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魔引きの魔女  作者: 片桐 楚江
〈激突編-下-〉
29/40

プロローグ

『砂漠の薔薇』が不法占拠した第三八六二号島──通称敵本島──を解放し、世界情勢の混乱を防ぐため、ついに棗たち魔女一派は出撃した。

 万全の体勢で迎え撃つ木嶌イングリッド率いる『砂漠の薔薇』を、はたして撃ち破ることができるのだろうか。

 大切な相手と居場所を作りたい。自らの尊厳を取り戻したい。苦悩する仲間の力になってあげたい。金のために戦う。家族のために戦う。大切に人のために戦う。

 それぞれが千差万別の目的と理想を抱き、一つの戦場にて激突し、意地が、誇りが、涙が、激しくぶつかり燃え上がる。

 裏世界田舎町活劇第五弾。

 多くを捨て去り、傷付いた激闘の果てに、思い描いた未来は存在するのか?


「お、やっと来たか。待ちくたびれたぞ、ナツ」

 転移の抜けた先で待ち構えていたのは、いつも通りの皮肉を張り付けた詩乃の顔だった。

「詩乃、おはよう。いよいよ本番だけど、大丈夫?」

「誰に言ってんだ。お前こそ、ビビッてベソかかないように気を付けろよな」

「はん! 上等だよコンチキショー!」

 いつものように軽口を叩き合い、どちらともなく拳を突き合わせる。

「相も変わらず余裕ですね、姉上」

「棗が一番最後だよ~」

「遅刻はしてないけどね。神経が太くて羨ましいわ」

 いつもの面々に青さんを加えた、気持ちが落ち着くのか精神がたぎるのかよくわからん顔ぶれが並ぶ。

《おはようございます。みなさんお揃いのようですね》

「みんな、おはよう! 今日はよろしくね」

 少し遅れてやって来たケンと仁も、開口一番にあいさつしてくる。

「にしてもあなたたち、いいところ知ってるわね」

 わずかに朱が射す夜明け前の空を見上げ、青さんが感慨深気に呟く。

 左右に延々続く断崖絶壁に大小様々な岩石が浮遊し、月明りとわずかに朝日を混ぜ合わせた光が、周囲に武骨な水玉模様の影を映しだしている。

 ここは半月ほど前、『崩壊石』の飛空部隊を相手に大立ち回りを繰り広げ、見事壊滅せしめた九重里諸島帯・椛岳外縁部の裂け目だ。

 人目に付く可能性が限りなく低く、万が一『砂漠の薔薇』に気取られても、障害物が多く有利に立ち回れる。根城にする魔法少女たちもすでになく、これほど集結地点にうってつけの場所もあるまい。

《我らが王に陛下。みなさんも、おはようございますであります》

 みんなして集まりワイワイやっているところに、ばさりと双翼をはためかせ、魔獣飛翔軍の指令にして『郷愁作戦』飛戦隊長であるザイツィンガーが静かに降り立った。

《すでに我ら飛戦隊一同、準備は完了しているであります。なんなりとご命令を》

 着地早々、うまい具合に翼を傾げて敬礼するザイツィンガー。普通にカッコいい。

《魔女サマーッ!》《オハヨウゴザイマース!》《本日ハガンバリマショウーッ!》

 声援に振り向くと、絶壁で各々器用に待機した魔獣たち数十体が続々と声を上げてくる。壁面にへばり付いている者から浮き岩にぶら下がっている者まで、種族同様その姿は実に多種多様だ。

「おはよーっ! こっちこそよろしくーっ!」

《《ウォォオオォォーー‼》》

 こちらが声を大にして返すと、あちらも負けじと熱狂が連鎖していき、より一層暑苦しくなる飛翔軍ご一行。士気が高いに越したことないけど、いいのかこれで?

