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道化師は止まらない  作者: しみず みし
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第0話  序

投稿したつもりが、自分のミスでされてませんでした・・・。

取り敢えず、植民星の独立戦争を描いたロボットアニメのように、さらっと触りだけ・・・。


 ()は、夢を見ていた。


 それは、何処にでもあるような街並み。

何処にでもあるような商店街。

何処にでもあるような店並び。

何処にでもあるような・・・。

それは、ほぼ間違いなく帰れそうにない、彼の住んでいた世界(●●●●●●●●●)だった。


『これは・・・・夢だ』


 彼は、ココが夢だと自覚していた。

何故なら、人っ子一人、道に居ないからだ。


人気のない商店街を、彼はただただ黙って歩く。

人どころか犬猫すら見かけない。


 商店街を歩く彼は、ふと足を止める。


 そこは、一軒のそば屋だった。


しかも、立ち食い主体の・・・。

 彼はフラッと()かれるように、自然な動作で中へと入る。


『・・・・・・・・』

 立ち食い用のテーブルが何脚かと、店内側面に這うようにして存在する厨房、ソレを囲い込むようにカウンター席がある。

カウンターの隅にお握りや種物と呼ばれる天ぷらやコロッケを並べたショーケース。要所要所に整然と配置された割り箸入れや薬味の容れ物。

厨房の中では食器の洗浄用の水が流れ、そばを湯がく大きな寸胴がクツクツと()だっている。

流れる水の音と寸胴から聞こえる小さな茹だる音、そして寸胴にかけられた火の吹き出る音が店内に静かに充満していた。


 ココにも、人は居ない。


 だが彼は、気にする様子もなく無言でカウンターの席に向かうと、その一つに腰をかける。

そして後ろを振り返り、壁に貼られた品書きをざっと目を通す。

いつになく真剣に品書きを眺める彼の視線は、メニューの端にあった一文の所で動きが止まった。


 そこには、こう書いてあった。


【そば湯あります】


 この文が目に止まった瞬間、彼は注文するモノが決まった。

品書きから視線を外し、おもむろに項垂(うなだ)れるように頭を下げて厨房から視線を外し、左右の手を組んで顔の前に持ってくると、呟くように彼は言葉を口にした。


「ざる蕎麦・・・・大盛りで」

 ざる蕎麦・・・そう、四角い器の上に敷かれたザルの上に山型に蕎麦が盛られ、その山の上部に刻んだ海苔が乗せられたそれは、彼が愛して止まない食べ物の一つだ。


『海老天やかき揚げ天なんかの天ぷら(当て字で天麩羅)も良い。コロッケなんかの揚げ物も良い。山菜やニシンの煮付け、牛すじや生卵なんかの具も悪くない・・・・だが、そば湯があって、かけ蕎麦の汁よりも濃厚なカツオ出汁(だし)の味が楽しめるなら、まずは盛り蕎麦かざる蕎麦だろう。そして、カツオ出汁もそうだが、ここ最近食べられなかった海苔も味わえるとなったら、ざる蕎麦一択だろう!』

彼は心の中でそう呟き、ざる蕎麦を注文した理由を自答する。


 そう、彼は今、カツオ出汁や海苔の味、炊いたご飯、漬け物、納豆、なめ茸、昆布出汁、煮物、味噌汁、醤油、蕎麦、うどん、ケチャップ、ラーメン、ジャンクフードなどの味を渇望していた。

いや、飢えていると言ってもいい。

 それらの味が、夢の中でしか味わえない現状だからだ。

『普段気にする事もなく、何とも思わない食べ物でも、いざ食べられないと分かると、無性に欲しがるようになる。我ながら、現金なものだな』

徐々に高まる期待感を抑えられず、自嘲気味に自己分析する。

小説やエッセイ、ニュースのコラムなどで食べ物に渇望する気持ちなど知識では知っていたが、『所詮他人事、自分には関係ない』と思っていた頃の自分に、三時間くらい説教をかましたい気分だった。


 普段、労なく食べられていたものが突然食べられなくなると、こうまで執着するようになるのかと、彼自身が半ば驚いている。

『食というモノ(●●)は、(あなど)りがたいモノだな』


そんな物思いに(ふけ)る彼の前方で、タンッとカウンターに何かが置かれる音がした。

視線を上げると、カウンターの上にざる蕎麦が乗っていた。


 漆塗りのような黒光りする四角い器。器の上に敷かれたザルと、その上に予想よりも多めに盛られた蕎麦切り、蕎麦の山の上方に散らされたたっぷりめの刻み海苔。


 紛う事なき、正真正銘のざる蕎麦だった。


 彼は無言でざる蕎麦の器を手前に寄せると、カウンターの上に立てかけてある箸入れから割り箸を取り出し、パチンと二つに割る。


箸で蕎麦を持ち上げ、半ばまで蕎麦つゆに浸ける。

微かに漂ってくる蕎麦の香りと、蕎麦つゆの濃厚なカツオ出汁の香り、そして蕎麦つゆの香りに隠れて漂う海苔の磯の香り。


ふんわりと鼻腔をくすぐる香りを少しの間楽しんだ後、おもむろに彼は蕎麦を口までたぐり寄せ・・・たところで、いきなり腹部に強い衝撃を感じ、あまりにも突然に、夢の時間は終了した。






