第二話の二
取り敢えず、オー〇ロードで異世界に落ちていく感じをイメージでよろしくお願いします(〇´∀`〇)
「な~~~~~~~~~・・・・・・なっ?」
叫び声を上げながら落ちるレイは、突然、何の脈絡もなく、急激に減速した事に気付いた。
「な、何だぁ?」
辺りを見回すレイ。
下から上へ周りの景色がゆっくりを動いており、その速度はかなり緩慢だ。
また、腕をつかんだままのユウも、髪や袖のはためきがゆっくりと動いており、丁度スローモーション再生をしているような感じになっていた。
『何で、俺だけ普通の速度で状況を認知できているんだ?どうなってんの?』
戸惑うレイに、背後から脳天気な声がかかってきた。
「ど~~も~~!さっき振りですけど、元気してましたかぁ、おっさん?」
「・・・・誰よ?」
「あれ?・・・・あぁ、そうか。自分達にはさっき振りだけど、おっさんからすれば、大体一〇年振りくらいになりますか」
「一〇年・・・・一〇年。一〇年・・・・・・・・あ、タイムパトロールだか何だかのヤツか?」
「正解・・・・なんですけど、すっかり忘れてました?」
「そりゃ、忘れるって。第二の人生なるべく謳歌したいからって、この世界の事を調べて、前の世界で覚えていた事とダブってた知識はおさらい程度で済ませて、余った時間を思いっきり相違点と雑学に入れ込んでたんで、殆ど忘れてた・・・・・・まぁ、第二の人生歩ませて貰ってる事に関しては、感謝してるけどね。おかげで人生、女関係と付加価値的な経済関連と飲酒関連を除けば、おおむね良好だし」
「結構俗物的な返答ですが、まぁ、良かったんなら何よりです。記憶を残したまま次の人生を過ごす人は、あまり楽観的にならずに前の人生に拘って過ごす人が多いんで、そういう意味では、人生楽しんでくれて、こちらも嬉しいです」
「まぁ、前の人生、近い将来的に詰むのが簡単に予想できて暗かったからねぇ。鬱ってたし・・・・経済的に困窮してなくて、衣食住が普通レベルで満足できれば、人は穏やかに暮らしていけると思うぞ。例外は知らんけど」
「実感のこもったコメントですね」
「まぁね。楽しく過ごさせて貰ってるよ・・・・ところで、質問あるんだけど、いいかな?」
「どうぞ」
「あのバナナの皮は、台湾産?それともフィリピン産?」
「そっちですか!てっきり、今の現状についての質問かと思ったんですが?」
「それは、答えて貰うの確定の事項だから。で、どっち?」
「・・・・まぁ、まず、バナナについてですが、インド産です。大きな果物屋さんに行けば、買えるヤツです」
「買って、すぐ食べたんだ?」
「えぇ、まぁ・・・・この後の予定もありますし、そんなに余裕のある工程で作業してる訳ではないので、お二人がそれぞれ足を踏む瞬間を狙って、時間の進行を遅らせて地面にバナナの皮を設置させて頂きましたが・・・・よく分かりましたね?」
「バナナの皮に、俗にシュガースポットって呼ばれる黒い斑点がなかったからな。それがない時はまだ熟し切ってないから、最大限のまったりねっとりまろやかな甘さは楽しめないぞ」
「なるほど。さっき食べたものより、まだ甘くなるって事ですね?次に食べる機会があったら、試してみます」
「追熟させる際には、バナナの場合、常温でな。冷たいトコだと、熟成する前に皮が黒くなっちゃうから、注意してな」
「はい、わかりました。で、次に、おっさんの現状についての話ですが・・・・」
「まず、何で俺以外がスローモーションみたいになっているのか?って事と、次に何でわざわざ手の込んだ真似して、こういうことをしたのか?それと、何で俺以外の人間も巻き込んだのか?の三点かな。とりあえずの質問は」
「ハイハイ。まず最初の質問ですが、おっさんの周り数㎜の範囲だけ、時間の流れを速めてます」
「あ?周りがゆっくりしてるんじゃなくて、俺が早くなっているって事?」
「イグザクトリィ!その通りでございます」
「このていねいすぎる態度・・・神経にさわる男だ・・・・って、マンガの台詞を言わさないでくれ。前にも、やったろ?」