 それにしても、これほど多くの魔獣が一か所に集まっているのを初めて見たな。別の場所では灯子たちと待機している地戦隊・深戦隊も勘定に入れれば、単純計算でもこの三倍近くはいるわけだ。ケンたちは疲弊と消耗により数が落ちているなんて言っていたけど、あたしからしてみればこれでも十二分に大軍勢だと感じる。

「……ずいぶんと厳ついもん抱かせてんじゃないのさ?」

 魔獣たちに手を振りつつ、その中にちらほらと爆装した一団がいるのが眼に留まる。もしかしなくても、会議の時に触れた攻撃隊だろう。

 翼竜や鳥類たちは翼の内側に、昆虫類たちは胴体に、それぞれ爆弾や魚雷を装備して出撃の時を待っている。生物という不定形な存在に、無機質な物体が装備されている光景にとてつもない違和感を覚えるも、それは人間も同じだと思い至り、口をつぐむ。

《爆弾に魚雷はもちろん、ロケット砲や携帯迫撃砲まで、用意できうる限りの装備を揃えているであります。地上班降下後の支援も完璧であります》

「で、どこから?」

 ドヤ顔で太鼓判を押すザイツィンガーに、もっとも重要な問いを投げる。武器や道具が多いに越したことはないけど、問題はその出所だ。

《世界各地の反社会組織に汚職や賄賂として横流しされたものをこっそり拝借したであります。決して正規軍からちょろまかしたりはしていませんので、安心してほしいであります》

「……そうかい」

 窃盗は犯罪だが、場所が場所だけに強く出られない。世界は野望に満ちている。

《ソンナ辛気臭イ顔センデ下サイヨ魔女サマ!》《コチラ世界デノ大事件ヲ未然ニ防イダノデスヨ!》《平和ト平穏ニ貢献シタト思エバ安イモノ!》

 先の思いやられる状況に辟易していると、向こう側から自らの置かれた境遇をこれでもかと笑い飛ばす攻撃隊の面々。

 その舌の根の乾かぬうちに、あいつらはそれを担いで内輪揉めに行くってんだから、魔獣ってのはつくづく業の深い生き物だ。人間も似たり寄ったりだけども。

 急降下爆撃とは読んで字のごとく、目標の上空より降下し、勢いに任せて爆弾を打ち込む攻撃方法。機銃や砲塔はもちろん、艦橋や煙突など上部の構造物に対して有効。

 急上昇爆撃は逆に上空の目標目がけ、上昇して攻撃する。重力に逆らうため急降下爆撃より難易度は跳ね上がるものの、下部砲塔は地上の施設を容易に狙えるため、破壊できた際の戦術的効果は大きい。

 理想論では急降下爆撃で甲板上部を破壊し、間髪入れずに急上昇爆撃で下部砲塔にも損害を与えるのが定石ではあるものの、あくまで机上のお話。現実は向こうさんも迎撃に躍起になるので、一方でも軌道に入り、かつ一発でも命中すれば大成功といった寸法か。

 小粒が多い爆弾に対し、細長い円筒形状をした魚雷はかなりの大きさだ。

 元々は船が点検や休息で海上に浮かんでいる時、その側面へ奇襲するために生まれた兵器なのだが、技術が進歩した現在では、空中戦で使われるのが主流となっている。

 じゃあもう『魚』雷じゃないじゃんと、世界中の誰もがツッコみそうなものではあるが、なんでか未だにその名で呼ばれ続けている不思議な奴。

 爆弾も十分強力だけど、こいつは炸薬量がハンパではなく、駆逐艦程度であれば当たりどころさえよければ一発の命中でも航行不能にできる。戦艦や正規空母でさえ数発命中させられれば内部の弾薬庫に誘爆させて船体を真っ二つ、なんて芸当も不可能ではない。

