせて貰うぞ」
「ハイよ・・・・身体強化だけなら何とかユウに付いていけるから、他の魔法関係はよろしくメカDOック☆」
「こういう時に、しょうもないダジャレ言ってる場合か!・・・・まぁ、レイらしいっちゃ、レイらしいな」
「そんなに褒めなくてもいいぞ」
「いや、褒めてないから!・・・・まず、身体強化だな?」
「そうそう」
宝石を手にブツブツ呟くように身体強化の魔法をかけた二人は、共に薄い光のベールに一瞬だけ包まれる。身体強化の魔法がかかった証拠だった。
「・・・・あ、そうだ、忘れてた。ユウ、タオルかバンダナか何かで、顔隠しとけよ」
「何で?」
「万が一、俺たちの顔を覚えた誰か一人に逃げられた場合、最悪二四時間、一日中狙われる可能性がある」
「・・・・了解。移動中に対応する。んじゃ、行くよ」
「ハイよ」
そして二人は、坂を一気に駆け下りていった。
「きゃ~~~~~~~~!」
駆け出し始めた少女の足下の地面が爆裂した。
火薬などの爆発ではない。爆発に付き物の派手な轟音と全てを灼け尽くすような炎が発生してない。地面が自らを吹き飛ばすように爆ぜたのだ。
パアアァァァンッ!
音の大きさとしては、せいぜいパーティーで使うクラッカー低度のものだろう。だが威力はそこそこあったようで、砂塵が少女の腰まで噴き出し、勢いで少女を転倒させる。
ザシャアァァ!
前のめりに転倒した少女は急いで立ち上がろうとするが、目の前で威嚇の為の爆発が起き、走り出すきっかけを挫かれる。
手をついた状態で後ろを振り返ると、全身黒ずくめの男と、男が従えていると思しき傀儡がゆっくりと接近してきた。
「・・・・・・・・何者か!」
少女は恐怖の感情を必死で堪えつつ、じりじり後退りながら問いかける。
傀儡は、昔人間と争い封印された魔族が封印間際の時に、残り少ない兵員の戦力補充の為に配備された遠隔操作型の人型兵器だった。その機動力、戦闘力は、操る者の資質次第で人間に勝る力を発揮し、『後一ヶ月早く配備されていたら、人間側の敗北だったかも知れない』と言わしめるほどであったが、魔力を制御できる魔族が封印された事で、今では王族や貴族が戦果の証として屋敷の玄関や広間に置くだけの無用の長物と化したはずだった。
それが、とても『人間に勝る』とは思えないほどカクカクな動きをしているとはいえ、複数体同時に動いていた。
「姫様・・・・お命、頂戴します」
淡々とした低めの声が、黒ずくめの男から発せられる。
男は、少女が何者であるかを知ってて襲撃をかけたのだ。
少女は一瞬だけ、地面に伏した護衛の兵士達を見る。
その亡骸は、全く動く気配すらない。襲い来る傀儡達の攻撃から少女を守る為に、また黒ずくめの男から繰り出される『爆ぜる』魔法に当たって、残らず地に伏した。
乗っていた馬は、最初の一撃で全て頭部が爆ぜて、とうに息絶えている。
「貴様、魔族か?」
「ご想像にお任せします。恨みはございませんが・・・・」
少女のそばまで歩み寄った黒ずくめの男は、懐中に右手を入れ短剣を取り出すと、頭上に高々と振り上げる。
振り上げられた短剣は、少女の視線から見て陽光の角度でキラリと光る。
『一体、何故?』
言葉にすれば、少女の頭の中は、そんな疑問の言葉で一杯だった。
いきなり襲撃されて、理由も聞けないまま殺されそうになっている状態では致し方ないだろう。産まれてこの方一二年数ヶ月、これほど理不尽なまでに問答無用で殺されかけてる体験は、少女には初めてだった。
これが最初で最後の体験になりかかった時、パギュ~ン!と何かを弾く音が響き、黒ずくめの男から「がっ!」という呻きに近い叫びが漏れる。
そこで少女は、黒ずくめの男の手から短剣がなくなっているのに気付く。
黒ずくめの男は、乾いた音を立てて落ちた短剣の残骸を見やった後、少女の後ろの方角に視線を移す。
ボババァッ!
