第一話 とあるサラリーマンの転生もどき
Oh~(泣)
前話が、投稿したつもりがしてなかった・・・・orz
道理で、次話投稿の欄が見当たらなかった訳ですね。半日以上、無駄に過ぎてしまいました(T△T)
おっさんの話を延々続けても面白くないと思うので、端折り気味になってます。
彼は、不幸だった。
どれ位不幸だったかというと、これから先の生活が五里霧中で全く見えてこないくらい不幸だった。
冗談かと思うかも知れないが、本当にそのまんまだった。
その日の朝、出社したら彼の勤める会社が倒産していた。
会社の入り口に『倒産しました』という貼り紙が、『差押え』『金返せ!』『金泥棒!』などと書かれた貼り紙よりひときわ大きく貼り出されていた。
彼は貼り紙を見ながら、呆然と立ち続けた。
確かに、数年前から幾度となく倒産の噂は上っていた。
その都度残業代がカットされたり、目標設定値まで業績が上がらなかった時はサービス残業が常態化したり、減給するためとしか思えない人事査定制度(一応、目標成果を定量、視覚化し適切な報酬を給付するための制度だと建前のような説明は受けた)の導入と、労働条件が年々厳しくなってきていた。
特に今年に入ってから、目標ノルマが今までのほぼ二倍(建前上、自分が自主的に立てた事になっている、上司から何回も訂正を求められて引き上げられた数値)、残業がいくらやっても残業代ほぼカット、福利厚生費(社宅費補助、子育て支援費、資格取得支援費、社員旅行補助など)ほぼカットなど、彼の目から見ても悪化の一途をたどっているのが分かる状態になっていた。
そうなれば当然、会社は少しでも赤字を減らして利益を捻り出すため人減らしのリストラを始める訳で、特に中間管理職は人減らしのノルマを達成しないと自分がリストラ対象なるので必死にノルマを消化しようと行動する。
結果、会社組織の末端にいる彼のような存在は、毎日のように上司から
『ノルマが未達。努力が足りない』だの
『(ノルマが)未達のくせに、残らずに帰るのはどういう了見だ』だの
『毎日決まった時間に、報告書が提出されてない』だの
『(俺が)要らない(と思う)報告はするな』だの
『もっと効率的に仕事を処理すれば、残業は必要ない』だの
『会社は組織だから、会社の決めた目標についてこれないなら社員の資格はないと評価されるぞ』(あくまでも自分ではなく、会社の意見として自分の考えを言うところがミソ)だの
『(お前の)代わりはいくらでもいると評価されてもいいのか』だのと言われ続ける訳で、それでも踏ん張って仕事を続けていたら、半年ちょっと前から体調を崩して心療内科に通う羽目|(鬱病)になった。
無論、上司からの
『健康の自己管理ができてないからそうなる。健康管理も仕事のうちだ。それができない人間に価値があると思うか?そう思われたくなければ、がんばって結果が出るよう、努力して働け』というありがたい言葉が毎日の言葉に追加される訳で・・・。
彼はさらに症状が重くなり仕事の効率が落ち、影響でノルマが達成できず、さらに嫌みを言われて症状が悪化するという負のスパイラルに陥るのはある意味必然と言えた。
ちなみに鬱病者に『がんばれ』とか『努力しろ』といった類いの言葉は、ある意味で禁句である。自分なりに頑張っても努力しても結果に結びつかないから鬱になる訳で、そういう人間対して追い打ちにしかならない可能性が高いからである(・・・・と、医療関連の本に書いてありまスた)。
そんな状態に陥っても彼が仕事を続けていたのは、ひとえに元々の収入が少なかった(独身者で税金をガッツリ取られて、手取りで一〇万円台半ば)のと会社が提携していた社宅の家賃が全部自腹になって収入の半分余りが家賃で消えている事、また病院通いで医療費がかかり生活費のため貯金もここ数年で切り崩してほとんど残っておらず、会社を辞めても生活のめどが立たなかった為、辞めようと思ってもずるずると仕事を続けるカタチになっていたのだった。