 蚊トンボのような小さな飛空機でも、堅牢かつ巨大な軍艦を沈めうる可能性を見出す。魚雷とはまさに、弱き者が強き者を打ち倒す下克上の代名詞とも呼べる兵器なのだ。

「……ふう」

 ──と、頼んでもいないのに叩き込まれたじいちゃんのうんちくが、眼に写るものを片っ端から脳内解説していく。……人生ってホント、何が役に立つかわかんねーな。

「何はともあれ、あいつらを守るのがあたしたちの仕事ってわけか」

《いかにも。責任重大でありますぞ》

 半ば言い聞かせるように呟いた独り言を、ザイツィンガーが後ろから掬い取る。

 爆弾にしろ魚雷にしろ、攻める上で心強いことこの上ないが、使う瞬間までは重りでしかなく、どうしたって動きが鈍くなる。そしてそれだけの破壊力を備えた兵器を抱いていれば、向こうも優先して墜そうと攻撃を集中してくるのが常。銃弾が一発でも掠めようものならば、魔獣など火だるまになる間もなく粉微塵に吹き飛んでしまう。

 そうさせないために彼らを護衛し、時に自身が盾となってでも守り抜くのが、あたしたち戦空隊の役割であり使命というわけだ。

《総員傾注であります!》

 ザイツィンガーが一喝すると、そこかしこで興じられていた雑談がサッと止み、耳も痛くなるほどの沈黙が訪れる。こういう切り替えの早さは、さすが魔獣といったところか。

《我らが王よ》

《はい》

 ザイツィンガーに促され、ケンはゆっくりと全体を見渡せる足場へ歩を進める。

《みなさん、おはようございます》

《《オハヨウゴザイマス‼》》

 日常と大差ないのんびりしたケンのあいさつに、集まった魔獣たちが唱和する。

「朝礼かよ」

 真っ先にんツッコんでくれた詩乃のおかげで、喉まででかかったツッコみを飲み込む。チラ見すると、みんなも似たり寄ったりな顔をしていた。

《今更、細かな話をする必要もないでしょう。みなの武運長久と、作戦の成功を祈ります》

 まさしく簡潔に、ケンは本当に一言だけで話を締めてしまった。長話をするような奴じゃないけど、短すぎるのもどうかと。

「じゃあ、棗姉ちゃん」

《代表して激を》

「うう! やっぱあたしがやんのか……」

 もしかしたらそうなのかなーと思ってたらやっぱそうだった。なぜ魔獣連中は揃いも揃ってあたしを喋らせたがるのか? てかこいつ、このためにさっさと切り上げやがったな?

「はあ、しゃーないか」

 衆目でお膳立てされてしまった手前、ここで退いては全体の士気にも影響がでる。とにかくなんでもいいか発破をかけ、この場を盛り上げなければ。

「よし、じゃあ──征くぞぉぉーーっ!」

 前口上とかやりだすと収拾がつかなくなりそうだったので、それっぽく拳を振り上げて叫んでみた。なるほど、やってみると確かに短く済ませたくなるな、これ。

《《……ウオォォ応ォォォォ‼》》

 若干の時間差はあったものの、魔獣たちは毎度の咆哮で応えてくれた。優しい。

「なんかいつもより雑じゃない?」

「悪い意味で手の抜き方を覚えましたね」

 形だけでも盛り上がっている魔獣たちとは打って変わり、痛いところを指摘してくる冷めた二人。文句言うならやってみろと。

「『太陽ルチル』とはずいぶん違うわね。ノリが軽いっていうのかしら」

「うちは大体こんな感じだ。やる時にはやるから問題ない」

 こっちはこっちでいい意味で力の抜けた二人。

《十分後に転移紋を開放! 各員、出撃準備に入るであります!》

《《ハッ!》》

 最後にザイツィンガーが引き締め、魔獣たちは装備の最終確認や、各編隊での打ち合わせに入り、岸壁は緊張感を帯びた活気に満ちていく。

《みなさんも、各飛戦隊へ騎乗願うでありますよ》

 こちらにも振り向き促してくるザイツィンガー。声色こそいつもと変わらないが、戦場という非日常が迫ってきているのを、嫌が応にも感じさせてくる。

 ここからは視覚共通に表示される情報で戦況を把握し、会話は念話のみとなる。

 互いの顔を直接見るのは、早ければ敵本島上陸時。それだって二・三人で運が良かったらって程度だし、全員が一堂に会するのは作戦完了後か、宮境町に帰ってからになるだろう。