少女の後方から猛烈な勢いで火球が通過。
黒ずくめの男が従えていた、傀儡のうちの何体かに直撃して炎上させる。
カラカラと音を立てて崩れ落ちる傀儡。
傀儡というだけあって、シンプルなまでにディティールがない外観をした外骨格の中は、空っぽだった。
何が起きたか理解しかねている少女の横を、今度は風と共に何かが通り過ぎ、矢継ぎ早に火球を放って、更に数体の傀儡が炎上する。
「な!何だ?貴様、何もザシュッ!
間違いなく『何者だ?』と言いたかったであろう黒ずくめの男は、言い切る前に首と胴体が切り離された。
切り離したのは、今さっきの者とは別の、少女の後ろを横切ってきた何者かだった。
黒ずくめの男を断首したのは、目出し帽(ドラマなどで銀行強盗などが被っている、覆面レスラーみたいなアレ)ですっぽりと顔を覆った少年だった。
少女が何故、少年だと思ったかというと、単純に雰囲気から感じ取った勘だった。
その少年は、血が滴っている黒ずくめの男の首を驚愕の眼差しで見入っており、そこから微動だにしない。
訝しく思ったのか最初に少女を横切った、三角巾で頭部を、柄の付いた緑のバンダナで鼻と口の部分を隠した少年が、動かなくなった少年に声をかけて、そこから我に返ったかのように動き始めた少年が慌てたような身振りをしたり黒ずくめの男の首を逆さまにして前に出したりオロオロした動きをしたりと、もう一方の少年に困惑した眼を浮かべさせていた。
そして何事かを決めたように強い意志を目に宿らせた三角巾の少年が、少女の方に視線を向ける。
何かの言霊のような、呪文のような言葉を紡いで右手を胸の辺りの高さまで掲げると、突然少女の前にあった黒ずくめの男の胴体(首から下の全身)が激しい炎に包まれた。
ごうごうと燃えさかる黒ずくめの男の胴体を全く無視して、二人の少年の会話は続く。
何回目かのやりとりでようやくオロオロした動きをしていた目出し帽の少年は落ち着きを取り戻したのか、何かが吹っ切れたような目をして、手にした黒ずくめの男の首をポイと放り捨てる。
そして二人の少年は、ゆっくりと少女の方に視線を向けると、少女に向かって歩み寄り始める。
少女は、混乱した。
恐らく自分を助けてくれたであろう事は、想像が付く。二人共揃いの奇妙な服を着て訳の分からない言葉を話し、こちらに向けている視線も敵意を孕んだものではない。
だがそれが、少女に危害を加えない根拠にはならないし、何より片方の少年が放った火球や人間離れした力(普通の人間に、人の首をあっさり断ち切るほどの強い力はない)。
それに、考えて欲しい。見も知らぬ、目の部分だけ出して他の部分の顔を隠した男子二人に迫られる少女の心情というものを・・・。
今見えている条件だけで考えれば、少女の頭の中は二人の少年の正体を、こう判断するしかなかった。
「お前達は、魔族か?」
それは、昔の時代人類と争い、人類が艱難辛苦をえてようやく封印した、人類の敵の名だった。
突然だが、話は1分少々過去に戻る。
身体強化をかけてバンダナやら目出し帽をつけながら走るユウとレイは、少女の前に立ちふさがった黒ずくめの男が手を頭上に掲げる動作が目に入った。
「ユウ!」
「ナイフかよ!」
黒ずくめの男の手には、短剣が握られていた。
後は男が手を振り下ろすだけで、少女の身体に短剣を突き立てる事ができるだろう。時間にして数秒はかからないと思われた。対してユウとレイは、高速で走っているとはいえ少女の居る場所まであと二〇〇mはゆうに離れている。