「起きてぇ!大変なの!大変なの!」

 夢から意識が引き戻されると、最初に耳に飛び込んできたのは、そんな言葉だった。


 まだ夢から覚めたくなかった気分だが、腹部の圧迫感と胸を揺すられる感触に(わず)かばかりのいらだちを感じつつ、彼は不機嫌そうに目を開けた。

 夢の中とはいえ、食べたいと願って止まなかった蕎麦を直前で食べ損なったという悔しい気持ちが、行き場をなくしていらだちとなり、口から出た言葉にもいらだちの成分が含まれてしまった事は致し方ない。


「・・・・・・・・マルガか・・・・せっかくいい夢見てたのに」

彼は、自分の腹の上に乗って、両手で彼を揺り起こそうとしている少女に、ぶっきらぼうに話しかけた。


 くすんだ金髪を首の辺りまでまで伸ばし、滲み出る溌剌さを濃い青の目に宿し、臙脂色に近いシャツとスカートの服の上から白い前掛けをした一〇歳程度の少女、マルガは一瞬、彼の不機嫌そうな声を聞いてキョトンとしたものの、形の良い唇を大きく開くと、大きい声を彼に浴びせかけた。

「夢なんかどうでもいいのよ!それより大変なの!レイ、早く起きて!」

呼びかけられた彼=レイは、少し面倒くさげに静かに答える。


「・・・・起きてるよ。で、どうした?」

「大変なの!お豆さんが、お豆さんが・・・・」

「お豆さん・・・・・・」

「・・・・・・レイ、何で私のスカートの辺りを見て、動きを止めてるの?」

「いや、何のお豆さんだったかなと・・・・」


『お豆さん』と聞いて、とっさに『ふJIっ子』にいかず下ネタ方面に思考が行ってしまった自分に呆れつつ、そのネタが少女には通じなかったので、何もなかったようにマルガに聞き返す。


「お豆さんっていったら、昨日、レイが容器の中に詰めて何かしてたお豆さんに決まってるじゃない。忘れたの?」

「あぁ、煮た大豆の事ね。だったら普通に、大豆とか煮豆とかで言ってくれよ」

「?・・・・お豆さんは、お豆さんじゃない?」

「あぁ、まぁ、そうだね・・・・で?お豆さんが、どうしたって?」

「そう、大変なの!とにかく、早く来て!」

「まぁ、行くのは(やぶさ)かではないけど、行くのは俺だけ?」

「ユウの方は、お姉ちゃんが呼びに行ってるわよ。だから、レイも早く!」

「あぁ、ケイトはそっちに行ったんだ・・・・やれやれ、事情があるとはいえ、年頃の娘さんが若い男の部屋に乗り込んでいくのは、おじさん感心しないな」

「ユウと同じ年の癖して、何、親父臭いいやらしい事言ってるの?それにレイと違っていやらしい事や説教臭い事を言わない分、ユウの方がずっと紳士的よ。だから、ユウの方にお姉ちゃんが行くように、私が提案したのよ」

「何で、そういう所だけませてるかなぁ。女の子を見て()でるのが好きなだけで、別にどうこうしたいとは思ってないんだけどなぁ・・・・」

「発想がいやらしいのよ。大体、男が女を見るのって、下心なしには有り得ないわ。娘や孫でもない限り、愛でるだの何だの、さも下心がないって言ってる男の台詞は、全く信じられないわよ」

「心は、赤裸々(せきらら)スケベで俗物的(スノッブ)な親父なんだけどな。だが、俺の方から女の子にやらしい事する気は、さらさらないぞ」

「・・・・・・・・女の子の方から、迫ってきたら?」

「もちろん、『据え膳食わぬは男の恥』って言うことわざもある位だから、おいしく頂くに決まってるじゃないか」

「やっぱり、いやらしいじゃない。そんな人に、お姉ちゃんを不用意に近づけたくないわよ」

「普段から、俺をどういう目で見てるんだよ、マルガは・・・・。マルガとは、一度じっくり話し合う必要がありそうだな」

「身の危険を感じるから、一切遠慮するわ」

「胸のペタンコな幼女に、性欲は起きません(キリッ)」

「幼女って言われるほど、幼くないわよ」

「なら、あと数年のうちに、俺から情欲を掻き立てるような、いい女になんなさいってぇの・・・・・・よっ!と・・・・んじゃ、準備終わったから、行こうか」

今までの会話をしながら寝床の上で上着などを着込んでいたレイは、最後にズボンを履くと、勢いをつけて寝床から立ち上がる。


 こうしてレイは、マルガの後について、昨日作業していた工房に足を向けて歩き始めた。

『やれやれ、ココに来て数日、流れに任せてズルズル過ごしてるけど、本当にこれでいいのかな?と思わなくもない今日この頃だな』

レイは歩きながら、ふとそんな事を思う。

ココの世界に来て数日、ようやく腰を落ち着ける場所を確保したレイは、この時空間の世界に来るまでの経緯を思い返さずにはいられなかった・・・。

 そう、思い返せば間接的には十年ちょっと前、直接的には数日前の出来事からの事だった。


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