「覚えていてくれて、嬉しいですね。おっさん以外より、おっさんだけをフィールドで包んで時間の流れを制御した方が、エネルギー効率がいいんですよ」
「なるほどね」
「で、次に、何でわざわざバナナとか使ってこんな真似したかというと、因果律の問題ですね。さっき・・・・前に話したと思いますが、向こう三〇〇〇世界の修復作業ですが、結構厄介な事になってまして、下手にいじると他の時空間に影響が出てしまうんですよ。え~と、ことわざで言う『情に棹差せば流される』ってやつでしたっけ?」
「『あちらを立てれば、こちらが立たず』じゃないのか?」
「あぁ、そうそう、そんな感じのことわざです。強引に時空間の修復作業を行うと、何故か一見関係なさそうな時空間に影響が出たりするので、作業は慎重に行わなければならないんです。大っぴらにやると、何かの因果律のせいか、盛大に時空間がこじれるんで、なるべく自然を装った修復作業になる訳です」
「いや、『魔溜まり』やバナナの皮を使っている時点で、自然を装ってないから」
「まぁ、とにかく、他の時空間への影響を最小限に抑えてる為にこのような作業になった訳で、あらかじめおっさんに伝える事も出来なかったのはあらかじめご了承ください」
「あらかじめ伝えていたら、因果律の影響で多大な影響が出たと?」
「はい」
「ふ~ん。じゃぁ、仕方ないか」
「御理解頂けて何よりです。あと、最後の質問ですが、ユウさんですが・・・・おっさんとペアで対象になっているんで、巻き込んだ訳じゃないですよ」
「えっ、そうなの?」
「そうですよ。この世界のユウさんは、おっさんが高校に入ってから邂逅したようですけど、他の・・・・あ、すいません。因果律が狂うんで、これ以上は話せないです。忘れてください」
「・・・・・・他の時空間でも、ユウとは浅からぬ縁があるって事ね。まぁ、これ以上は聞かないから、話の続き、プリーズ」
「ありがとうございます。で、今回はおっさんとユウさんのペアで、別の時空間に行って貰って、起こした行動の余波が時空間の修復作業になるはず・・・・なんですけど・・・・・・」
「どうした?」
「いや、記憶に間違いがなければ・・・・『重ねがけ』になってますねぇ、この時空間。あれれ?・・・・おやぁ?・・・・いや、時空間の修復には、原則『重ねがけ』はしないはず?」
「そうなの?まぁ、何事にも例外ってのはあるから、今回のはソレじゃないの?とにかく、話を続けて」
「あぁ、まあ、そうかもしれませんね・・・・じゃぁ、続きなんですが、おっさん的には十年前の出来事ですが、あの時はおっさん一人に影響がかかってたんですが、今回はおっさんと連れの人にかかってます。なので、二人にこれから別の時空間へ移動して貰います」
「何処の時空間?」
「え~と・・・・詳しい内容は話せませんが、簡単に言うと過去です。ちょっと因果律とかが複雑に絡み合っているトコですね。まぁ、とはいえ、おっさん達はそういう事は気にせずに、思うままに行動してください。それで、大丈夫のはずです」
「自重しないでOKなんだ?」
「そうですね。極端な話ですが、世界征服を企んで行動しても大きく影響しないです」
「・・・・仮にそうしても、失敗するって事?」
「いえ、まぁ、可能性の問題ですね・・・・その時にどういう行動を取って、どういう結果になったとしても、俗に世界とか歴史の復元力って呼ばれるモノが働くんで数百年後には殆ど影響のないレベルで落ち着くって事です。ただ、その際は、こちらが手を加えないと、あらぬ方向に歪んでかなりカオスな事になるんで、ある程度節度を持って自粛して頂けると、余計な因果が発生してややこしくなったりしないんで、その方がこちらとしては余計な作業が発生しなくてありがたいです」
「要は、何やっても最終的には影響ないけど、やり過ぎると因果律とかで途中経過に問題が出て自分達の仕事が増えて面倒くさいから、そこそこ自重はして欲しいと?」
「まぁ、簡単に言ってしまうと、そうなりますね。時間の流れもメチャクチャになって、ホントにカオスな事になって、半端なく修復が手間になるんですよ」
「・・・・分かった。自分の及ぶ範囲内で、前向きに検討、鋭意努力します」