「ね! 円陣組もうよ!」

『しばらくはみんなと会えない』という事実が、各々の不安を呼び起こしかけた時、唐突な唯姉さんの提案に、一同眼を丸くする。

「え、なんすか突然?」

「円陣って……円陣ですよね?」

 いきなりな提案もあり、詩乃と渚も及び腰。

「いいじゃんいいじゃん、やろうよ! わたし生徒会長だからやったことなかったし! 棗もそうでしょ? みんなで『オーッ!』ってやるやつ!」

「あーうん……ないね」

 言われてみれば、助っ人で日々の練習には参加しても、試合や大会には基本出ないので円陣を組んだ経験はなかった。

「ほらほら早く! 会長命令だからね! さあ、青さんも遠慮しないで入って下さ~い!」

「あらあら強引ね~。じゃあ失礼して」

 あれこれ考え立ちすくんでいると、年長組が押し切る格好で円陣の一部が形成されてしまった。これも唯姉さんなりの気の遣い方なんだろうか?

「「「……──」」」

 さすがにこのまま放って行ってしまうのも収まり悪いので、一瞬だけ三人で視線を交わし、渋々といった雰囲気で円に加わっていく。

『…………』

 五人でガッチリ肩を組み、ご希望通りに円陣を組む。

『…………』

 が、どうやら唯姉さんもここから先は考えていなかったらしい。やりたいことが先行し、その先を深く考えていない辺りがいかにもこの人らしい。

 ただ不思議と、これを解こうと言いだす者はいなかった。

 気持ちを、想いを共有できているという一体感に包まれ、ザワザワしていた気持ちが落ち着いてくる。両隣だけではなく、全員の温もりまで伝わってくるみたいだ。

「じゃあ、棗」

「今度こそ渾身のお言葉を一つ」

「んぐ──あんたらさ~」

 諸々に浸っているところ、唯姉さんと渚が敷居を上げまくってくる。

「……欠けさせない」

 ゆっくりと、本音を絞り出す。


「あたしたちも、『砂漠の薔薇』も! 人も魔獣も! 誰一人一匹欠けさせない!

「甘ったれだって……キレイごとだってのはわかってる!

「でもさ、そうしたいんだからじょうがないじゃん!

「誰もいなくならない方がいいじゃん! 絶対にさ⁉

「もちろん、みんなにも戦う理由と目的があるってのもわかってる。

「だから、みんなはみんなのやり方で頑張って。あたしはそうするって話なだけだから!

「以上! 武運長久を祈る!


「──プッ」「ハハハッ」

 誰かが吹き出したのをきっかけに、他の誰かにも波及していき、小さな円陣の中に明るい笑い声が響く。

「な、なんだよ! 文句ある⁉」

 ついムキになって叫ぶ。下を向いているおかげで、赤くなった顔を悟られないのは幸いだ。

「なんだ姉上、やればできるじゃないですか」

「これでこそ棗って感じだね!」

「アカリにも聞かせてやりたかったな。あいつもきっと大笑いしただろうよ」

「さっきの感想、撤回するわ。こんなに熱い子だったのね、あなた」

 期待に応えようとしたらしたでこの体たらく。どうしろと?