どんなに急いで走っても、間に合わない事が容易に想像できた。
「ユウ、魔法!」
「おう!空気弾!」
左手で右手首を掴んで少しでもブレが少なくなるよう固定し、右手を五本の指の向きが合うように揃え(丁度チョップするような手の形)、それぞれの指の先から魔法で固めた空気の弾を発射する。
普通であれば、子供がよく遊びで使うようなおもちゃの鉄砲並の、有効射程範囲数m、当たってもちょっと痛い程度の威力しかない遊び用の魔法だ。
何でも半世紀くらい昔、友達みんなが持っていたおもちゃの鉄砲すら買う余裕がなかった経済的にシンプルな(貧乏とも言う)家庭の子供が、当時流行っていたガンマンごっこの仲間に入れて貰いたくて独自に編み出した魔法が基になっていると言われる魔法だ。
基本、手を指鉄砲の形にして、人差し指から空気の弾を発射する。
一度は廃れかけるが、妖怪退治する高校生のマンガ(主人公の最後は、屋台のラーメン屋のおやじ)が流行ったのと、その数年後に来たエアギター、エア格闘、エアバンドなどの一連の『エア』ブームに乗って『エア』ガンブームが結構盛り上がり、魔法を使える人間、特に男子なら大体知ってる魔法だ。
ちなみにその時、『例え本物でなくても、子供が銃を振り回す真似をしたり、当たって失明やケガをする可能性がある、簡単に覚えられる魔法は教育上よくない』云々でP○Aなどの保護者団体が禁止にしようと国や自治体に働きかけた事があったが、どれだけ威力が上げられるか試した有志の科学者グループがおり、どんなに頑張っても輪ゴムを飛ばした程度の威力しか上がらず、余程の事がない限りゼロ距離で魔法を発動しても安全であるという証明がなされた為、遊びの範囲なら何も咎められなくなった魔法だったりする。
それはともかく、少しでも注意を逸らせればと、ユウはナイフを狙ってエアバレットを放つ。
距離的に当たったと思われる瞬間、ナイフが砕け散った。
「えっ?」
予想外なんてレベルじゃない威力に、思わず戸惑いの声を漏らすユウ。
「ブーストの効果で、エアバレットの威力が上がったんだろ」
「上がり過ぎだっての!頭とか狙わなくて良かったわ」
「ユウ!後ろの刃物持ってる鎧着たおっさん達!」
「火球!」
黒ずくめの男の後ろでカタカタと、手にした兼を振り上げかけた傀儡に向けて、ユウはファイアボールを放つ。
ユウ的には加減をしてピンポン球くらいの低温のファイアボールを放ったつもりだったが、放たれたのはバスケットボール大の見るからに高温だと分かる白炎色のファイアボールだった。
ボバァッ!という効果音が似合うほどに、傀儡が炎上。カラカラと崩れ落ちる。
「ユウ、あれ・・・・」
「あぁ、中身がない。ただのデュランダルもどきだったら、遠慮は要らないな!みんなまとめてやっつけよう!」
「了解」
更に一気に加速して少女の横を通り過ぎ、ファイアボールで残りの傀儡を全て撃ち倒すユウ。
電光石火。
まさに、この言葉が適当であると言わんばかりの早業だった。
何が起きたかを確認する為であろう、黒ずくめの男がユウの走って行った方向を振り向く。
黒ずくめの男が後ろを振り向いて何事か言いかけている所で、わざと少し遅れて走ってきたレイが、草を鎌で刈る要領で手首をおおよそ直角に曲げて、勢いよく黒ずくめの男の首部分めがけて横に振り抜く。
ゴキャアッ!