「何処かの国の政治家みたいな返答はしなくてもいいですよ。とりあえず、協力して頂けそうで助かります・・・・そのお礼と言っては何ですが、おっさんにコレを差し上げます」
「何、これ?」
レイの前に差し出されたのは、赤と青の、結構透明度の高い宝石のような石だった。
「まぁ、簡単に言うと、ある種の魔力制御管理装置兼物理型認証装置みたいなモノですね。おっさんにこれから行って貰う時空間にあると思われるアイテムに嵌め込んで貰えれば、そのアイテムが使えるようになるはずです」
「・・・・ちょっとあやふやな言い回しだな。見つからない可能性もあるって事だよな?まぁ、アイテムを見つけられたらラッキーって心積もりでいる事にするよ」
「ありがとうございます。あと、これ自体も生体反応式認証機能が付いてますので、おっさん達以外に使えませんから、覚えておいてください。ちなみに青いのかユウさんので、赤いのがおっさんのものになります。それと、付加機能として、身に付けておくだけで、ある程度の魔力の増幅効果がありますんで、一応覚えといてください。何かの役に立つかも知れません」
「ハイよ、分かった・・・・」
レイは宝石のようなアイテムを受け取ると、無造作にお尻のポケットに突っ込む。
「・・・・そういえば、この荷物どうしようか?」
アイテムをポケットに突っ込む際、手放したマイバッグに意識がいって、レイはポロリと呟く。
「あぁ、そのまま持って行ってください。重宝すると思いますよ」
「そうか。なら、そうする」
「それではそろそろ、自分はお暇しますんで、着いた世界でも頑張ってください」
「ハイよ・・・・あっそうだ、もう一つ聞いてもいいかな?」
「なんです?」
「あの『魔溜まり』から聞こえた小さい悲鳴みたいな声、アレは何?俺らの注意引く為の、スタッフのアテレコ?」
「・・・・・・違いますよ。多分、向こう行って最初のイベントらしきものが人助けなんで、それに関連したものじゃないかと・・・・でも、変ですね。普通はそんな現象は起きないはずなんですが・・・・」
「因果律とかの影響かね?普通なら起きない事が起きるってのは?」
「まぁ、そうかも知れませんね。あ、別に強制イベントじゃないんで、どう行動するかは、おっさんの意思次第ですよ」
「そうは言うけど、聞こえちまったモンは仕方がないだろう。この状況で参加しないとか、目覚め悪いし、有り得ないだろ。まぁ、助けられるかどうかは知らんけど・・・・」
「まぁ、そういう事なら・・・・とりあえずヒントとして、今渡したアイテムの強化機能を使用してください。適宜使うようにしていけば、これから先の展開は若干楽になると思いますよ」
「何かの、イベントフラグみたいなヤツと関係があるの?」
「いえ、特に関係はないですよ。ただ、この時空間のこの辺りの時期と場所の人だと、一般的に人を殺める事に強い忌避感を覚えやすいと聞いたものですから・・・・」
「確かに、その通り・・・・という事は、タイムパトロールの人は、他の時空間からの人って事か?」
「おっとっと・・・・そこまで推測できるアタマを持ってるおっさんなら分かってくれると思いますが、そこから先は聞かないでください。それと、正確にはタイムパトロールではないですよ」
「・・・・分かった。んじゃ、聞かないでおく」
「助かります・・・・それじゃ、そろそろ目的の時空間に着きそうなので、この辺でお暇しますね」
「ハイよ。まぁ、また縁があったら何処かでな」
「・・・・そうですね。縁があれば、また」
多分合う事はもうないだろうという予感を覚えながら、二人は別れの言葉を口にする。
そして、レイの背後から気配が消えると、時間の流れが元に戻った。
瞬間、レイはある事に気がついた。
現在、加速度をつけて落下中という事は、目的の時空間に到着した際どのような状態で着地するのか?
・・・前回は精神体というか肉体がなかったが、今回は肉体付き。
つまりは・・・・・
「の~~~~~~~~!潰れるのは、ヤダ~~~~~!」
ドップラー効果を響かせつつ、レイの叫びは虚空の中で小さく木霊していた。
パッ! ドサァッバキバキキザザザザ・・・ドササッ!