身も蓋もない言い方をすると、お金がないから辞められなかったという訳だ。
無論、傍目八目で、そんな会社はさっさと辞めるべきという声も聞こえてきそうだが、彼はこういう状況に追い込まれた者特有の視野狭窄気味な思考に嵌まっており、辞める決心がつかないまま今に至っているという訳だ。
ふと見ると、貼り紙の向こう側で債権会社と思しき黒スーツ姿の人間を相手に、上司が顔を赤くして何事か抗議している姿が見えた。察するに、『仕事があるから、ここを通せ』みたいな事を言ってるようだ。倒産しているのに仕事も何もあったものではないが、よくよく聞いてみると、どうやら上司の抗議の内容は『仕事をしないと家族を養っていけない。だから仕事をさせろ』という事だった。
上司も人の子、自分の家族のために身を粉にして必死で働くお父さんなんだなぁと、彼はぼんやりと思う。
例え毎日嫌みを言おうと、リストラ対象の人員ノルマを達成するために他人を蹴落とそうとしようと、それは自分の家族のためで、決して自分の利己的な行動ではないんだなと、ほんの少しばかり彼の心にグッとくるモノがあった。
だからといって、毎日のように嫌みを言われたり、今も『仕事をさせないなら、お前らがその分の俺の収入を保証しろ』とほとんどクレーム紛いな態度を寛容に許容できる訳ではないが・・・。
入り口の前でぼぅっと立っているようにしか見えない彼の姿を、振り向いた上司が気付いて声を荒げながら彼を呼ぶ。
曰く、『お前もここに来て抗議しろ』と・・・。
だが、連日朝の定時から最終電車が終わってからの時間まで働き詰めていた彼は(帰りのタクシー代はもちろん自腹。休日出勤あり)、頭の中でぼんやりとした今更感を感じながらポツリと言葉を漏らす。
「会社が潰れたんなら、さっさと職安に行った方がいいですよ」
「!」
途端に浴びせられる、上司からの罵詈雑言。
『・・・・あぁ、ダメだな。この人に何言っても無駄か?』
鬱病者特有の|(個人差あり)冷めた感覚で罵詈雑言を流して聞いていた彼は何となく自己完結的に納得すると、おもむろに身体の向きを変えて街中へと歩き始めた。
上司がまだ何か言っているようだったが、全く耳に入ってこなかった。
連日の出勤のせいで頭がぼやけ気味の彼は、
『明日からの生活費、どうしよう…』とか
『今住んでる部屋、いつまで居られるかな?』などとぼんやりまとまらない考えをしながら、街中を歩く。
穏やかなくらい暖かい日の光は心地よく、彼のささくれ立った心にほんの僅かばかりではあるが余裕をもたらしてくれる。
『・・・・あっ、そうだ!これから時間もできる事だし良い機会だから、生活苦しくなってからご無沙汰していた趣味を、また始めても良いかな?』
歩きながらふと、そんな考えが一瞬頭をよぎる。
彼の趣味は、マンガ、アニメ、ゲーム、プラモデル、アクションフィギュア収集などの、いわゆるオタク趣味と呼ばれるモノだった。
学生時代はそれなりに入れ込んでおり、自分の部屋は半ばコレクションルーム状態だったが、それも今は昔、ここ数年の生活苦から大半を手放してしまい、だいぶ部屋のスペースが空いてしまっていた。
特に通院を始める少し前から、鬱病からくると思われる無力感や仕事がうまくいってない事からくる漠然とした焦燥感がない交ぜとなって無気力になり、結局少ない休日は部屋に引きこもりのプチニート状態で、ただただ無駄に時を過ごすばかりだったのだ。
『それに会社がなくなったから、まずは収入の確保をしなきゃ、趣味にかける余裕なんてないか・・・・・・あぁぁぁ…収入もそうだけど、再就職にしろ何にしろ、今後の生活が何とかなる予想が全く想像できない・・・・いっそ世界が壊れてリセットしてくれないかなぁ・・・・』
彼が半ば自棄な考えをしながらとぼとぼと歩いている、そんな時だった。
いきなり大きな音がして、世界が壊れた。
いや、厳密には世界の一部、『空』が割れた。
比喩的表現ではなく、まるでガラスが割れるように音を立てて『空』が割れたのだ。
バリーン!