レイの腕に、中身の詰まった感触と何かが強引にブチチッと千切れるような感触が伝わってきた。
『えっ!』
予想外の感触に驚いたレイは、立ち止まって後ろを振り向く。
そこには、頭部がなくなった場所から結構な勢いで血を垂れ流す黒ずくめの男の身体があった。
「え~っと・・・・黒い人だけ、中身があったって事?」
混乱しつつ、ポツリと呟くレイ。
そして呟く事で、自分が取った行動と、その結果について頭の中で整理が付いたようだ。
レイの顔(目出し帽を被っているので他の人には見えないが・・・)から、血の気が引いた。
「もしかして・・・・もしかしなくても、人をヤッちゃった?」
ユウやレイがいた時代、殺人は犯罪であるという認識が常識だった。
戦争や暴動、一部の風習を除いて、ユウとレイが住んでいた世界の地域では情状酌量の余地がある場合もあるが、基本的に禁忌に近い犯罪だった。
ちなみに、その中でも無差別級のモノに関しては、批判的な意見も散見されるが、裁判で死刑が当然の判決として確定するくらいの重い犯罪と認識されている。
それを少女を助ける為とはいえ、更に傀儡が崩れる場面を見た後だけに人間ではないと誤認した為もあり、手加減なしの勢いで心の準備もしないまま殺ってしまったレイの混乱する気持ちは、推して知るべしである。混乱する感情に、年齢、性別、職業、ツベルクリン反応の如何を問わず、混乱する時は、皆等しく混乱する。
「ぅわ~~!どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう!わて、ホンマに適わんなぁ・・・・そやなくて!どないやったら、エエねんよぉ!ド頭、首ン所に戻したらエエんか?いや、そやなくて!何でこのおっさんだけ、具が入っとんねん!知らんかった事たぁいえ、やってもうたぁ・・・・どないしょ?どないしょ?どないしょ?どないしょ?どないしょ?どないしょ?どないしょ?・・・・」
「何で、途中から関西弁風?」
混乱しているレイを見て、ユウは心配げに声をかける。
視線が合ったレイは何を思ったのか、手にした黒ずくめの男の首をくるりと半回転させてユウの方に見せる。
「これ・・・・・・僕の母さんです・・・・・・・・」
「混乱してても、そういうネタをやる余裕はあるのかよ!いろいろNGっぽくなりそうだから、これ以上は止めとけ」
「そうは言うけど、ヤッちゃったもんは、ヤッちゃったんだよ!本当に、どうすりゃいいんだよ。この歳で、犯罪者になっちまったよ!これから先、どうすりゃいいんだよ!」
「レイが慌てふためく所を、初めて見た気がするな」
「何でこういう時、お前は冷静なんだよ!」
「冷静って訳じゃないけど・・・・ジェットコースターなんかで普段怖くて乗れないような奴が、隣の人が騒ぎまくっているのを見て逆に冷静になって落ち着いちゃう感じの心境だよ、今は・・・・」
「何となくわかるけど、全然気休めになってねぇな」
「そりゃそうだろ・・・・・・・・よし、こうしよう」
「どうすんだよ?」
「こうすんだよ・・・・エクスプロージョン!」
ゴバアッ!
右手を前に掲げて手の平を黒ずくめの男の胴体へ向けたユウは、魔法を発動させて黒ずくめの男の胴体を爆発的な勢いで炎上させる。
「お、おい、ユウ!一体、何を?」
「これで、俺はレイと同じ殺人者だ」
「・・・・・・・・・・・・」
「俺とお前は、これで一蓮托生。もしレイが罪で捕らえられたら、俺も同じ扱いを受ける。レイが罪で死刑になるなら、俺も一緒だ。だから・・・・」
「・・・・・・・・分かった・・・・ユウの心意気は、感謝する。取り敢えず、ちょっとだけど・・・・少し落ち着いてきたよ、ありがとう」
そう言ってレイは、手にした黒ずくめの男の首を、まるでゴミを扱うかのようにポイッと横へ放り投げる。
直後にユウが、首を魔法で爆裂させて炎上させた。
「まぁ、ただでさえこれからどうしていいか分からないこの状況で、レイが混乱したままだったら、俺は誰を頼りにしたらいいか困るからな。何だかんだ言って、下ネタや不謹慎ネタやしょうもない駄ジャレやオヤジギャグ以外は、知恵袋的に頼りにしてるからな」
「ん~・・・・何か、あんま褒められてる気がしねぇなぁ」