解説すると、ユウとレイが異世界に現出したところは、空中であった。
必然的に魂と共に肉体も重力に引かれて、下方向に落下する。下方向には偶然か否かは不明だが、高さ数mほどの木が立っていた。
避ける間もなく二人は、そのままドサッとばかりに落下。バキバキと細かい枝と葉っぱをクッションとしつつ、急速に落下速度を殺して、ドサッと地面に落下した。
「・・・・・・・・痛たたたたた。ユウ、大丈夫か?」
「あ?あぁ、何とか・・・・あちこち痛いから多分、体中擦り傷だらけだと思うけど、下が柔らかい地面で助かった。丁度、クッションみたいになってくれたらしいな・・・・」
「いや、ユウ、地面と違うぞ・・・・お前が背中で感じている柔らかい地面というのは、俺の背中の事だ」
「え?そうなの?」
「おかげで胸から腹にかけて、ムチャクチャ痛い」
「そうか。で、大丈夫か?」
「痛み以外は大した事なさそうなんだが・・・・取り敢えず、俺の上から退いてくれるとありがたい」
「おぉ、これは失敬」
返答しながらユウは、ゆっくりとレイの上から横にずれた。
「見たところ、レイも擦り傷だらけだけど、それ以外は何とか無事のようだな」
「おかげさんでな」
返答しつつレイは、ゆっくりと上半身を起こしていく。
顔面からつま先まで前面に土をかぶっていた。ついでに地面とキスしたせいか、鼻から血も出ていた。
「全く、昔の歌じゃあるまいし・・・・俺は地球フェチじゃないから、砂浜に両手を広げて地球を抱きしめる趣味なんてないぞ」
ユウの居ると思われる方から、淡い光が視界に入ってくるのを認識しながらレイはぼやく。
淡い光の正体を、レイは知っていた。
魔法で治癒魔法を使った際に生じる光だ。恐らく、ユウが自分の身体に魔法をかけて、ケガした所を治しているのだろう。
「昔の歌って、デカい車と戦車とヘリが変形して装甲服がぞろぞろ出てくるアニメだっけ?動画サイトでオープニングだけ見たけど・・・・アニメ本編は知らんけど、歌詞の内容は隠喩的なもんで、別に地球フェチって訳じゃないだろうに」
「解釈の相違だろ。それに、こういうのは、面白おかしく感じられる方が、ネタとしては楽しいじゃないか」
「まぁ、それは否定しないけど・・・・レイ、こっち向いて。治癒と洗浄をかけてやるから」
「おぅ、頼む」
「ほい!『ヒール』ア~ンド『クリーニング』」
ユウがひらひらと手を泳がせながらレイに魔法をかけると、レイの身体が淡い光に包まれて、みるみる傷口が塞がり服の汚れが落ちていく。
「さすが魔法使いの優秀者。前振りの呪文なしでこの威力・・・・ホンに、魔法って便利だよなぁ。個人差が激しいから、俺みたいに実技が赤点ギリギリのヤツからすると、つくづくそう思う」
「身体強化系の魔法は俺とタメ張れるくせに、よく言うよ」
「それ以外は、ホントにだいたい赤点だからな・・・・痛みとか、だいぶ楽になったよ。サンキューな」
「ハイよ。骨折とか大きなケガがなかったのは幸いだ・・・・んで、話は変わるが、ココは何処なんだ?俺達、『魔溜まり』に落ちたはずだよな?何で、林っぽいトコにいるんだ?」
「それは、永遠に謎なのさ・・・・って言えればいいんだけど、多分、俺達が今まで生きていた時代じゃないのは確かだ。完全なファンタジーじゃない世界なら、多分過去の時代だろうと思う」
「そう思う根拠は?」
「その辺にある木の皮の色を見てみソ」
「・・・・普通に茶色いけど?」
「その茶色が、俺達が知っている茶色より薄くないか?」
「言われてみればそうかも知れないって程度には、薄いかな?」
「ユウ、普段あまり木とかよく観察してないだろう」
「木に限らず、普通の人はそうだろ?」
「まぁ、俺達の時代じゃ、必要と思われる情報以外の情報は弾いていないと、情報過多で消化不良を起こすから、止むを得ないけどな」
「出たよ、ちょっと上から目線の厨二病的発言。レイの場合、症状が少し重いような気がするぞ」
「まぁ、細かい事は気にするな。で、木の皮の色の話に戻るけど、俺達が生まれる二世紀くらい前に産業革命が起きた歴史があるだろ?」
「いきなり歴史の話を振られてるけど、関係あるの?」
「あるよ」
「まぁ、欧州で最初に起きた、機械技術や内燃機関の発達で大量生産が可能になった事による、既存の産業構造のパラダイムシフトだわな」
「簡単に言うと、そんな感じだよな。蛇足的に話を付け足していくと、これをきっかけに帝国主義の台頭や戦争のやり方もかなり変化していくんだけど、今回は関係ないから省くぞ。んで、その時に劇的に変化したものの一つに、空気汚染がある訳だ」
「あぁ、工場の排煙とか燃料の排気ガスとか森林伐採による地球全体の空気清浄化能力の劣化とか、前に授業で先生が言ってたヤツか?・・・・で、それが、木の皮の色に変化を起こさせたとでも?」