気持ちいい位の盛大で澄んだ音を立てて、空が割れた。
『何だか、ガラスが割れたみたいだ・・・』
彼は一瞬、そんな思いが脳裏に浮かんだ。
それ位、本物のガラスが割れる時と似ていた。
そして飛び散った大小の破片は、万有引力の法則に従い下方に拡がりながら、落下してくる。
「・・・・・・あっ!」
思わず彼の口から、何かを気付いたような声が漏れる。
気付いた事・・・・そう、割れた空の破片が落下してくるという事は、間違いなく下にいる自分達に降り注いでくるという事だった。
『逃げなきゃ!』
彼の頭の中で、瞬時にそんな考えが浮かんだ。
だが、頭の中でいくら思考が働こうが、身体が動かなければ意味がない。
まるで活動限界時間がきた汎用人型決戦兵器のように、彼の身体はピクとも動かない。
ほぼ間違いなく、連日の過剰な勤務と鬱による精神的な衰えが、肉体的にも精神的にも蓄積した疲労となって、彼のとっさの行動を妨げていた。
ザクッバリイイィィィィン!
痛みより先に自分のド真ん中から聞こえた、空が身体を通過して地面で割れる音を聞きながら、
『あぁ、死んだな。こりゃ・・・・』
冷静に、自分の状態を把握する彼だった。
だが、これは夢かうつつか幻か、次の瞬間、彼は突然奇妙な落下の感覚を感じる。
丁度、床が突然抜けたような、落とし穴に落ちたような感覚だ。
『あれ?』
彼の思考に、疑問系の言葉が浮かぶ。
彼は落ちてきた空にぶつかる瞬間、確かに目を瞑ったはずだった。
だが、目を瞑っていても視界が開けている。
さらに地面に立っていたはずが、いつの間にか空中にいて、頭を下にして地面に向かって落下しているのだ。
『あれれ?』
何がどうなったか思考がついていかない彼だったが、彼の意思を無視して急速に地面が迫ってくる。
そして想定される彼の落下点に、誰かが立っていた。
はっきりとは認識できなかったが、大きさからいって子供のようだと彼は認識した。
『危ない!』
そう思考した時には既に遅く、彼と子供はそのまま衝突した。
子供と衝突した瞬間、彼の脳裏に様々なイメージが浮かび上がる。
別次元の自分・・・・
死んだオリジナル・・・・ 甦生した三三〇人余のコピー・・・・
各世界に散らばった自分達・・・・ 本来なら交わらない世界・・・・ 敗北?・・・・
平行世界・・・・ 記憶操作・・・・
時空間犯罪・・・・ 次元断裂弾・・・・
爆発・・・・
被害者・・・・ 作られた記憶と知っている情報・・・・
監視者・・・・ この世界で生きる・・・・
彼の思考に、様々なイメージが浮かんでは消えていく。
感覚的には、記憶をいろいろと思い出していくような感じだ。
それはあまりにも強烈で、自分が過去にそういう体験をしたと思えるほどであった。
自分はかつて、時空間犯罪者の犯行に巻き込まれ、爆散して死んだ事があると・・・。
犯罪の巻き込まれかたが結構あんまりだったので、死後、バラバラになった肉片から誰かの手で、蘇生術で何百人もの自分が復活した事を・・・。
そして、誰かにより、それぞれ任意の時空間に居ついた事を。そして、余計な事で悩まないよう、これまでの記憶を忘れる処置がされた事を・・・。
自分達は今生、原則であれば互いに邂逅する事すらない存在である事を・・・。
それが一組とはいえ邂逅した事に、一体何の意味があるのか?