「褒めてんだよ!・・・・一応」
「そうか、サンキューな・・・・・・・・んで、これからどうする?あの女の子を連れて、町か村にでも連れてって貰うか?」
レイはクイッと、まだ驚きで目を見開いたままの少女を指差す。
「あぁ、そうだな。ココが何処かを知る事が第一だしな。それが分からないと、どう対応していけばいいか、対策の立てようがな・・・・」
「そういう事」
会話をしつつ、少女に近づいていくユウとレイ。
ユウは気が付いた。一歩一歩近づく毎に、少女の顔に恐れの表情が濃くなり、泣きそうなのを我慢している表情になっていくのを・・・。
「レイ、チョイ待ち」
優の言葉で、立ち止まるレイ。
「ユウ、どうした?」
「何か、助けたはいいけど、逆に怖がらせている気がするんだが?」
「言われてみれば、そんな顔してるな。何で?」
「さぁ?・・・・あっ、もしかして!」
「何だ?思い当たる事でも?」
「俺ら顔隠してるじゃん。もしかしたら、それかなぁ?」
「あぁ、そうかも知れないな。襲ってた奴は排除したから、この後、俺らを狙ってくる奴もいないと思うんで、もう脱いでもいいのかな?」
「そうだね。脱ぐか」
ユウとレイは、それぞれの顔を隠していたバンダナや目出し帽を脱いで、改めて少女に視線を向ける。
だが、少女の表情に変化はなかった。
「・・・・あれ?ユウ、怖がりっぱなしのままだけど?」
「あれ?顔が見えてなかったから、怖がってたんじゃないのか?じゃぁ、何だろう?」
「・・・・想像もつかないな。それじゃ、本人に直接聞いてみるか?」
「そうだな。その方が、話が早そうだ」
「んじゃ、声かけるとこから始めるかな・・・・あ~、お嬢ちゃん、大丈夫か?」
レイの声を聞いて一瞬ビクッとした少女だったが、何事かを逡巡して迷ったような表情を浮かべた後キッとした目線でユウとレイを睨むと、口を開いた。
「Tud, veled Asmodian?」
「は?」「え?」
「Tud, veled Asmodian? Etrzun ego qdut audivi!」
ここに至ってユウとレイは、自分達と少女の間に言葉によるコミュニケーションがとれてない事に気が付くのだった。
「言葉が通じてなかったのか・・・・」
軽く呻くように、ユウがポツリと呟きを漏らす。
「そらぁ、怯えもするか」
同意するように、レイも呟く。
「どうすっか、レイ?」
「どうもこうも・・・・・・・・筆談するか、ジェスチャーで何とかコミュニケーション取るか、それとも肉体言語で・・・・」
「肉体言語は止めようよ」
「まぁ、そうだな・・・・ユウ、自動翻訳みたいな魔法はないか?」
「トランスレーションの魔法はあるけど、全言語対応版のやつだと、魔力の消費が半端なくて、ちょっとな・・・・」
「おおよそ、どん位消費すんの?」
「今の俺の魔力量だと、毎時間四分の三程度の消費量かな」
「効率悪っ!」
「全言語に対応するとなると、二千、三千じゃ効かない位の数の言語に対応しなきゃいけないからな。どの言語か分かれば、その分少ない消費量で長時間、自動翻訳の状態を維持できるけど・・・・」
「聞いた限りだと、羅語っぽかったな。希語っぽい所もあるけど」
「少しバ語っぽいイントネーションもあったな」
「そんじゃ、その辺りの言語の比率を適当にブレンドした翻訳魔法で、大体大丈夫なくらいの魔力消費量に落ち着くかな?」
「まぁ、羅語系の言語をメインにして、近い言語をいくつかミックスして紡ぎ出せば、何とかなるでしょ・・・・そんじゃ、トランスレーション イン ブレイン!」
ユウはまず、自分に翻訳の魔法をかける。
「直接、言語脳の方に働きかける魔法になるんだ?」
「その方が、消費する魔力が少なくて済むから、効率的なんだよ。それに言語中枢の方も、翻訳の状態に慣れてくれば、魔法を使わなくても大丈夫だし・・・・」
要するに、自動翻訳の状態をずっと維持し続けていると、脳の方が自然と慣れていき、バイリンガルにもトライリンガルにも、場合によってはマルチリンガルにもなるという事だ。無論、ここまでの効用がある翻訳魔法は、上級魔法に分類される為、習得できている者は少ない。
「上級魔法をあっさり使えるトコは、さすが秀才君だな」