「うん、そう」
「マジで?」
「まぁ、簡単な流れを言うと、空気汚染→灰や粉塵なんかの微少な汚染物が木の表面などに付着→木の皮の色が黒みを帯びる→木の皮の色を保護色とした昆虫が、保護色が効かなくなって淘汰されていく→適応できた黒みがかった昆虫だけ生き残る→元々の色の木に、黒く目立って捕食されるから昆虫が来なくなる→元々の色の木が受粉などで昆虫の力を借りる事ができなくなって淘汰されていく→木の方も環境に合わせて木の皮の色に黒みを持たせていく→結果として種として黒ずんだ色になっていくって言う流れになる訳だ」
「で?だから、この辺の木が黒みがかってないから、産業革命以前の過去の時代じゃないかって事?」
「うん。そんで、周りの木の種類を見ると、ブナ、カバ、クリ・・・・それと、木々の間から向こうのに見える山にマツっぽいのが見えるから、場所的には温帯地方の何処かだと思う」
「木の種類で、そこまで推測できるモンなの?」
「できるよ。環境を無理矢理変えて生息地域を広げられるのは、人間以外いないからね。植物にしろ、昆虫や獣、魚なんかの生物は、適応できる範囲の限られた場所でしか生息できないデリケートな存在だからね・・・・あ、ゴキブリとか納豆菌とかの一部例外は除くよ」
「例外なんか持ち出さなくてもいいから・・・・温帯という割に結構肌寒いんだけど、どうしてだ?」
「多分、春先か、これから春本番になる辺りの時期だからだと思う」
「根拠は?」
「・・・・あれ」
そう言いつつ、レイは木の上の方を指さす。つられて視線を動かすユウの視界に、木の枝がいくつも入ってくる。
「・・・・・・普通に、木の枝じゃん」
「その所々に、黄緑色のポッチみたいなのがあるだろ?」
「・・・・まぁ、枝しかない木もあるから、分かるけど・・・・あ、そうか!新芽か!」
「そういう事。新芽なんて、冬が終わってから春の初めに見かけるから、多分、その辺りの時期って判断した訳だ」
「納得。ただ、冬服着てても寒いのは勘弁して欲しいなぁ。さっきまで、暑かったから」
「まぁ、仕方ないだろう。綺麗な美人のお姉ちゃん達に囲まれてキャッキャウフフできるような、南国リゾート プライベートビーチツアーINサマーってのを期待したかったんだが、現実は非常なまでに『こんな有様』状態だよ」
「いや、レイの欲望ダダ漏れ願望には、ちょっと賛同しかねる」
「え~?若い男の子だったら、これっぽちのささやかな希望くらい抱いてもいいじゃん」
「レイと他の若い男の子ってのを同レベルにしないでくれ。少なくとも、俺はそこまでダダ漏れじゃない」
「まぁ、細かい事は気にするな・・・・それじゃ、いつまでも現実にガックリしてる場合じゃないから、ぼちぼち行動を起こしますか」
「まぁ、そうだな。水とか食糧とかキャンプ場所とか、食と住の確保は最優先してやるべきだな」
「そういう事」
「んで、何処に向かって行く?」
「・・・・これで、決めるか?」
そう言いつつレイが手にしたのは、足下に落ちていた木の枝だった。
「なるほど。何処に向かうか当てがない時は、ベターな方法だな」
「だろ?」
会話をしながらレイは木の枝を地面に突き立てようと・・・した所で、聞き覚えのある声が、何処からともなく微かに聞こえてきた。
「・・・・・・・・・・・・きゃ~・・・・」
「ユウ、今のは?」
「あぁ、『魔溜まり』から聞こえてきた声だな。で、どっちから?」
「あっちだな」
レイは、左後ろ四五度くらいの方向を指差す。
「よし!」
駆け出そうとするユウを、レイは左手で制して立ち止まらせる。
「待て、ユウ」
「何だ?」
「自分のマイバッグを忘れるな」
「そんな場合じゃないだろ!」
「そんな場合だ。仮に声の主を助けたとして、その後は?」
「・・・・・・」
「ケガをしていたら?腹を減らしていたら?遭難者だったら?この場所に戻ってきたら、動物とか誰かがマイバッグをパクって行ってたら?」
「分かったよ・・・・何で、こんな時でも冷静にそこまで思いつくんだか」
「年の功だよ」
「同い年で、何言ってんの。んじゃ、改めて、行くよ」
「ハイよ」
買い出しで荷物の詰まったマイバッグを手にすると、ユウは改めて声の聞こえた方向に身体を向けて走り出す。
「いいねぇ、若いって。パッといろいろ思い付いちゃって行動がすぐに起こせないジジイより、反射神経並みの直感で動ける行動力が羨ましいな」
自分の今の年齢を棚に上げて、ポツリと呟くレイ。
手にした木の枝をポイと捨てて自分のマイバッグを抱えると、ユウの音を追って駆け出していった。
木の表皮の話は、昔、学習帳だか事典だかで蛾の体表色の話が載っていて、それを思い出しながら書きました。