・・・という、下手しなくても厨二病全開な思考が頭の中からイメージとしてどんどん湧き出てきた。
『こういう時って、産まれた時から今までの記憶が、走馬燈のように流れるんじゃないのかよ!何だよ、このイメージは!』
思わずセルフでツッコミを入れた瞬間、地面に叩き付けられたような衝撃を感じ意識を失った。
『・・・・・・・・・・・・・・ぅ・・・・うぅ』
彼は小さく呻いて、意識を取り戻す。
『・・・・ココは?』
彼の視界には、白い靄みたいなモノが充満している、ただただ白い空間が飛び込んできた。
『結構昔の特撮映画みたいな景色だな』
ホリゾントの背景に白い布ですっぽり覆われた箱が無造作に置かれているような・・・漠然とそう思った時、不意に横から人の気配を感じた。
「あっ、意識が戻ったようですね。まずは、どちらの意識にせよ、覚醒して何よりです」
若い男のような声が、彼の耳に届く。
「あぁそうそう、身体は動かないと思いますが、気にしなくていいですよ・・・・ココは時空間と時空間の狭間・・・・わかりやすく言えば、あなたの夢の中だと思ってくれればいいです」
『・・・・時空間の狭間って言ったからには、夢の中なんて誤魔化しみたいな言い方しなくても良いよ。時空間の狭間って事は、今まで自分が生きてきた世界と、気を失う前に見た世界の間の、時間とか距離とかの空間から隔離された狭い場所って認識で良いのかな?』
「ほほぉ~!当たらずとも遠からじですが、そこまで認識できるだけの知識が備わっている人だと思っていいんですかね?」
『伊達にSFやファンタジー小説、ラノベ、マンガ、ロボットアニメ、映画なんかを見て育った訳じゃないからね。そこら辺の普通の人より、非常識な事に対しての理解力はあると思っているよ』
「・・・・という事は、おっさんの方の意識が覚醒したって事ですか?」
『おっさんって・・・・否定はしないが、何か感情が納得しないなぁ。せめて、お世辞でもいいからお兄さんと言って欲しいもんだな』
「言って欲しいんですか?」
『かわいいお姉ちゃんなら凄いご褒美なんだろうけど、男に言われても嬉しくないな』
「結構わがままですね。では、何とお呼びすればいいですか?」
『いや、おっさんで構わないよ。他に言い方、良いのないでしょ?』
「・・・・いい性格してますね。鬱病を患っているとは思えないくらいですね・・・・まぁ、いいです。実はおっさんに伝えたい事があって、この時空間の狭間にお呼びしました」
『狭間という割に、思考は自由でも身体は動かないから、どちらかというと精神世界的なモンのような気はするけど・・・・』
「まぁ、恐らくおっさんの精神に肉体が馴染んでないだけだと思いますので、じきに動かせるようになると思いますよ」
『?・・・・どういうことかな?』
「そのうち分かりますよ・・・・それより、ここまで会話しておいて何ですが、いっこうに『お前は誰だ?』とか聞いてきませんねぇ」
『何だ、聞いて欲しかったのか?それじゃ・・・・お前は誰だ?(棒読み)』
「そんな棒読みな台詞が聞きたかった訳じゃないんで、もういいです・・・・それより話は戻しますが、おっさんに伝えたい事というのは、この辺の時空間の異常についてです」
『異常って・・・・・・空が割れた事かな?』
「イグザクトリィ!その通りでございます」
『このていねいすぎる態度・・・神経にさわる男だ・・・・って、マンガの台詞を言わさないでくれ。懐かしいじゃないか!・・・・で、空が割れた原因は?』
「(マンガのネタを)よくご存じでしたね・・・・それと、空が割れた原因ですが、その前に私たちが何者なのか知っていただいた方が理解が早いかと思われますので、一応言っておきます。私たちは、簡単に言ってしまうと、この辺りの時空間のバランス取りを担当している管理者みたいなものです。おっさんの知ってそうな言葉で言うと、監視者とかタイムパトロールとか天使とか使徒みたいなものです」