「親父に付いて世界中を駆け回っていたから、必要に迫られて覚えた魔法だよ。今の場合、使えるんだったら出し惜しみしないで使った方がいいだろう?・・・・んじゃ次、レイの番な。ホイ!」
「サンキューな・・・・・・ホイじゃ、改めて・・・・」
おもむろに少女の方に視線を向け直したレイは、少女の方に話しかける。
「ヘイ、ガ~ル☆ハウドゥ~ユ~ドゥ?」
「のっけから、違う言語でボケるんじゃないっての!」
思わずツッコミを入れるユウだった。
「いや、緊張してるみたいだったから・・・・」
「それでコミュニケーション取れない言語でボケちゃ、余計ダメだろ!」
「ゴメンゴメン(てへぺろ☆)」
「うわぁ~・・・・微妙にイラッとするリアクションだわぁ」
「まぁ、細かい事は気にするな・・・・取り敢えずユウの方も、友好的に笑っとけ。後ろでしかめっ面してても、子供が怖がるだけだから」
「へいへい・・・・」
そんな会話を交わしつつ、改めて少女の方へ視線を動かすユウとレイ。
自動翻訳の魔法をかけて以降の会話を聞いていたのであろうか、少女の表情から僅かばかりではあるが恐れの表情は消えていた。
替わりに、よけい混乱した表情をしていたが・・・。
「お前達は、魔族か?」
少女の口から、そんな言葉が飛び出す。
ユウとレイはそれぞれ、少女の質問の意味を考えていた。
「・・・・なぁ、ユウ」
「何だ、レイ」
「魔族って、何?」
「知らん。俺もレイに、それを聞きたかったんだけど・・・・」
「魔法を使ったから、魔族ではないのかと聞いたのだ。答えよ!」
少々強がって無理しているのが分かるくらい、緊張した大きめの声で少女がユウとレイに問いかける。
「あ~~~・・・・お嬢ちゃん、ちょっといいか?」
レイが、口を開く。
「何だ?」
「そもそも、魔族って何者なのよ?」
「遙か昔に我等人族と争った、魔法を駆使する一族よ!」
「・・・・ユウ、そういう一族とか人種って、記憶にある?」
「無いな。少なくとも、俺の知ってる歴史には、魔族なんていないぞ」
「しかし現に、お前は魔法を使っていたではないか!」
「あぁ、厳密には魔術だよ」
「魔術?」
「魔法を使う為の技術だよ。技術だから、馬に乗ったり泳いだりするのと同じで、習得すれば個人差はあるけど、誰でも使える」
「そんな・・・・・・」
「そんな訳で、お嬢ちゃん。俺らは残念ながら魔族とは違うよ」
「そ、そうなのか・・・・・・・・だとしたら、失礼した。魔法を使う者は大体、魔族の者くらいだから・・・・その・・・・助けて貰って、感謝する」
「まぁ、別にいいよ。こちらも下心ありで助けたから・・・・」
「・・・・・・え?」
レイの言葉を聞いてしばらく間が開いてから、警戒する表情を浮かべる少女。
それを見たユウは、若干苦笑いを含んだ表情で、レイに話しかける。
「レイ、誤解を招きやすい言い回しは、今は控えた方がいいぞ・・・・あ~・・・・」
次に少女に話しかけようとしてユウは少女をどう呼べばいいか逡巡し、ユウの言葉に反応した少女が視線をユウの方に移してきたので、そのまま呼称を決めずに話し始める。
「こいつの言っている事は、特に気にしなくていいよ。言い方が誤解を招きやすいけど、この辺りが何処なのかとか、近くにある街まで連れてって欲しいとか、水や食料を仕入れられる店を知っていたら教えて欲しいとか、そんなとこだから・・・・」
「何で、そんな事を知りたがるのだ?」
「それはな、お嬢ちゃん・・・・俺らが、盛大に道を間違えて迷子になった奴らだからだ」
少女の質問に、間髪入れずにレイが嘘の答えを言う。
馬鹿正直に『他の時空間から、何の因果かこの時空間へ転移してきた』と言っても、まず頭がおかしくなっているかどうかを疑われるだけで、ならばいっそ嘘臭いものの、ここが何処だか分からないほど盛大に迷ったアホな二人という感じで言っておけば、まだ疑われる可能性は低いだろうという判断だ。
ユウも、レイの意図は察しているようで、例の言葉に異論を挟んでこない。
「そんな訳で、お嬢ちゃんを助けた見返りは、お嬢ちゃんの頭(情報)と身体(案内など)で払って貰おうか」
「だから、誤解を招きやすい言い方は止めいっちゅうに!」
スパ~ンッ!
