第一話 地球に落ちていく小さな隕石
G-20と申します。架空戦記創作大会2026春お題➀:第二次世界大戦中に史実にない天災が発生する架空戦記、始まりました。
今回はプロローグ回かつ天災の前兆回なのでとても短いです。
無限に広がる大宇宙。
光すら届かぬ深淵の中で、時間という概念さえ希薄になる空間を、ひとつの小さな影が沈黙のまま駆けていた。
それは名もなき岩塊に過ぎなかった。
遥かな昔、どこかの星の砕けた欠片として生まれたそれは、誕生の記憶すら持たぬまま、気の遠くなる年月を虚空に漂い続けてきた。恒星の爆ぜる光も、惑星の巡る規則も、その傍らをただ通り過ぎていくだけ。何かに導かれるでもなく、何かを目指すでもなく、ただ慣性だけに支配されて進み続ける存在。
そこに意思はない。
意味もない。
人類の営みも、国家の興亡も、戦争も思想も、その旅路にとっては塵ほどの重みも持たぬ。数え切れぬ文明が生まれては滅びる時間の流れすら、この小さな岩には一瞬の瞬きにも等しい。
だが――その日。
その軌道の先に、ひとつの惑星があった。
青く輝く星。
薄く光をまとい、闇の中に浮かび上がる、生命の気配を宿した天体。
引力。
それまで無関係であったはずの力が、確かな意思を持つかのように岩塊を絡め取る。わずかな軌道の歪み。ほんの僅かな角度の変化。それだけで、数億年の漂流は終わりを迎えた。
隕石は、静かに、しかし抗いようもなく落下を始める。
最初は緩やかだった。
だが、次第に加速し、その速度は増し続ける。背後に広がる宇宙は遠ざかり、眼前には青い球体が急速に膨れ上がっていく。
やがて――大気圏。
虚無の冷気に包まれていた表面が、見えない壁に触れた瞬間、世界は一変した。
摩擦。
それは宇宙に存在しなかった感覚。
空気という、極めて薄く、それでいて確実に存在する物質との接触が、隕石の表面を一瞬にして焼き始める。
赤熱。
白熱。
闇を裂く一条の火。
それはもはや単なる岩ではなかった。夜空を貫く光の矢、流星としてその姿を変え、地上へと一直線に突き進む。
外殻が焼け、剥がれ、砕け散る。
長い宇宙の旅を耐え抜いた岩肌は、大気圏という灼熱の壁の前に容赦なく削られていった。表面が溶け、流れ、剥離し、次々と失われていく。
火花となった破片が尾を引く。
蒸発した鉱物が淡い光の筋を夜空へ刻む。
その軌跡は、一瞬でありながら確かな存在を主張していた。まるで、この小さな石の長い旅路を、最後に誰かへ示すかのように。
そのたびに質量は削ぎ落とされる。
形は歪み、角は削れ、表面は滑らかに焼かれていく。かつて人の頭ほどもあった岩塊は、拳大に、さらに小さく、やがて鶏卵ほどにまで縮んでいった。
それでも、なお落ち続ける。
雲海を貫き、風を裂き、轟音を纏って。
空気の抵抗は悲鳴のような音を生み、衝撃波が周囲を震わせる。だがその音は、まだ地上には届かない。ただ空の高みにおいて、燃え尽きようとする存在の最期を告げているだけだった。
やがて雲を抜ける。
眼下に広がるのは、白と黒に塗り分けられた冬の大地。
黒海沿岸。
雪を頂いた山々が連なり、凍てつく海が重く静かに広がっている。港は氷に縁取られ、街は白く沈黙していた。
戦火からわずかに距離を置いたその地は、一見すれば平穏そのものだった。
だが、その一角では――
世界の命運を左右する会談が開かれている。
国家の未来。
戦争の終結。
新たな秩序。
人類の歴史が大きく舵を切ろうとしている、その瞬間。
しかし。
空より落ちる石片は、それを知る由もない。
ただ重力に従い、ただ落ちる。
燃焼の果てに残された核は、もはや掌に収まるほどの大きさしかなかった。直径にして数センチ。かつての姿を知るものは、もはやどこにも存在しない。
それでもなお。
その小さき訪問者は、流星の名残をまといながら、大地へ向けて一直線に降下していく。
夜空を切り裂く光は、刹那――
星がひとつ、地上へ零れ落ちたかのようであった。
ということで天災の前兆でした。ここからとても小さな天災とそれが齎す歴史の変化が始まります。
恐らく「架空戦記創作大会2026春お題➀:第二次世界大戦中に史実にない天災が発生する架空戦記」で投稿される中では最も規模が小さい天災になろうかと思います(もしかすると、もっと規模の小さな天災で投稿している方もいらっしゃるかもしれませんが。)。
それでは次回をお楽しみに。