『うん、まぁ・・・・何となくのイメージは湧いた』
「それでですね・・・・チョットというか、大きな事件がありまして、この辺りの人員総出で対応したんですが防ぎきれなくてですね・・・・この辺りの、向こう三〇〇〇世界くらいで空が割れたり融合、分離したりなどの影響が出ています」
『三〇〇〇って言ったら、かなりの規模じゃないか?』
「いえ、時空間全体でそれこそ無量大数単位で世界が存在しますから、三〇〇〇程度では大規模とは言えないです。それに、事故の規模からいったら、三〇〇〇程度で済んだ事に、褒めて貰っても良いくらいですよ」
『それで、大きな事件って、何があったの?』
「機密事項も含まれるので詳細は話せませんが、ダイジェスト風に端折って説明するとしても、結構長くなって二時間近くなりますけどいいですか?」
『最初のさわりの部分だけ聞かせて貰えるかな?それで判断する』
「まぁ、いいですけどね・・・・そもそもの発端が、今の時空間から遡る事、一三七億年と少し前、場所は・・・・」
『OK、分かった。伝えたい事の話を続けて』
「賢明です。まぁ、機会があれば、そのうちお話しする事もあるでしょう・・・・で、メチャクチャになったこの辺りの時空間を復旧するべく、只今出来得る限りの人員を導入して時空間の修繕作業にあたっている訳ですが、緊急という事でおっさんの案件に対応するよう指示が来ましたので、私がココに来たという次第です」
『何で、緊急の案件なの?』
「さぁ?私たちは単純に(組織の)末端の人間で、上から指示が来たのでココに来ただけですし・・・・まぁ、あくまで私の推測ですが、おっさんの出自に関連してるのかなぁと思ってるんですが・・・・ただ現状では、それとは別の意味で緊急の案件なのが分かります」
『出自?』
「えぇ・・・・もっとも、コレも機密事項に含まれてますので、今はお話しできませんが」
『あ、そうなの・・・・んじゃ、別な意味での緊急って、どういう事?』
「現状、そのまんまですよ。おっさん、子供の頃の事を思い出せますか?」
『何だよ、藪から棒に・・・・子供の頃って言うと、『おはようKOどもショー』で赤男とか神男とか緑男とかやってて、民放の子供向け番組にカッパのカーたんが出てて、教育番組のチャンネルでノッポさんがまだ若かった時の辺りかな・・・・・・・・あれ?同時期に『しまじROう』っていたっけ?あれ?『あんPAN男』は絵本しかなくって、『PIカチュー』とか『ワNワン』なんて、まだいなかったはず・・・・あれ?どういう事?』
「そういうことです。簡単に言うと、おっさんの意識は別の時空間にいた自分と衝突した際、元々の身体の方は分断したまま残ったものの、意識だけ別次元の自分の身体にいた意識と融合したっぽいです」
『『っぽい』、あのね~』
「何分滅多にない事例ですし、この場で断定は出来ませんよ」
『・・・・まぁ、いいけどね』
「それに、おっさんも自覚症状はないですか?例えば、身体が軽くなったような気がするとか、身体の一部が元気になって若返った気がするとか・・・・」
『言われてみれば、ずっと前からこもったように塞いでいた気分が、何か晴れやかになっているな。頭も軽くなったような気がして、今なら何でも素直にいろんな事が覚えられそうなくらいだ』
「それに、頭の回転が速くなって、的確にツッコミ入れられそうなくらいな気分ですかね?」
『そうそう・・・・確かに言われてみれば、喫緊の自分にしては、頭の中がすっきりしていて、即座に返答しながら別の事を考える余裕ができているな。何で?』
「まぁ、あくまで仮説ですが、元々の古い身体から意識が分離した際に、鬱的なものも古い身体に残したままになったとか、若い身体になって精神が活性化してきたとか、そんなところじゃないですかね?」