どこから取り出したかは不明だが、いつの間にかユウの右手に握られたハリセンが閃き、レイの頭を直撃する。
「痛いやん、ユウ」
「やかましい、子供相手に、下ネタ使うなよ!」
「まぁ、細かい事は気にすんな。下でも何でも笑いのネタは、人生のちょっとした潤滑油だよ」
「時と場所と状況を考えろよ、もう・・・・」
少しばかり苦々しい顔をしたユウは、フイッと軽く手を振ってハリセンをしまう。
無論、何処にしまったかは不明だ。
一連の会話の流れを端で見ていた少女は、片手で口元を押さえて微妙な表情でユウとレイを見ていた。
「?・・・・お嬢ちゃん、どうしたんだ?」
「いや、そのだな・・・・」
「別に、怒ったりしないから大丈夫だよ?」
「いや・・・・二人の会話の流れが、祭りの時に見る、何かの喜劇とかお芝居のように感じたので・・・・笑っていいのかどうか迷ってしまって」
「何で、そうなるんだ?」
首を斜めに傾けて頭に『クエスチョンマーク』を浮かべたユウが、ポツリと漏らす。
『ふむ・・・・』と言った感じで何かに合点がいったようなレイは、少女に視線を戻すと、どう説明したものやらといった風の逡巡した表情を一瞬だけ浮かべた後、少女に話し始める。
「あ~、まぁ・・・・結果的に、そういう風に見えるなら、別に構いやしないぞ。笑いたきゃ笑え。子供に、無理に感情を抑え込まれる方が、こっちも居心地悪い」
「え、でも?」
「子供は、素直なのが一番だ」
「別に、子供という訳では・・・・」
「下ネタの意味が理解できないうちは、みんな『お子様』だ」
「・・・・『下ネタ』というのがよく分からぬが、まぁ、良い。子供扱いしようがしまいが、助けて貰った恩義を感じる心は持っている。できる範囲内の礼はさせて貰おう。それで良いか?」
「えらく持って回った言い回しだけど、まぁいいや・・・・・それじゃ早速、近くの街まで連れてってくれるか?」
「うむ・・・・そうしてやりたい所じゃが、暫し待ってくれぬか?あと、恩人に頼み事をするのはチト心苦しいが、済まぬが手を貸してくれぬか?」
「何か、手を借りたい事でもあるのか、お嬢ちゃん?」
「うむ。後ろを見てくれれば分かると思うが、身を挺して私を守ろうとした臣下の者の亡骸を弔ってやりたい。時と場所だけに、ちゃんと弔ってやる事は叶わぬが、せめて私の手で埋葬してやりたい」
言われて後ろを振り向いたユウとレイは、抉れた地面や燃え尽きかかっている傀儡の残骸とともに倒れ込んでいる、幾つもの死体を見た。
襲い来る敵から主君(正確には主君の娘)を守る為、命懸けで身を挺したのだろう。手足が爆ぜた者も含め、背中から傷を受けた者は皆無だった。
「「.・・・・・・・・」」
その惨状は、ユウとレイとっては刺激が強過ぎ、ただただ無言になるしかなかった。
この時点で二人とヒロインが、まだお互い名前は名乗りあってないです(笑)
何故か自然と鬱展開になりかかってきたんで、一旦ここで切ります。
流石に飛び散った手足や遺体を一カ所に集めるシーンを書いても、ほぼ誰も面白がってくれないと思いますので・・・。
やっぱり精神的に凹んでいる時に書くと、それに引きずられやすいですね(汗)