「あ~もう! とにかく絶対生き残ろう! 勝つのも大事だけど、一番大切なのはちゃんと家に帰ることなんだから!」

 名残惜しさを振り切って、一斉に円陣を解く。お互いの顔を見回し、無言で頷き合う。

「それじゃあ、征こう。またあとで」

「だな」「はい」「うん」「ええ」

 気前のいい返事を交わし合い、あたしたちは今度こそ、各々の到着を待つ飛戦隊へと急ぐ。



《魔女サマ! 我ら第二飛戦隊、出撃準備完了しております》

 駆け足で集合地点に向かうと、ベルゴースト率いる第二飛戦隊が万全の体勢で出迎える。

「遅れてゴメン! 今日はよろしく!」

 あいさつもそこそこにその背中に飛び乗り、騎乗用に装着された鐙に足をかける。安全帯で互いの器具を繋ぎ、各部に取り付けられた取手の握り具合を確かめていく。

「あのさ、ベルゴースト──」

《ご安心を。先日のお言葉、忘れてはおりません》

「そ、そう? ならいいんだけどさ」

 顔合わせで言った言葉が思い出される。


『命に代えてでもあたしを守ろうとか、そういうの考えなくていいから』


 あの言葉に嘘偽りはない。だとしても、自身の意見を他者に押し付け、捻じ曲げる行いであったのも確かだ。受け取り方によっては、相手の貴ぶ誇りに泥を塗ったと思われても仕方がない。気を悪くしてしまったかと内心不安だったが、怒ってはないようで安心した。

《いや何、私もこう見えてかなりの臆病者でして。正直なところ、魔女様にああ言っていただけて、むしろホッとしているのです。あ……後半の方は内密に願います》

「わかってるって。言ったあたしも同罪だし」

 ベルゴーストの紡いだ言葉が、卑怯や腰抜けの類とは微塵も思わない。

『闘争こそが魔獣の本懐』なんてお題目を掲げていても、魔獣だってあたしたちと同じ生きとし生けるものの一員だ。死ななくて済むのなら、死なない方がいいに決まっている。

《無論、墜とされるつもりなど毛頭ありません。戦場を飛び抜ける際は荒っぽくもなりましょうが、必ずや魔女サマを一番槍にして差し上げますとも》

「まかせなさい。これでもかってくらいに暴れてやるっての」

 とか言い合っている間に、敵本島へ座標固定された転移紋が上空に解放された。全軍が一気にくぐれるほど巨大にすると効率が落ちるらしく、直径は50メートルほど。それだって今まで見た転移紋の中でも一番大きい。

《出立は第一飛戦隊より順に通過します。我々は次鋒ですな》

「了解」

 簡素に相づちを打ち、飛び立つケンたち第一飛戦隊を見上げる。

《我ラガ王ーッ!》《陛下ーッ!》《俺タチモ続クゾーッ!》

 後続の部隊はこぞって歓声を上げ、迷うことなく先陣を切っていく自らの王たちを熱狂とともに送り出す。

「──っ!」

 仁はご丁寧にも、掌を『統一サイン』と呼ばれる、こっちの世界で平和を意味する形にして掲げてみせた。あっちもあっちで自軍の士気管理に余念がないな。

 魔獣たちの熱気に押され、第一飛戦隊は加速。転移紋に突っ込み、戦場の彼方へ旅立っていった。転移紋を通過する際に煌めく閃光が魔獣の数だけ明滅し、視界を焼く。

「まっぶし……」

 第一飛戦隊の転移が半分ほど進み、ついにあたしたちの番がやってきた。

《魔女サマ》

「あいよ。第二飛戦隊、出撃! 続けぇ!」

《《応ォォ!》》

 小娘のやや裏返った雄叫びに、付き合いよく応える第二飛戦隊のみなさん。ホント優しい。

 バサァ!

「くう⁉ うおっとと!」

 漆黒の双翼を羽ばたかせ、ベルゴーストが飛翔する。巻き起こる風と押し寄せる浮遊感に、早速背中の取手を握りしめる。

「ぐ、うう……っ!」

 速度が急速に増していき、背中が引っ張られる感覚に抗う。

 ここからではどう減速したところで転移紋からは逃れられない。そんな真似をすればつっかえた後続にぶつかって大事故は必至。本当の意味でもう引き返せない!

 決意を胸に刻み、あるいは腹を括り、あたしたちは転移紋に飛び込んだ。

 眼に写るすべてが閃光に埋め尽くされる。これが治まった時、そこが戦場だ!


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