『なるほどねぇ・・・・それが一番、理由としてしっくりくるな。だとすると、元々の若い自分の意識はどうなっちゃったの?』
「さっき思い出して貰った時に、小さい頃の記憶が二重になっていたでしょ?単純に二つの意識が融合しただけだと思いますよ」
『そうなのか?』
「えぇ、多分そうだと思いますよ・・・・ってちょっと待ってくださいね」
『ん?耳に手を当てて、どうしたの?誰かからの通信かな?』
「まぁ、そんなもんです・・・・・・・・・・・どうやら他の場所にいる仲間の作業がそろそろ終わりそうなのと、おっさんの案件の方も融合してから時空間的に安定してきているんで、もう大丈夫っぽいです」
『なるほどね、姿は見えないけど、他にも人がいるんだ』
「えぇ、そうですよ。おっさんの意識が戻った辺りから、急速にメチャメチャだった時空間が安定してきたそうで、やはりおっさんの案件が混乱の原因だったみたいですね」
『人一人がどうこうなるだけで安定したりメチャクチャになったりする程、時空間ってのは脆弱に出来ているのか?』
「いいえ。通常はこんな事はあり得ないんですけど、今回は特別って事でしょうねぇ。緊急の案件って事で指示が飛んでくるくらいには・・・・それじゃ、この辺はだいぶ安定してきたんで、次の作業現場に行かせて貰いますね」
『ちょぃと待った。この後の、俺の処遇はどうなるんだ?元の身体がなくなったんだったら、元の時空間には戻れないんだろ?』
「まぁ、そうですね。でも、いいんじゃないんですか?もう一度、若くなって人生やり直しが出来ると思えば・・・・」
『凄っげぇ無責任な言い方だなぁ・・・・』
「だって、戻りたいですか?毎日ストレスに晒されて、鬱になっても仕事を休む事も出来ず、会社も潰れて明日からの生活に頭を悩ませる世界に?」
『・・・・・・・・・・・・新しい人生を、がんばって生きていきます』
「ですよねぇ・・・・それじゃ、そろそろ身体が動かせるようになると思いますので。私たちはコレで失礼させていただきます」
『ハイよ』
「え~っと、次は・・・・・・あぁ、運がよければ、短時間ですが一〇年後くらいに相まみえる事が あるかも知れませんね」
『そうなの?』
「えぇ、まぁ、あくまでも可能性の話ですが・・・・それでは、また会う機会があればその時に。これからの第二の人生が実りあるものになる事を祈ってますよ」
『・・・・ハイよ』
遠くなっていく人の気配を感じながら、返事をした辺りで自分の意識が再び薄れていく事を自覚した彼は、抗う事なく静かに精神の流れに任せ、意識の深淵にゆっくりと飲み込まれていった。
どれくらい時間が経ったのだろうか?
彼は、ゆっくりと意識を取り戻しつつあった。
朦朧とする意識の中で、彼は徐々に思考を始める。
「参ったねこりゃ…いきなり、こんな展開になるとは思わなかったな…って、あれ?」
微妙に視界に違和感を覚えて、彼は辺りを見回す。
違和感の原因は、さっきの夢の通りであれば分かっていた。
妙に視界が低くなっているのだ。
おもむろに両手を顔の近くまで持ち上げて、軽く握ったり開いたりを繰り返す。その手は、明らかに子供の手だった。
「・・・・本当に、子供に戻っちまったんだなぁ」
半ば感心ともとれる呟きをしつつ、ゆっくりと彼は立ち上がる。
「ホンジャま、『新しいパンツをはいたばかりの正月元旦の朝のよーによォ~ッ』って感じのスゲーッ爽やかな気分というか、精神的に凄く軽くなった感じがしてるところで、第二の人生始めますか・・・・」
誰に聞かせるでもなく一人呟いた彼は、記憶にある自分の家に向かうべく、その場から一歩踏み出した。
これがこの世界における、彼=山川 玲(おっさん)=御保路 零(子供)の第二の人生の始まりだった。




